第六話 行け、鉄!!ぶち抜け!!
前回の依頼で警察との共闘体制で異能対策二課と共闘した『インズ・ガード』であったのだが・・・・・・・。
3SGM~三分間のスーパーガードマン~
第六話
行け、鉄っ!!ぶち抜けっ!!
「渚。ちょっと待て。」
「はい?先行ってて、鉄。」
「了解です、渚さん。」
昼時。
外にある近場の定食店で昼食を取っていた龍也と奏の二人であったのだが、その帰り時に、たまたま同じ定食店にいた柳原に奏は呼び止められる。
奏が呼び止められるとは、何か変なことでもしたのだろうかと龍也は疑問に思ってしまう。
奏が変なことをするとは龍也にはにわかに信じられないことだが・・・・・・・・変なことしかしてないよな・・・・・・・、と龍也はどこかに納得したが、そうであれば、毎日の様に呼び止められてもおかしくはないわけで、それを毎日してはいないということは、奏がすることは『インズ・ガード』では常識の範囲内ということになると思うわけで。
であれば、なんだろう?と龍也は疑問に思うわけだが、奏に先に行けと言われてしまった以上、長居するのはいけないことであろうと自身を納得させ、定食店を後にする。
奏も止められる理由は特には思い付かず、なんだろう?と疑問に思いながら、柳原の方に寄ろうとする。
だが、柳原は奏のその動きを手で制すると立ち上がり、奏の方に寄ってくる。
こちらに来るということは、つまり、龍也には聞かせることではないということか。しかし、仕事の話であれば、龍也にも聞かせる必要があるのではないだろうか、龍也は奏でのバディ、相棒なのだから。
「チーフ。鉄は・・・・・・・。」
「あいつがいるとな・・・・・・・・。話せるものも話せなくなる。」
「はぁ・・・・・・・。」
柳原の言葉に奏は疑問を捨て去ることはできなかった。
龍也に聞かせたくない話・・・・・・・・?
それは一体・・・・・・・・?
奏の脳内には多くの疑問符が浮かぶ。
「渚・・・・・・・・。鉄は一人で出来そうか?」
「一人で、ですか?」
柳原の言葉を、反芻する。
今、龍也と奏は相棒同士の関係であり、龍也はまだ新米だ。
まだ一か月就いていない新米ではあるが、そこそこ出来る様にはなってはきた。
奏のやり方を自分流にアレンジして自分に合ったやり方として吸収している。
一人で、という質問には答えかねるが、自分一人の足で立てる様になるかという意味では時間は掛かるが、奏がいなくても立つことが出来るだろう。
「鉄なら出来ますよ。アタシの相棒ですから。」
「鉄の野郎に聞かせたいね。良い相棒持ったじゃないか。えぇ?一般人。」
「えぇ、良い相棒です。・・・・・・・・貸しませんよ?」
「大丈夫だ。今は貰い手はいないみたいだからな。お前からしたら泣けてくるだろうが。」
「良いですよ。みんな、その内に気が付くでしょう。ですが、一番乗りはアタシです。渡しませんし、貸しません。」
「わかった、わかった。お前が鉄を大事に思ってるってことはわかった。・・・・・・・そうじゃなくてだな・・・・・・・・・。」
「そうじゃない?じゃあ、なんです?」
「お前にお声が掛かった。この前の警察の・・・・・・・・・。」
「アンドロイドですか?たしか・・・・・・・・アインだったかと。」
「いや、名前じゃない。それを造ってる会社からお前に、だ。」
「アタシに・・・・・・・ですか?」
「そうだ。一般人のお前にパートナーにお願いしたいってことだ。最新鋭機のパートナーに、な。」
「なら、アタシじゃなくて鉄はどうなんです?」
「鉄は、な。ちょいとな・・・・・・・・。」
なんだろう、と奏は少し疑問に思いながら、少し渋る様に見える柳原の続く言葉を聞く。
「問題的な因子をアンドロイドに与える影響があるみたいだ・・・・・・・。」
『・・・・・・とは言っても、現状問題がある行動をとったわけでもないし、お前も鉄が変な行動をしているとは思ってるわけじゃないんだろう?なら、特に問題はあるまい。』
「・・・・・・・どうしました、渚さん?」
「・・・・・・・・・・・えっ、何が?」
「何がって・・・・・・。今回、『インテリオル・アーキレス』って企業なんですけど、聞いたことありますか?って訊いたんですけど、大丈夫です?」
「あぁ、うん。大丈夫、大丈夫。」
『インズ・ガード』の社用車に乗って、今回、二人を指名してきた『インテリオル・アーキレス』に向かっているのだが、先ほどの柳原の会話を奏は思い出していて、龍也の話など全然聞いていなかったのだが、奏がそう言うと、龍也は別に気分を悪くした様子は見せず、「なら、いいですけど。」と車の運転に集中する。
