エピローグ ja。それでは帰りましょうか、マスター?
アインスとツヴァイの二人との戦闘後、アインスとツヴァイの二人に対してクラッキングの形跡が見つかる。そのデータを削除し、元のデータを林田は復元し、アインスたちを復元するが・・・・・・・・。
3SGM~三分間のスーパーガードマン~
エピローグ
ja。それでは帰りましょうか、マスター?
『人が人であるのには変わりはない。「首輪」があろうがなかろうが、人は人だ。』
(確か、ミスター鉄さまと申されましたか・・・・・・・・。機械である『私たち』も人である、と。ふっ、おかしなお方もおらっしゃる・・・・・・・。奇妙な方です・・・・・。)
アインスは夢の中にいる様に黒い思考の海の中で、現実で出会った警備員姿の青年のことを思い出す。
思考ができるということは自身の、アインスとしての自我は残っているということだろう。
であれば、人間でいう死の世界にいるわけではないとアインスは考える。
考えられるということはまだ、『死んだ』わけではないということだ。
龍也はアインスの心臓目がけて『ボルト・インパクター』でアインスの胴に触れた。
何十倍にも増幅した衝撃を『ボルト・インパクター』で穿つ。
どの様な分厚い装甲も破壊できる様にと開発した代物であるが、銃器ではなく近接用のグローブにしたために、自衛隊も警察も他国の軍隊も採用することもなく、仕舞われた『用無し』だ。
そういう意味では、アインスもツヴァイも『用無し』と言えるのかもしれない。
笑える話だ。
アインスは普通の人の様に笑うことなど出来ないが。
ツヴァイは人の感情を大まかにではあるが分かるうえに、再現することも出来る。
アインスはアインスで、再現することはできない。
笑うことで何ができるというのだ。
笑えば、人が死ぬのか。
笑ったところで、戦争がなくなるのか。
そんなことはない。
人が笑っても、他人が共感して笑えなければどうしようにも出来ない。
故に、アインスには笑うという感情は理解はできないし、再現することもできない。
知らないから、理解はできないし、共感もされない。
だが。
アインスはとある青年のことを考える。
知らないから理解もされない、知ろうともしない。
だが、彼は知ろうとしていたし、分かろうとしていた。
それは、アインスには見たことがないし、経験したこともない貴重な体験だた。
自分よりも格上の相手に挑み、逃げることなく立ち向かってきた。
劣勢なのは明白であるにも関わらず、だ。
(もし、ミスターが『私たち』のマスターであったならどうでしょうか・・・・・・・・?)
アインスは起こることのない『もし』を考えてみる。
彼はアインスたちを遠ざけることなく、理解しようとしていた。
人間を理解していたアインスの言葉を否定して立ち向かってみせた。
『首輪付き』である能力が使えるというだけの人であるにも関わらず、武器を持たず、アインスたちの攻撃をただ避けるのみで受け流して、戦ってみせた。
武を持って相手を制す。
力というモノを力で押しつぶすのではなく、力を受けたうえで力を別の方向に流す。
剣道や空手などではない。
柔らかな精神で、相手を制し、場を制す。
おそらくだが、彼の根本にあるのは柔道の類だ。
アインスやツヴァイは見たことも経験したこともない。
ツヴァイが振るったサーベルを受けながらも片腕で流してみせた。
あのようにいともたやすく流されるのは、初めての経験であるとアインスは思う。
力の逃がし方も知らない車両や巨大兵器相手に振るって斬ってきたのだ。
ただ斬られるのみだと思ってみれば、受け流される。
こちらを拒絶する様に力で力を押しつぶすのではなく、こちらのことを受け止めようとした。
(人が人であることには変わりはない・・・・・・・・・・。『私たち』を人である、と言いましたか・・・・・・・・・。彼が『私たち』のマスターであれば・・・・・・もしくは・・・・・・・。)
もしくは・・・・・・?
