プロローグ 俺がっ!!正確に言うとご近所さんがっ!!
「・・・・・・・・・・。」
鉄龍也は能力者である。
能力を持つか持たないかという区別をするなら、能力者と言えるだろうと龍也は思っていた。
そう。
あくまでも、能力者だと言えるだけであって断じて金持ちというわけではない。
金持ちではないのだから住んでいるアパートも二階建てのどこら辺にあるごく標準的なアパートで『あくまでも』そこらと比較して多少家賃が安かったという理由で選んだだけに過ぎない。
それが何の因果かは全く理解が出来ないが、『どちらかと言えば能力者』である龍也を『主』だと言って、銀色の髪が特徴的の女性(中身は機械ではあるが)二人が龍也を慕ってくれるのは・・・・・・・・・まぁ、分かりたくはないが、分かる範囲であるとして・・・・・・・・、だ。
「あのさ、ちょっと訊いていいかな?」
「ja。なんでしょうか、『マスター』?」
「ja。なに、『マスター』?」
髪が短く切り揃えられている女性、アインスと後ろ髪を長く伸ばして三つ編みにしている女性、ツヴァイは龍也に何か用事か?という様に彼に訊いてくる。
「一応、確認なんだが・・・・・・・・。その『マスター』ってのは、俺のことでいいんだよな?」
「ja。それがなにか?」
「ja。そうだけど?」
二人に確認をとると、あぁそうか分かった、と片手で頭を押さえると言った。
「その『マスター』が住んでる部屋を家主がいないうちに、しかも許可なしで『きれいに』お掃除してくれるってのはどうなんだ?」
「ja。それは主従関係において下にいる私に何もするな、と仰っていると判断してもよろしいと言っていると受け取ってもよろしいのですか?」
「違うそうじゃない。掃除するのはいいけど、掃除し過ぎて『外』も掃除するなって言ってるんだ。」
「・・・・・・・・?理解がしかねます。」
「理解しかねるとかじゃないんだ。めちゃくちゃ綺麗にして俺がいる階の廊下が綺麗になり過ぎて迷惑してるってこと言ってるんだよ。」
「迷惑?誰がです?」
「俺がっ!!正確に言うとご近所さんがっ!!」
「?なぜです?」
「お前が部屋の前だけを綺麗にしてるからだ、バカたれ!!掃除するなら廊下全体を掃除しろって言われたわ!!」
「・・・・・・・・・?はぁ?そうなのですか?」
「アインス・・・・・・。お前なぁ・・・・・・・・。」
訳が分からないと言うアインスに龍也ははぁ、とわざとらしくため息をつく。
そうなのだ。
彼女はなぜかしら龍也の部屋の前『だけを』きれいにして他は一切手を付けないので、なぜアインスは廊下全体を掃除しないのかと近隣住民に文句を言われたのだ。文句というよりかは苦言に近いのかもしれないが。
まぁ、そもそもアインスは人間を人とは違う『何か』と扱っている節がある。そうであっても、『なぜかしら』龍也のことを『マスター』と言って慕ってくれるということに時々理解が出来ない時が多々ある。多々あるとは言っても彼女に対する苦言はそれだけなのでもう言わないことにする。
改善策が取れるアインスは『まだ』いい。
問題は彼女の『妹』であるツヴァイだ。
龍也は頭を抑えながら、横になってテレビを見ているツヴァイに話す様に身体の向きを変えた。
「んで、今度はお前だ、ツヴァイ。」
「はははは!!・・・・・・・・・えっ、私?」
「ツヴァイって名前の機体がお前以外にいるか?アインスの後で作られて、アインスのことを『姉さん』って呼ぶのが他にいるなら、だが。」
「nein。『姉さん』のことを『姉さん』って言うのはたぶん私だけだねぇ。・・・・・・・・・ねぇ、『マスター』。この人、面白いね!!・・・・・・・・・どこが笑えるのかいまいち分からないけど。」
「ツヴァイ。テレビはいいから。出来れば、こっち向いて話してくれると有難いんだが?」
「えっ?テレビ点けながらじゃダメ?」
「いや、消せ。お前、この前そうやって点けたままで外出ただろ?いいから消しなさい。」
「いやだ、って言ったら?」
「アインス。」
「ja。」
「貯金が少し厳しくなるが、壊してもいいぞ?いや、壊せ。」
「ja。それがご指示なら私はただ従うのみですが・・・・・・・・・、よろしいので?」
「テレビは大事ちゃ大事だけど、今は話すのが大事だからいいぞ。」