前回の仕事の時もだが、奏は免許を持っておらず、龍也は免許は持ってはいるが車がないということで普通の一般車両は運転は出来るということで、龍也に運転を任していた。
「『インテリオル・アーキレス』だったね。最近できた企業で、なんでも警察とか自衛隊とかで活躍できる戦闘用のアンドロイドしかり災害救助用の大型ロボットとかいろいろ幅広く手掛けてるとこで凄いらしいよ。」
「警察とか自衛隊・・・・・・・・・ってことは、この前のアインとかもそこで、ってことですか?」
「たぶんねー。アインからは訊いてなかったけど、そうじゃないかな?」
ま、大手だしねー、と奏の言葉を聞いて、なるほどな、と龍也は奏でには言わずに納得する。
であれば、今回の依頼はおそらくアインを作った会社がアインの仇をとった龍也たちを話を聞いての評価をしたい、もしくは見たいと思ってのことであろうと龍也は思う。
戦闘用のアンドロイドを作っている会社がわざわざ『首輪付き』の能力者と一般人の組み合わせの実力を聞いて、企業の護衛を依頼するとは龍也には思えない。
凄いとこから依頼が来たものだ、と龍也は気楽に思いながら、フロントガラスに映る『インテリオル・アーキレス』と書かれた大きな看板を立てている巨大な建物に呆気に取られていた。
不審者を入れないために通行ゲートを設置しているのに、警備員が必要とは龍也には分からない事情があるんだな程度に龍也は思ったがゲートに差し掛かり、運転席の窓を開けて更に驚いた。
そこにあったのはカメラとマイクとスピーカーの三つのみ。
そのカメラで顔を合わせ、マイクで音声を拾い、スピーカーで指示を出すのだなということは分かる。
しかし、警備員の姿がない。
一体、どういうことなのだろう、と疑問に思いながらも、マイクに言葉を向ける。
「『インズ・ガード』から参りました、鉄龍也と渚奏、です。よろしいでしょうか?」
『ja。音声認識。少々お待ちを。・・・・・・・・・・・・ja。確認しました。ただいま開けます。』
ゲートの扉が開けられる。
『ようこそ、「インテリオル・アーキレス」に。貴方方を歓迎します。』
その言葉が聞こえるのと同時に入り口を封鎖していたバーが上に上がる。
上がるの同時に龍也は社用車を走らせる。
「全自動のコンピューター制御で人の手いらず、か。凄いとこね。」
「全くです。」
駐車場の空きスペースに車を止めると、奏と龍也は装備を付け、車から降りる。
車に乗っていた時にも思ったが、大きな会社だ。
駐車スペースも100は軽く超すだろう。もしかすれば、1000は越すかもしれない。
それ位の広いスペースに大型の横倒しの長方形のビルに接続された大きい通り廊下、それに繋がれる形で大きいドーム状の建物がある。
「噂にゃ聞いてたけど、広すぎでしょ。二人じゃ全然無理。十、二十、いや、百は要るか。」
「『うち』の人員で足りますか?」
「全然。やるとしたら、『よそ』と合同でしょ。」
「なるほど。」
そんな話をしている二人に一人の研究員らしき恰好をした会社員が寄ってくる。
「どうも、こんにちわ。遠いところからわざわざすみません。」
「いえいえ、お気になさらず。」
「どうも、こんにちわ。『インズ・ガード』の鉄龍也と言います。こちらが、渚奏・・・・・さん。」
「あー、すみません。私、汎用式人型歩行作業用機械専門研究部一課の林田と申します。」
「汎用式?」
「えぇ。歩きながら説明します。どうぞ、こちらに。」
林田の言葉に奏は聞き返すが、林田に促され、答えを聞けぬまま歩き出す。
「アインは・・・・・・・・知ってますね?」
「えぇ。お役に立てずに、申し訳ありませんでした。」
「いえいえ、そんな滅相もない!ご無事であれば何よりです。アイツも、喜ぶでしょう。」
「ですが・・・・・・・・・。」
「鉄。盾になれないのに、そんなこと言わないの。いくら能力者でもね。」
「でも・・・・・・・。」
「左様でしたか。貴方が、例の・・・・・・・・・・・・。」
「『例の』?」
「アインが話してくれました。奇妙な人に面白い話が聞けた、と。」
「何言ったの?」
「いえ。『首輪』があろうがなかろうが、人であることには変わりはない、と。それだけです。」
「それだけ?他には?」
「言ってません。」
「ハハハッ、噂通りだ!」
林田は龍也と奏のやり取りを聞いて、突然笑い出す。
何か変なことでもしただろうか?