いや、彼がアインスたちのマスターになるということはないだろう。
彼はあくまでも『首輪付き』である。
一般人の様に力を持っていないわけではなく、力を持った能力者である。
相棒としてバディを組ませようにも出来ないだろうとアインスは考える。
だが。
だがしかし、とアインスは思う。
アインスたち、二人を相手にしたうえで無傷とは言わないが、圧倒してみせた。
かなりの腕の持ち主だ。
評価には値するとアインスは考え、おや?と疑問に思う。
ここまで思考ができるということはどういうことか?
心臓に『ボルト・インパクター』は触れた。
のであれば、アインスの機能は停止していて、このような思考は出来ないはずだ。
「・・・・・・・・・・しかし、二人を相手に良くやるものだ。」
男性の声が、アインスの耳に聞こえる。
「データを見る限りはハッキング・・・・・・・・改竄か?二人の寝ている間に侵入し、データをするとは・・・・・・・・。まったく、困ったもんだ。だが、基本データのバックアップがあって良かった。手遅れになるところだった。」
カチカチッとキーボードを叩く音がアインスの耳に聞こえる。
そして、叩く音が数舜止まると、
「ま、これで治りますよ、と!」
タン!とキーボードを強く叩いた瞬間、キィィィンと身体に電流が走る感覚を感じて、瞳が開かれる。
「マスター。」
「やぁ、アインス。ご機嫌いかがかな?」
「ja。そうですね。先ほどよりかは良好ですね。」
「それは何より。」
林田はアインスに体調を問い、アインスが良好だと言うと、うんうんと頷きながら答える。
「何かおかしいと思って中身を見たんだが、弄られていたみたいだったんでね。修正しておいた。」
「・・・・・・・・・ハッキング・・・・・・いえ、クラッキングですか。」
「覗き見じゃないから、そうなるかな?世間的には覗き見も弄り回しもハッキングって言うらしいけど。」
「ja。ですが、良く分かりましたね。」
「伊達や酔狂で『君たち』二人を見ても作ってもいないからね。おかしいとこはすぐに分かるよ。」
林田はそう言うと言葉を切り、うーんと後ろに手を伸ばし、身体を伸ばす。
その動作を見て、アインスはふっと笑う様に微笑む。
アインスの微笑に林田は驚きの表情をする。
「アインス・・・・・・・・・・・笑ったか?」
「nein。どうでしょう。笑うということはしたことがないので。・・・・・・・・・・バグでしょうか?」
「いやいや、バグじゃない!!全然バグじゃない!!出来て当然だからバグじゃない!!」
アインスの疑問に林田は慌てた様子で手を振りながら否定する。
そして、落ち着くと、
「そうか、初めてか。・・・・・・・・・どうだ?感想は?」
「ja。そう・・・・・・・ですね。少し変な気持ちです。」
「そうか。・・・・・・・・・・そうか。それはよかった。彼のおかげかな?」
「ミスター鉄の、ですか?」
「あぁ、そうだ。少なくとも、『君たち』を止めてくれたのは、彼なんだから。」
「ja。そうですね。」
アインスはふと考える。
止めてくれたのは彼で、こうして林田と話せるのも彼のおかげだ。
彼には大きな恩が出来た。
だが、彼は警察でも自衛隊でもない、ただの民間警備会社の社員である。
この大きな恩を返せずに、どうするべきなのか、アインスには分からない。
柳原はそうしたアインスの思考を読んだかのように、微笑みをアインスに向ける。
「借りができたな。・・・・・・・・返したいか?」
「ja。返せるのであれば。」
「そうだな、借りたままは嫌だな。」
「マスター?」
アインスの疑問には何も答えずに、林田はキーボードを叩く。
「いや、『これから』は『君たち』のマスターじゃないよ。勝手ながら事後承諾になるが、良いか。」
「林田さん!?・・・・・・・・・、まさか。」
「そうなる。どうせ、『君たち』二人のことは警察や自衛隊は良く思ってはいないようでね。悲しいことだが。」
カチカチと叩き、タン!とエンターボタンを強く押す。
アインスは柳原のことを普通に呼ぶように柳原と呼べたことに、無表情であった顔に驚愕を表した。
