第二話 それはそれ、これはこれ
昨日、着任し仕事をした龍也であったが、先輩である奏に反応した態度は如何なものかと悩んでいた。一方で、奏は龍也の態度の変化を感じ取り、先輩後輩の壁ができてしまったことに少し不満に思い、どうしたものかと思い悩んでいた。
三分間のメタルウルフ(仮)
第二話
それはそれ、これはこれ
「おはようございます。」
「はい、おはよう。」
鉄龍也は前を歩く後ろに自身の特徴である青みがかった髪を結んだ女性の背中を見ると、その背中に声をかける。
その女性、渚奏は振り返り、龍也に返事をする。
「先輩に言われた通り、装備してきましたけど、良いんですか?」
「うん、上々。先輩の言うこと守ってるね。」
「それは、普通じゃないですか。」
「ふーん。でも、敬語で話すんだ。」
「それはそれ、これはこれです。先輩に敬語を使わなかった反省です。」
「立派な反省だこと。」
どこか納得いかないかのように不満そうな表情をする奏。龍也はその反応に気まずさを覚え、話題を変えようとする。
「あー、ところで、車通勤じゃないんですね、先輩。」
「お金がちょいと厳しくってねー。そう言う鉄は?」
「右に同じく。それに維持なり燃料なり結構食うので。」
「それね。わかるわー。」
そう言うと、龍也は昨日の感想を言う。
「昨日はその。すみませんでした、先輩。」
「別にいいって。後輩のミスは先輩がとる。それに昨日は初日でしょ?誰でもなるから。」
「そうじゃなくて。」
「あっ、敬語がどうのこうのっていうのはボーナス出たときに、一杯奢るやつで。」
「えっ。」
「職業柄こうだからって言ったっしょ?予約はしたかんね、後輩。」
「はい、先輩!」
「うん!元気が一番!」
目を細め、奏は空を見る。
「今日はいい日になりそうだ。」
奏の言う通りではないかもしれないが、確かによく晴れた晴天だ。龍也はいいことが一つはありそうだな、と思った。
黒に近い薄黒い防弾チョッキと防弾ベストを着て、通勤という変な組み合わせではあるが。
そんな会話をしていると、多くの異能使いを雇用している異質な政府公認の異能者、『首輪付き』がいる異質と思われる警備会社『インズ・ガード』の四階建てのビルが見えてくる。
20XX年。ある日を境に超能力が使える異能者が確認され、その異能者の数は増大の一途を辿っていた。日本政府は、異能者に政府が安全であるという保障をし、異能を持たない一般人を安心させるため、政府公認というお墨付きを申請し、保障ができた企業に政府公認の印を与えた。後に言われる異能者の差別化、『首輪なし』と『首輪付き』と呼ばれる異能者たちの区分化の始まりである。
これは、そんな異能者と一般人と機械が織り成す物語である・・・・・・・。
「そう言えばさ。」
「はい?」
『インズ・ガード』三階。
普通の一般業務をするための事務所スペースに着き、一般業務に取り組もうと龍也が気合を入れていると隣の机に座った奏が龍也に声をかける。
「単純な疑問なんだけど、鉄の能力って強化系で合ってる?」
「えぇ、そうです。時間制限付きですが。」
「時間制限?」
「ざっと三分ですかね。正確な時間はわかりませんが」
「早いね。」
「カップ麺一つ出来ますからね。そりゃ短いですが。」
「ま、それまでにどうにか出来ればいいわけだ。」
「ですね。それが?」
「バディ、相棒の情報は知っとかないと。情報交換は・・・・・。」
「仕事の基本・・・・・・・、ですか。」
「そうそう。勉強熱心で安心、安心。」
うんうんと奏はそう言って頷く。そう会話をしていると、龍也の背中が誰かに叩かれる。
「聞いたぞ、新入り!『ネズミ』二匹相手にしたんだってな!」
「木島先輩!」
奏は龍也の後ろの人物を見ると、その人物の名前を呼ぶ。
「よっ、渚。お前にバディが付くたぁな。出世しやがって。」
「おかげさまで。」