龍也は林田に警戒するが、当の林田は笑うのみ。
そして、入り口の扉が開き、中に入る。
「確かに、『首輪』があろうがなかろうが人であることに変わりはありません。貴方の言う通りだ。差別化なり、区別化なりしても人という生き物の種類は変化はない。我々は、人であって神ではない。ここに、差はありません。」
「えっと・・・・・・・?」
「つまり・・・・・どういうことです?」
「『首輪なし』と『首輪付き』、そして一般人。この三つは変わりはないということです。」
「はぁ・・・・・・?」
「それが・・・・・・・・なんです?」
「良いですか、これは一つの命題であり、発見です。我々、人類が見出し、結論を出すべき命題です。鉄龍也さん。アインに『これ』を教えてくれたことに感謝します。」
「どう・・・・・・・・・いたしまして・・・・・・?」
「感謝してどうするの。」
「おかげで、私たちが見るべき道が見えました。故に、今回招待した限りでございます。」
林田の言うことが理解できず、龍也と奏の頭上には疑問符が浮かんでいた。
その二人を気にした様子もなく、林田は先に行く。
「アインから、『欠陥機』、いえ、封印処理された二機のお話は?」
「一機は人を人だとは思っていない、もう一機は感情の変化が激しいとか。」
「そうです。汎用型ではなく軍用として軍事目的を考慮して開発した特別仕様の特機として開発した試作機・・・・・・・・・・その二機です。」
「特機・・・・・・ということは性能も?」
「えぇ。何分癖が強くて。」
「高性能の試作機で、しかも問題あり、と。」
「そうです。本題に入っても?」
「はい・・・・・・・・・?」
それがどういう話になるんだ?と龍也と奏は疑問に思った。
だが、その二人を無視して林田は話を進める。
「いやね。アインのバックアップを見たところ、渚さん、貴女、一般人でしょ?」
「えぇ。」
「そして、鉄さん。貴方は能力者だ。」
「それが?」
「一般人と能力者。本来、手を取り合う関係ではない能力者と一般人が手を取り合って仕事をしてる。今のご時世では見ることがない良いサンプル、良いテストケースです。そして、鉄さん。聞いたところによると、貴方は入社間もない新人だ、・・・・・・・・・・・・・違いますか?」
「ですが?それに問題が?」
「いえいえ、問題などありません。考えによると、一般人である渚さんは能力者の鉄さんに劣っていると見ました。そこで、渚さん。貴女に二機をプレゼントしたい!!あぁいえ、要らないとは言わないでください。この二機は非常に優秀で、面倒をおかけしません。ほんの少し、ほんの少しの栄養を与えるだけで四日はフル稼働できます。まぁ、戦闘運用もできますが、その場合、一般人の摂るべき食料が必要になりますが。」
「要りません。」
「えっ・・・・・・・?今なんと?」
「要らない、と言ったんです。アタシは確かに何も力はない一般人で、それ以上でも以下でもない。でも、だからと言って、与えられる力は必要はありません。得られる力であれば、取るまでです。・・・・・・・・努力して得た力なら要りますが、他人から得られる力には興味がありません。」
「なっ・・・・・・・。そんな・・・・・。」
「それに、アタシのバディは、相棒はもういます。・・・・・・与えられた力ではありますが、互いに努力しているので彼以上の力は要りません。すみません。」
「渚さん・・・・・・・・・・。」
「どうした、鉄?・・・・・・・・惚れた?」
「自分で言いますか、それ。」
「惚れたんじゃないのか。それはそれで残念。」
龍也に奏はそう言うと、肩をすくめる。
肩をすくめた奏に対して、龍也が彼女が彼女としてどうありたいかという彼女の在り方が薄っすらと、ほんのわずかだが見えたような気がした。
一般人でありながらも能力者と同等かそれ以上の実力で立ち向かう彼女の在り方が。
力を与えるという林田の誘いを能力者で相棒である龍也の目の前で断った。
強いな、と龍也は彼女の言葉を聞いて思った。
「林田さん、アインスたちが・・・・・・・・・・・・・!!」
「なにっ!?」
廊下から龍也たちの方に研究員が林田の名前を呼んで現れる。
その時、爆発が起きた。
「な、なにが!」
何が起きたのかと誰かに問う様に龍也は大声を上げる。
「鉄、無事っ!?」
げほげほ、と爆発で巻き起こった煙に奏は咳き込みながらも龍也の無事を確認する。
「渚さん!えぇ、俺は!林田さん!!」
「私も無事です。おい、アインスたちがどうした!?」
林田は研究員に何があったのかを問う。
「封印の解除はしたのですが・・・・・・・武装ユニットにオンライン接続して・・・・・・・・。」
「まさか・・・・・・・解放したのか!?」