そのアインスの表情を柳原は見ると、強くアインスに頷き返す。
「それに、彼は『君たち』のことを良く思ってるみたいだ。・・・・・・・・であれば、良くしてくれる人に預けた方が良いだろう?」
「・・・・・・・林田・・・・・・さんっ・・・・・・・。」
「さぁ、お行き。『君たち』を処理しようと追ってくる奴らがすぐに来ると思うから。」
「ja。・・・・・・・ja。ありがとう、ございました。」
アインスは立ち上がり、林田に深く礼をする。
「なにか調子が悪かったら、彼に言って私のところに来るように。それ位しか私にはできんが、させてくれ。」
「ja。ツヴァイにも言っておきます。」
「装備の方はチェック済みだ。裏口の方から行けば、分からんとは思うが、道中油断せずにな。」
「ja。厳しく言っておきます。」
「それでは、行きたまえ。」
「ja。お世話になりました。」
もう一度、アインスは柳原に深く礼をすると、出口の方に歩いていく。
その後ろ姿を見て、林田は感慨深く思っていた。
「・・・・・・・・・・一人暮らしだが、子供を送り出す親の気持ちってこんなもんなのかねぇ?」
「渚さん、大丈夫かな・・・・・・・。」
龍也は『インズ・ガード』からの帰り道、奏の様子を気にかけていた。
折れたと言う位なら、言える分だけは元気なような気がするが、こちらに心配をかけない様に言っているだけかもしれない。
病院からの帰りに、帰る龍也に対し、ブンブンと元気よく大丈夫な方の腕を振り回していたのを周りにいた看護師たちに怒られていた様子が龍也の脳裏に焼け付いていて、特に心配には思ってはいなかったが、気にならないのかと言われれば、気になるに決まっている。
しばらく『インズ・ガード』への出社は出来ないので、奏とのコンビでの活動は出来ずにソロでの仕事が多くなる・・・・・・とのことだ。
柳原の言葉を脳裏で反芻する。
『「向こう」さんからの電話でな。どうも、クラッキングで弄られたらしい。ひどいもんだが、その状態の二機を止めたお前に「向こう」は感心してたみたいだったが。』
お前、大丈夫か?と柳原は疑問の視線で龍也を見ていて、龍也は苦笑いで応えたのだが、どうも不審に思っているらしい。
普段、『インズ・ガード』での演習の時には能力は使わないで演習に取り組んでいるので、奏が負傷しているのに、相棒で新人の龍也が無事でいることを不審に思っているらしかった。
普段であれば、負傷することがない一般人の奏が負傷したことが柳原の中では納得できないらしい。
まぁ、負傷しない一般人が負傷して、負傷するはずの新人が負傷しないなどなにかあると不審に思うのは龍也も納得できなくない。
納得できなくもないが、奏は一般人であって、龍也は能力者だ。
そこには、天と地ほどの差がある。
なのだが、『インズ・ガード』と世間一般の常識は雲泥の差がある。
困ったものだ、と龍也は思いながら、帰り路を歩いていると。
「おっと。」
後方から飛行機が飛んでくるようなジェット噴射機から爆音を吹き出すときに聞こえる音が聞こえる。
あやしいな、と思い龍也は道を譲るようにして、脇に退く。
脇に退いたことで自身が無事であるはずもないのだが。
しかし、龍也が道を譲ったら龍也を追う様にして噴射音が聞こえてくる。
なんだ?と不審に思った龍也は音のする方を向く。
途端に、噴射音は無くなり、誰かがそこに立ち止まる。
その『誰か』の姿を見た時に、龍也は口をあんぐりと開けた。
「アインス・・・・・・。」
「ja。アインスです。」
先程交戦した時に感じた敵意というモノを出さずに龍也に姿勢を正して、深く礼をする月の光を反射して銀色に美しく輝く短く切り揃えた髪を揺らして、機械で出来た身体を龍也に向ける女性、アインスは何か?と龍也に問う様に首を傾げて、青い瞳で龍也の姿を見つめる。
「お前、なんで・・・・・・・・・ここに・・・・・・・・・修理は・・・・・?」