「ja。では、『少々五月蠅くなります』ので、後始末の程を頼みます、『マスター』。」
「最近五月蠅くなったって言われてるからな。・・・・・・まぁ、任せとけ。あっ。壊したら粗大ごみで出せよ?燃えないゴミで出すなよ?いいか、絶対だぞ?」
「それは『前フリ』と受け取っても?」
「そうだよ。いちいち言わせるな、恥ずかしい。」
「ja。それではそのご期待にお応えいたしまして。」
そう言いながら、ガシャン、と初弾を薬室に送り込む音を『わざと』鳴らして彼女は『いとも簡単にひき肉を作れることで有名なひき肉製造機』を『どこからともなく』現して片手に握ると、テレビに向かって狙いを付けた。
「ストップ!!ストップだよ、『姉さん』!!」
彼女が冗談でもなく真剣であると悟ったツヴァイは体を起こすとテレビを背に庇う様にしながらアインスの射線上に自身の身体を割り込ませた。
「nein。私は『マスター』の従うのみです。退きなさい、ツヴァイ。」
「ど、退かない。」
「ならば、退かせますが。どうします?」
「そ、それでも退かないよ、『姉さん』。『姉さん』を相手には出来ないけど、出来なくたって盾くらいにはなれるよっ。」
「・・・・・・・・・・と言っておりますが、どうします?」
二人のやり取りを横で見ていた龍也は再び、はぁ、とため息をつくと机の上に置いてあったリモコンを手に取ると、テレビの電源を消した。
「いちいち物騒なことやってるじゃねぇよ。テレビ消せばいいだけの話じゃねぇか。」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!『歌っていいとも』がぁぁぁぁぁぁ!!『マスター』、今日のは特番なんだよ!?録画してないんだよ!?分かってる!?」
「特番見たいのは、分かるが今は話すのが重要だ。それとも、アインスに撃たれて見れなくなるのがご所望か、ツヴァイ?」
「そうだけどさぁ・・・・・・・・・・・。」
「特番は今日だけしかやらないのは分かるが、『歌っていいとも』は来週もやるんだ。だったら、その時見てもいいじゃねぇか。別にトモリさんは今死ぬわけじゃないんだし。」
「うぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・・・・・・・。でも、『万が一』って時もあるし。」
「『万が一』ってのは『よくある』が、別に『その時』は『今』じゃない。・・・・・・だろう?」
「そうだけどさぁ・・・・・・・・・・・・・・。」
「だったら、話が終わった時に点ければいいじゃねぇか。」
そう言う龍也の言葉に渋々と言った様子でツヴァイは龍也の対面側に座り直して、龍也の顔を向いた。
「・・・・・・・・・・・・・・それで、何かな?」
「最近・・・・・・・というより、お前らが来てから電気代とガス代の料金が二桁増えて面白い状態になってるんだが?」
彼がそう訊いた途端にツヴァイは龍也から顔を外しわざとらしく口笛を吹いた。
そんな彼女の態度を見ると、もう既に三回目となるため息を吐いてアインスを見た。
「ja。電気の方は出来る限り節約をしておりますが、何分、『私たち二人』は食事ではなく電気で動いておりますので。」
「まぁ、それについちゃ目を瞑るさ。・・・・・・・・ガスの方は心当たりあるか?」
「そうですね・・・・・・・・・。加熱調理をするのに火力が『少し』足りないのでその分増やした程度でしょうか?」
「『少し』ってどの位?」
「ja。ざっと簡単な金属加工が出来る程度でしょうか?」
「アインス。ちょっといいか?」
「ja。なんでしょうか?」
「お前は俺を殺す気か?最近、キッチンにお前が立つようになってからやけに音が五月蠅くなったんで何してるのか疑問に思ってたけど。」
「ja。『マスター』に『万が一』があってはいけないと思ったのですが・・・・・・。余計だったでしょうか?」
「うん。出来れば戻しといてくれ。」
「ですが、『マスター』。」
「これ、『命令』な?」
「ja。分かりました。」
彼が『命令』だと言った瞬間にアインスはしゅんと身体を萎ませた。
そして、龍也は再びツヴァイを見た。
「で、だ。なにか心当たりがあるか?」