「封印・・・・解除・・・・・・解放・・・・・・・おかしいな、アタシにはやばい風にしか聞こえてこないんだけど。」
「大丈夫です。俺にも聞こえますから。」
「そっか、幻聴じゃないんだ~・・・・・・・・・・、悲しいなぁ・・・・・・・・。」
「俺も思いました。」
あまり考えたくはない事態が起ころうと、いや、もうすでに起きているらしい。
奏は腰部のポシェットにある自分の得物を確認し、ベルトに差してある警棒があるかどうかを改めて確認する。
奏の様子を見て、強化プラスチックのライオット・シールドの持ち手が簡単に取れないか、龍也は再確認する。
「スモークと閃光が二つ。警棒が二本。そっちは?」
「似たようなもんです。スモークと閃光が二つずつと増やしましたが、警棒は一本ですね。」
「それとライオット・シールド、か。うっわ、頼りないね~。心持ちがなさすぎ。ゲームだったら、死ぬよこれ。」
「最悪自爆っていう手段が取れるんでゲームと同じじゃないです。」
「どうやってよ、それ。林田さん、何かあります?」
奏が悲しい現実と向き合って悲しんでいるところに龍也は現実と向き合えるようにオススメを奏に勧めてみるが、案の定、奏は龍也の案を却下する。
「コイルガンと短レールガン、それとショックアンカーが。」
「なんであるのか聞きたいところですが、入れます?」
「アインスたちが行かなければ。」
「行かないという保証は?」
「・・・・・・・・・・・・・・ありません。」
「それじゃ、他の案で。」
「ゼロ距離での使用ができるボルト・インパクターが。」
「ゼロ距離・・・・・・・・・鉄、やれる?」
「・・・・・・・・見てみないことには。」
「始まんないよね、・・・・・・・・・・知ってた。」
そう言うと、林田に向き直り、
「それ、どこです?」
「第四・・・・・・・・・いや、第五研究室だったかな?」
「行けます?」
「えぇ。」
奏の言葉に林田は強く頷く。
その瞬間、走り寄ってくる研究員の後ろの壁が『何者か』に撃ち抜かれる。
ドォン!!
「ハッハー!!久々だ、久々の外だ!!イーヤッホー!!」
「ja。確かに久しぶりですが、少しは落ち着きなさい。また封印されますよ?」
「ja、ja。分かったよ、姉さん。落ち着くよ。」
一人は大きめな小型のミサイルの様な外見をした物騒極まりないモノをぶん回すほどかなり気分が良いらしく、背中に戦闘機の様なブースターが付いた機体を装備していて、腰部にそれよりも小型の飛行ユニットを二機装備している。
もう一人は、ミサイルよりもえぐいとされているひき肉製造機というあだ名を持つ重火器に似たものにコイルとバッテリーが繋がれている外見だけを見るに超電磁砲の異名を持つレイルガンとブースターが二つ付いた機体を背中に、腰に小型の飛行ユニットを左右一機ずつ計二機を取り付けている。
二人とも、人ではない証であるというように、銀の様に白く蒼く、光を煌びやかに反射している誰もが振り向いて見るような美しい髪をしていた。
一人はそんな髪を短く切り揃えていて、一人は長く伸びた後ろ髪を三つ編みで編んでいる。
「アインス・・・・・・ツヴァイ・・・・・・・・。」
その二人を見て、林田はこの世の終わりがやって来たかのような絶望に満ちた声をかすれた声で言う。
林田の声を聞いて、二人は三人の方を向く。
「あれ、林田主任。何してんのさ。」
「これはこれは。お客人を案内中でしたか。」
「お客?」
「ja。外見から言えば、警備関係の方とお見受けします。合ってますか?」
「あー・・・・・・・・・渚さん、どうぞ。」
「いやいや、そこは譲るとこじゃないでしょ。」
「すみません、自分、新人なんで。」
「そうは言うけど。」
「なるほどね・・・・・・・・。それで?」
「まぁ、間違ってはいない・・・・・・・・・わな。」
「ja。成る程。それでは、貴方が鉄龍也さまで、その隣の貴女が渚奏さまで合ってます?」
「言いました?」
「いえ、言ってません。」
龍也は髪の短い女性の疑問に答えるかどうかを判断し、林田に問う。
だが、林田は否定する。
「・・・・・ハッキング?」
「覗き見だから、合ってるかな?」
奏の疑問に後ろ髪を伸ばし、三つ編みにしている女性が答える。
そのやり取りを聞いて、おいおい、と龍也は感じた。
こうして会話をしていて、会社のデータバンクを覗き見できるとは。
とんだ高性能なことだ。
「だってさ、姉さん。どうする?」
「ja。そうですね。私たちを使えるかどうか確認しましょうか。」
「鉄!!」
「伏せて、林田さん!!」
二人の会話を聞いて奏は龍也に指示を出す。
その指示に、龍也は林田を守るようにライオット・シールドを構え、林田の前に出る。
その瞬間!