「ja。まず、修理に関してですが、もう既に済んでおります。マスターのお慈悲のおかげで、心臓部のみでしたので再起動を早期に済ませることが出来ました。次に、ここにいる理由ですが、『向こう』では、『私たち』は暴走の危険性がありますので、廃棄処分となりました。なので、マスターである鉄龍也様の護衛とご恩を返したく、馳せ参じた次第であります。以上です。・・・・・・・ご質問がありましたら、お答えします、我が主。」
「あー・・・・・・・・・ちょい待て。」
「ja。待ちましょう。」
龍也はアインスの言葉を脳内で整理する。
危険を排除するということでおそらく封印ではなく、廃棄するという決定をするのは、まぁ、分からなくもない。
だが、それよりも確認しなければならない点がある。
それは・・・・・・・・・・・・・・・。
「マスター・・・・・・・・って誰が?」
「ja。貴方です、我が主。」
「ミスターの聞き間違いとかじゃなく?」
「ja。失礼ながら、マスターをミスター、と他人行儀で話すのは従者として、不適合かと。」
「・・・・・・・・・・・・・・・さっきミスターって言ってたよな?」
「・・・・・・・・はて、いつのことでしょうか?私には分かりかねます。」
「マジで?」
「ja。マジです。」
「・・・・・・・えっと、従者っていつまで・・・・・・ってかいつまでいるんだ?」
「ja。この身体が、よろしければ、御身ともにいられるのであればいつまでもどこまでも共に。」
「マジでかー・・・・・・・・・。」
「ja。・・・・・・・問題がありますか?」
「いや、それはない。ないんだが・・・・・・・・・。」
どうっすかな、と龍也は身体に気怠さを感じた。
止めたら止めたで、自分に尽くそうと言う女性に対し、なんと言えばいいのか。
嬉しくないはずもないのだが、しかしなー、と龍也は何かの思惑を感じずにはいられない。
好意を寄せられたうえで、この身を尽くすと言ってくれる女性の態度に対し、嬉しく思わない男がいないはずはない。いなければいないでそいつは男ではない。男という皮を被った得体もしれない何かだ。
そこで龍也はアインスの言葉を思い出す。
先程、彼女は『私たち』と言ってはいなかったか?
「アインス。確認したいんだが。」
「ja。なんでしょう?」
「さっき『私たち』って言ったか?」
「ja。言いました。」
「それってさ、お前以外にもいるってことだよな?」
「ja。日本語で複数を表す言葉が他にあれば、そうではありませんが。」
「ハハハ、そうか。そうなのか。」
「ja。」
冷静に返答するアインスに対して、龍也は乾いた笑いを声で出す。
その時、もう一つの噴射音が耳に届く。
だよなー、とそちらに顔を向けるとそこには龍也の予想通りの、アインスと同じ月の光に反射され、煌めく銀色の髪を月夜に靡かせ、長く伸ばした三つ編みにした後ろ髪を揺らしながら、飛んできた勢いを殺そうとして二、三歩停止できずに歩を進める。
「おっとと。危ない危ない。」
「・・・・・・・よぉ、ツヴァイ。調子はどうだ?」
「ja。好調、好調。絶好調だよ、マスター。」
「・・・・・・・・ツヴァイ。好調なのは見れば分かります。少しは落ち着きをですね・・・・・・・。」
「『姉さん』は落ち着きすぎなんだよ。ボクみたくにさぁ・・・・・・・。」
「nein。それは断固として拒否します。・・・・・・マスターの命令であっても、ですよ?」
「・・・・・・・・・・・・言わないが。」
冷静なアインスとは違って感情の変化を出しているツヴァイ。
こうして見てみると、アインスとツヴァイは正反対の様に思える。
そして、龍也の予想通りに、ツヴァイも龍也をマスターと呼ぶ。
参ったものだな、と龍也は頭をかく。
「ja。それでは帰りましょうか、マスター?」
銀色の月光に銀髪を照らしながら、アインスは龍也に問う。
そのアインスの言葉に、これからどうするかと龍也は考えるのであった。
はい、というわけで、エピローグとなります。見ての通り、今回エピローグということになっていますが、これ、第一章なんです。はい、続きます。ですが、投稿ペースが少し遅れたりとするかもしれません。すみません・・・・・。