「な、な、な、な、何のこと言ってるか、私にはさっぱり分からないなぁ~。」
「アインス。」
「ja。『マスター』の留守中にテレビを付けたり、ウィルスチェックだと言って『マスター』がお使いになられてるパソコンの電源を付けたり、『マスター』が『大変夢中になれている少女たちが出ているパソコンゲーム』のデータを完全に消して最初からのところを押してプレイしていたりとしている様子ですが?」
そう言ったアインスからの言葉を聞くとツヴァイを睨みつける様に龍也は見た。
「おまっ!!俺の大事な『とらぶりゅぅぅぅぅ!!』のセーブデータ全部消しやがったのか!?」
「ぜ、全部じゃないよ。消してもちゃんとCG回収しといたし。あっ、だけど、CGデータを外部ハードディスクに取っとくのはまずいよ?一応、『ちゃんと保存してたえっちな映像データ』とかウィルス感染してたっぽかったからウィルス消しといたけどさ。」
「はぁ!?お前らに見えない様にちゃんと隠してた外部ハードも見たのか!!ウィルス駆除してくれてありがとうございます!!」
「い、いや、別にいいけどさ。でも、『マスター』。隠すならちゃんと隠しとかないと。私はともかく、『姉さん』に見つかると大変だよ?」
「んだと!!?見たのか、アインス!?」
「ja。とは申しましてもチラリと見た程度ですが。別に『裸エプロンとは言語道断。裸にエプロンをしても油が飛んで来たら火傷してしまうではありませんか。うらやま・・・・・・ゲフンゲフン、けしからんですね。』とは思っていませんよ?えぇ。『裸ではないとは言ってもビキニをしてエプロンをすればいいというわけではないというのに、実にうらやま・・・・・ゲフンゲフン、けしからんですね。』とは思ってませんよ?えぇ。」
見てないとは言いつつもきちんと内容を言ってくれることにアインスをどう思えばいいのだろうか真剣に考え始めた龍也であった。
彼のそんな様子を気遣ってかアインスは彼の横にお茶が入ったカップを静かに置いた。彼女のそんな気遣いに龍也は彼女の顔を見上げる様にして見た。
「悪いな、アインス。」
「いえ。お気になさらず。・・・・・・・・・・・・あの、『マスター』。お一つ、御聞きしてもよろしいでしょうか?」
「どうした?」
「nein。いえ、大したことではないのですが。『マスター』は『裸エプロン』と『ビキニエプロン』だとどちらがお好みですか?」
「それって、今答えないとダメか?」
「ja。出来れば早急にお願いお頼み申し上げます。」
彼女が聞いてきた質問に彼はどうするかな、と少し悩み彼女の服装を見た。
彼女の服装はごく普通、とは言い難いが、シンプルさを意識したのか白と黒が基調となっている実にシンプルなメイド服に似た服装だった。
龍也はメイド喫茶などには一回も立ち寄ったことがないので彼女が着ているモノがメイド服だとは判断は出来ないが、何も知らない『一般人』が想像するメイド服かどうかと訊かれればそうだろうと判断できたものだった。
彼女が言った『裸エプロン』なるものと『ビキニエプロン』なるものには興味はあったが、思ったことをそのままに言った。
「別に、そのままでいいんじゃね?」
「そのまま・・・・・・・・・・・・ですか?」
「というより、単に興味本位で見ただけだからな。」
「では、保存してあった理由は?」
「後日に思い出したときのお楽しみ用・・・・・・・・・って何言わせるの!?」
「ja。であれば、『今』はそのお言葉を信じましょう。」
「・・・・・・・・・・・・『今』は?」
『今』は、と言った彼女の言葉に龍也は妙な引っ掛かりを覚えて彼女に訊くが、彼女は話題を逸らす様に龍也に微笑んだだけに終わった。
「・・・・・・・・・・勝手にいなくなったりはするなよ・・・・・・・・・?」
「ja。・・・・・・・・・少なくとも貴方に何も言わずして消えたりはしませんよ、『マスター』。」
「そうか?」
「ja。」
「そうか。」
「ja。我が存在に賭けましても。」
自身の胸に手を置いてアインスは龍也に言い、龍也は彼女の決意に静かに頷いた。
「あのぉ~。仲が宜しいところ悪いんだけどさ。テレビ点けてもいい?」
ツヴァイはそんな二人の様子よりもテレビの内容の方が気になる様子だった。
こうして、夜は更けていくのだった。