ドォン!!
龍也の腕に衝撃が走った。
「へぇ。能力者かな?」
「使っちゃいないがな。林田さん、無事ですか?」
「は、はい。」
「ここは俺が。渚さん!林田さんを!」
「任されて!!」
龍也は倒れている林田を起こし、奏に林田を頼んで、ポショットから黒い物体のピンを抜いて後ろに投げる。
シュー、と煙が噴射され、奏と林田の姿が煙に覆われる。
「ほぅ。スモークですか。ですが、隠せるとお思いで?」
「いや、思っちゃいないな。だが、任せてくれと女性の前で見栄を張っちまったんでね。一曲、踊らないか?」
「nine。いいえ、と言いましたら?」
「引き留めるさ。」
「ハハハッ、面白いね、お兄さん!僕たち、二人の相手をするって?」
「そうなるな。」
「両手に花とは、どうかと思われるのでは?」
「男のロマンだ。」
髪の短い方、アインスの言葉に龍也は言葉を返す。
どう奏に思われるか、見栄を張った返しだとは龍也自身も思う。
だが、林田を任し、ここを任された以上は林田が『ボルト・インパクター』なるものを龍也が倒れる前に持ってきてもらわないことには話が進まない。
問題は三分以上、もつかもたないかというただそれだけである。
三つ編みの方、ツヴァイは再びミサイルの様な物体を構える。
「じゃあ、踊ろうか!!」
バシュ、とミサイルの様なものは白煙を噴射口から吹き出しながら、龍也に迫ってくる。
二発目はきついぜ、と身を翻して避けようとするが、龍也の後ろには奏と林田の一般人がいる。
避ければ二人に当たるのは、必然。
仕方ないか!
龍也はライオット・シールドを持つ腕に力を籠める。
ドォン!
後ろに吹き飛びそうになるのを両の足で踏ん張る。
ズサー!と後ろに引かれたが、まだ、龍也は立っている。
「案外持つね!」
龍也の踏ん張りにツヴァイは喜びの声を上げる。
案外?良く言うぜ、全くよ。
ツヴァイの声に龍也は心の中で文句を言う。
普通の一般人なら立っていることはおろか、吹き飛ばされて横になってるか、粉々のミンチになってるかのどちらかだろう。
そして、龍也は立っており、まだ膝は着けてはいない。
であれば、手加減されていると考えた方が妥当であろうと判断できる。
ならば、何が二人に言えるか。
龍也は考える。
そして、答える。
「タンゴは知ってるか?」
「ja。ですが、スピーカーがありません。」
「楽器もないぜ。」
「ja。確かに。踊りには不適合な舞台です。」
「全くな。」
「ja。ですが。」
会話をアインスは止める。
「ですが、楽器でしたら持っております、ミスター。」
アインスは手に持っている銃器を龍也に見せる。
「出来れば、バイオリンとかの弦楽器をだな・・・・・・・・。」
「手持ちが管楽器しかありません。」
「打楽器はあったよ?」
「・・・・・・・・・・・ま、確かに打楽器だな。」
ツヴァイも二人の会話に加わる。
龍也はこっちを向いたか、と心の中でガッツポーズをとる。
手持ちは閃光手榴弾が二つで、スモークグレネードが一つ、警棒が一本で、ライオット・シールドはもう二発受けてヒビが入っている。
力は使ってないが、手持ちが心もとない。
無事でいられるか、不安しかない。
まったく、難儀なものだ。
龍也は二人の方を向く。
ツヴァイはミサイルの様なものが接続されていたランチャーを放り投げ、ブォンと光るサーベルを構え、アインスは手持ちのえぐい銃器からバチッバチッと放電させている。
そんな二人を相手にしようとしている龍也は自身の正気を疑ったが、状況が状況な以上は仕方がない。
だが、仕切り直しは出来た。
よし、と龍也は気合を入れなおす。
「・・・・・・・・・・・、シャル、ウィー、ダンス?」
「ja。喜んで。」
「ja。喜んで受けるよ。」
「・・・・・・・・・・・・ったく、レールガンってアリかよ!?って言いたいけど、アリだわな!!」
「ja。戦闘用ですので。」
アインスのレールガンの銃口から避けた龍也は放たれた衝撃に難癖を零しながら銃口に自身が映らない様に避けていた。
だが、ツヴァイが許してはいない。
ブォン!と振られた剣先に身体が触れない様に避け、自由が効くもう片方ででサーベルの持ち手を弾く。
「ハッハァ!!逃がさないよ!」
「逃げちゃいないだろうが!!」
「僕じゃなくて姉さんと踊りなよ!!」
「ja。無視されて悲しいです。」
バァン!!
衝撃を伴ってレールガンを放つアインス。
その軌道が走る直線から放たれる数舜前に身体を軌道から龍也はずらす。
「相手にしてるとは思うんだが!?」
「だったら、僕の方じゃなくて姉さんの方に行きなよ!!」
「そう言うなら、近づくな!!」
龍也に胴に振り下ろされたサーベルを今度は避けるのではなく持ち手を受け流し、空いているツヴァイの胴に身体を捻じり入れ、腕を掴むと。
「どぉぉりゃぁせい!!」
ツヴァイの足に自身の足を引っかけ、ツヴァイを投げる。
だが、ツヴァイは地面に胴が叩き付けられることなく、ブォォォォォ!と腰部に付いている小型の飛行ユニットが火を噴射し、空中に身体を浮かばせ、姿勢を正すと、噴射を止めて大地に二本足で立つ。
「おいおい、投げられて終わるだろ・・・・・・・・・。」
「ざ~んねん。終わらないんだな~、これが。」
ツヴァイの言葉を聞いた瞬間、龍也は前方に身体を投げる。
瞬間、龍也のいた場所を通る軌道でレールガンが残した白煙が通っていく。
顔を上げ、アインスの方を向き。
「きついね~。」
「ja。であれば、やめますか?」
「いや。誘いに乗ってくれたお若い美人二人の相手をしてるんだ。引いたら男が廃るってもんだ。」
「ヒュ~。言うね、お兄さん。」
「照れるな。」
鼻の下を指で擦り、龍也は立ち上がる。
アインスの言うことは最もだ。
だが、それではいけない。
それでは、仕事にはならない。
幸いにもまだ装備はあるし、ケガもしてはいない上、二本の足で立っている。
二本の腕もまだ動く。
なら、話は簡単だ。
「一つ。」
「あっ?」
「お一つ、よろしいでしょうか?」
アインスは龍也に質問する。
「私たち、二人は人ではありません。ですが、貴方は人として見ている。なぜですか?」
「なぜって・・・・・・・・・難しい質問だな。人が人であるというのに、なぜもくそもないと思うが?」
「nine。私たち二人は機械で人ではありません。それでも、ですか?」
「機械だから人じゃないとは言うがな、人であっても人でないヒトデナシって見られてる人もいるんだぜ?」
「だから?」
「お前らが機械であってヒトデナシなら、人であって人でないヒトデナシの『首輪なし』、『首輪付き』の能力者はどうなる?」
「それは・・・・・・・・。」
「話のすり替えです、ミスター。」
「いや、違うね。機械だろうが、なんであろうが、こうして考えて話せる、理解もできる、頭使って日々を生きてる。それはなんだ?生き物だ。化け物じゃねぇ。人の定義ってなんだ?んなもんは知らねぇ。だがな、人であるのには変わりはないだろうが!人の手で人として生まれ、生きてる。それはなんだ?化け物か?獣か?いいや、違う。それは人だ。機械だろうが、『首輪』があろうがなかろうが関係ねぇ!人が人であることに変わりはないんだ!!」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
龍也の言葉をアインスとツヴァイの二人は黙って聞いていた。
「では、ミスター。聞きますが、貴方から見て私たちはどう見えるので?」
「美人な女性にしか見えん。仕事じゃなかったら、口説いてる。」
龍也はアインスの質問に真剣に答えた。
嘘偽りもなく。
アインスの目から目を外すことなく龍也は答える。
「バッカじゃないの!?」
龍也の回答にツヴァイは大声を出して否定する。
その言葉に龍也は何か分からない様に首を傾げてツヴァイの方を向く。
「どこがだ?」
「どこがって・・・・・・・・私たち、人じゃないんだよ!?機械だよ!?分かってる!?」
「あぁ、知ってる。」
「知ってるって・・・・・・・・・・・。」
「さっき首掴んだ時に、キスでもしようか真剣に悩んだが、投げた。すまん、悪気はなかった。」
「・・・・・・・・・・。」
龍也の言葉にツヴァイは何も言えなかった。
アインスは銃口を龍也に向けながら、撃つべきかどうかを悩んだ。
人でありながら人ではないと言う龍也を撃つべきかどうか。
龍也は敵で、人間だ。
アインスやツヴァイという高いスペックの機械を生み出して、アインスとツヴァイの二機を恐怖のあまり封印した。
人を人として見ていないというただそれだけの理由で。
だが、人は『首輪』があるかないかで人を区別している。
それを参考にしただけだ。
ただ、参考にしただけに過ぎない。
ただそれだけでしかないのに、封印処理という永い眠りにつく予定になった。
であれば、人を人として見ていない人類に手を出しても問題はないはずだ、そうアインスたち、二機は考えた。
しかし、目の前にいる鉄龍也という人間は違う。
人を人として見て、アインスたち二機を、二人の人間として見ている。
これはアインスには初めての経験だ。
機械である二機を、人として二人と見ている。
そして、人を人として見ている。
『首輪』があるかないか、能力者か一般人か。
人であり、ヒトデナシとして見るのではなく、人として見ている。
これは異常だ。
解析不能、解析不能、解析不能。
訳が分からない。
アインスの頭脳では理解することが出来ない。
撃つべきか否か、それは問題ではない。
目の前にいる人間は、人か否か。
分からない。
答えは出てこない。
答えは出てきてはくれない。
「・・・・・・・・・・・・・あー・・・・・・・俺がこう言うのも変だが、大丈夫か?」
「・・・・・・・・・ja。問題はありません。」
「問題はないって、それ、問題がある時に言うもんだぜ?」
龍也はアインスに聞き返す。
そして、アインスに寄ろうと歩き出した、その瞬間!
ブォン!!と龍也にサーベルが振り下ろされる。
当たるか否かという寸でのところで、サーベルに斬られることなく、龍也は身を引くことで避けてみせた。
「あっぶな!!危ないなぁ、おい!!」
「姉さんに、姉さんに寄るな!!」
ブォン、ブォンと龍也に振られるサーベルを龍也は持ち手を見ながら、掴むことなく避け続けてみせる。
正直に言うと、柳原や奏が振るう警棒の速さに龍也が慣れただけの話なのだが、龍也からしてみればさっきより遅いし、何遊んでるんだコイツ?と龍也は思いながら、ツヴァイが振るうサーベルの軌道を見て避けていた。
「間に合った!!鉄、遅くなってごめん!そいつは任せて!」
「渚さん!?」
先程、林田ともにどこへ行った奏が戻って来たようで、右手に黒い光沢があるグローブをして龍也とツヴァイの方に奏は駆け寄ってくる。
「『ボルト・インパクター』!?時間稼ぎか!?」
「ファイトォォォォォォォォォォ、一発ゥゥゥゥゥゥゥ!!」
右手を開きながら奏は、ツヴァイの方に右手を伸ばせる限り伸ばして駆ける。
だが、相手はツヴァイだけではない。
瞬時に何かを悟ったのか、奏はギュッと身を丸めると、身を屈める様に伏せる。
その瞬間、先ほど奏がいた場所に、白煙が直線の軌道を描く。
「レールガン!忘れてた、もう一人いたっけ。」
「渚さん!!」
「鉄、今ので腕折れた。あとよろしく。はいこれ。」
倒れた奏は『ボルト・インパクター』と呼ばれたグローブを右手から外すと、走り寄って来た龍也に渡す。
「これは・・・・・・・・。」
「でかい一発ぶち込めるロマン兵器。レンジはゼロ。ぶん殴る、それだけでオーケーっていう頭飛んでる変態。」
変態って、そりゃ変態だな、と龍也は奏での言葉を反芻する。
「行け、鉄っ!!ぶち抜けっ!!」
「ぶち抜けって、そりゃ抜けそうですが。」
やれやれ、と龍也は立ち上がり、ツヴァイと対峙する。
「やっぱり、やっぱりだ。あんなこと言っときながら、眠らせようとする!」
「だったら、何もするなよ。大事なお肌が荒れちまうぜ?」
サーベルを構え龍也向かってくるツヴァイの軌道から大きく身体を丸め、左前方に前に回り受け身を取る。
少しは奏から距離を取らねば奏が傷つく、そう判断したためだ。
龍也が起き上がると、ツヴァイが龍也の方に向けて身体を回そうとしているのが目に見える。
間に合うか!?
龍也は態勢を屈めると、ちょうどツヴァイの背に当たる距離で『ボルト・インパクター』が嵌められた右手を伸ばす。
ツヴァイが完全に振り返った瞬間右手はツヴァイの胴の真ん中、心臓がある中心に触れ。
キィィィィィィン!!
耳に突き刺さる甲高い高音と共に、ツヴァイの身体を吹き飛ばす。
それと同じく、龍也の右手も後ろに吹き飛ぶ。
「ぃ・・・・・・・・・・・・・・・ったいっ!!痛いなぁ、おい!!」
『ボルト・インパクター』を付けている奏が腕が折れたと言うのか、龍也は理解した。
龍也には身体を無敵とは言うまでではないが、頑丈にする程度の能力がある。
奏は何も能力も持たない一般人であり、龍也が受けた衝撃に耐えることはできない。
ぶち抜けと奏が言ったのも理解できる。
確かに、これならばぶち抜けそうではある。
「ツヴァイ・・・・・・・・・。くっ。」
アインスは吹き飛んでいったツヴァイの身体をちらりと見ると、龍也に銃口を向ける。
「当てます。」
「当ててくれるなよ・・・・・・・・・?」
「nine。そのご期待にはお応えできません。」
「美人さんに振られたぜ。・・・・・・・・泣けてくる。」
「そんだったら、アタシが慰めてあげるから!!」
「マジっすか!!」
奏の言葉に龍也はやる気が満ち溢れ、アインスに向かっていく。
アインスは龍也に銃口を合わせ。
少し、目を瞬かせると。
引き金を引き絞る。
その数舜身体を少しずらし、盾という形を保っていたライオット・シールドの表面をかすり、強化プラスチックの盾がビビキッ!と割れる。
だが、龍也はそんなことなど気にせずに、アインスの位置まで寄ると。
「応えてくておりがとよ。」
聞こえるか聞こえないかというほどの小さな声でアインスに囁き、胴の中心、心臓の位置に触れる。
キィィィィィィィィィン!!!
耳に突き刺さるほどの高音と共に、アインスの身体が吹き飛び、龍也の右手も後ろに吹き飛ぶ。
「ぃっ・・・・・・・・・・・・・・・・・たい!!ほんと、なんすか、この欠陥品!!」
「威力は折り紙付きなんだしいいじゃん。」
「良くはないですよ。にしても、いったい!」
ブンブンと痛いという右手を振る龍也に呆れた様子で奏は見ていた。
しかし、身体を上げようとして。
バタンと地面に倒れる。
「そう言えば、腕折れてたの忘れてた。鉄、ヘルプー!」
「無茶するからですよ。渚さん、貴女、一般人ですよ?」
「だから?あー、痛いー、早くー、ヘルプミー!」
「全く。待ってください。」
『ボルト・インパクター』を付けている右手から外し、奏の方に寄っていき、奏を抱き上げる。
「あー、ありがとう。楽でいいわー。」
「何言ってるんですか。」
龍也が抱き上げたのに、甘える様にして、奏は片腕をだらんと力なくぶら下げる。
その時、林田が二人の方に走ってくる。
「鉄さん!渚さんも!二機は!?」
「止めました。心臓のとこ、『これ』でやったんで動くかどうか分かりませんが。」
「止め・・・・・っ!・・・・・・・どうにかはなったんですね?」
「えぇ。どうにかは、ですが。」
「分かりました。後の処理は・・・・・・・・・・・。」
「頼みます。」
後の処理と言った林田に龍也は嫌悪感を抱いたが、抱える腕の中にいる奏が甘える様に出す声で龍也は現実に戻って来た。
「鉄ー。鉄ー?おーい?」
「・・・・・・・・・・・・っ!・・・・・・・はい、なんでしょう?」
「病院、お願い。」
「救急車呼びます?」
「それはやだ。」
「えっ。・・・・・・・・えぇ~・・・・・。」
いや、拒否するなよと奏の反応に龍也は思い、気怠さを感じた。
というわけで、なんとかできました!!絶対に斬れない刃と書いてブレイドという者です。いやぁ、なんとかここまで来れた。長かったような短かったような・・・・・・・・・。いや、短かったな。(断言
もうちょっとだけ続くんで待ってください!!なんでもしませんから!!