「新入りが相手したって聞いて無事かどうかって思ったが、渚が付いたら心配ねぇな。」
「『首輪付き』でもない一般人ですよ、私?」
「お前の場合、一般人って言うのがな、言えねぇんだよ。うちの『首輪付き』全員倒せるヤツが一般人なわけあるかよ。」
「えっ。柳原さんの言ってたこと、嘘じゃなくてマジですか。」
「マジだぜ。っつっても、訓練だがな。」
「いや、一般人ですし。」
「どこが一般人か。おい、新入り。渚に首輪つけてよく見とけ。突っ走って自滅しないようにな。」
「『首輪付き』に『首輪』を付けられる一般人ですか。ふむ。いいネタですね。」
「ハッ。そう笑い話にできるのはお前だけだ。それじゃぁな。くたばんなよ。」
「あっ、はい。頑張ります!」
「気を付けて!」
「あいよ。」
木島はそう言うと去っていく。
その姿を見れない龍也は後ろに向けて声をかける位しかできないが奏は綻んだ顔で眺めている。
「まったく。木島先輩も先輩なんだから。」
「でも、木島さんの言う通りだと思いますけど。この前、先輩、前に出てたじゃないですか。」
「後ろじゃね、見えるものも見ないのよ。だから、後ろ任せたでしょ?」
「まぁそうですけど。」
「鉄は前に出れるの?」
「それは・・・・・・・。」
「どっちかが前に出ないと進めないんだし、先輩だし?後輩にケガさせたら、ねぇ?」
奏の言葉を龍也は脳内で反芻する。
前に出なければ、前に進むことはできない。
奏の言う通り、龍也は昨日就いたばかりである。
その後輩を就いた当日にケガをさせたとあっては先輩の面目は立たないだろう。
だが、奏は自身の言う通り一般人であり、龍也のような『首輪付き』と呼ばれる異能持ちの能力者ではない。
であれば、龍也が前に出たほうが良かったと思えるのだが。
難しいところだ。
「さーて、普通の一般業務でもしますか。」
うーん、と奏は両手を後ろで組み、両手を伸ばす。
一般業務も警備会社の業務だ。
ただ、警備することが警備会社の仕事ではない。
目の前に積まれた書類を処理するのも警備会社の社員の仕事だ。
一般業務であれば、ある程度はできる。
龍也は目の前に積まれた書類に意識を移した。
「よし、次!!」
「はい!!」
「柳原さん、気合入ってますね。」
「そりゃ、新人の目の前で無様に負けるわけにはいかないでしょ。」
「そうですかね?」
「そうでしょ。あと、柳原チーフね。さん付けはやめといたほうがいいよ。」
「なんです?」
「さん付けするとね。怒るから、あの人。機嫌損ねなく接するんだったら、チーフって言ってたほうがいいよ。」
「勉強になります。」
「うん。勉強するのはいいことだよ、鉄。」
日常の平常業務がキレのいいところまで片付いたところで柳原から警備部の演習だと言われ、龍也と奏は『インズ・ガード』の外にある練習場の建物にいた。
先ほどから能力を使っていないところを見るに、この演習もとい訓練では能力を使用せずにいかに相手を無力化し制圧するかを考えての訓練というものと龍也は考えた。
「ぐぁ!!」
「ふっ、まったく鍛えてないんじゃないか?」
「すごい。」
「ほんと気合入っちゃってまぁ。」
柳原の相手をしていた武装をした他の社員が勢いよく床に叩き落される姿を見て、龍也は小さい子供が言いそうな一言の感想しか言えなかったが、奏はよくやるなぁとばかりの感心した風に感想をこぼす。
そんな二人を柳原の視界が捉える。
「よし、次!!渚・・・・・・・・じゃなくて鉄!!来い!!」
「先輩、呼ばれてますよ。」
「いや、鉄って言ったの聞こえたから。」
「どうした、鉄!!」
「はい!!」
「はい、いってらっしゃい。骨は拾ってあげるから。」
奏にぽんっと軽く背中を押される形で龍也は前に出る。
いや、骨は拾ってって。
奏の言葉に龍也は突っ込もうとしたが、ツッコミはやめて柳原の前に出る。
「どれくらいやれるのか、見せてみろ。」
「頑張ります。」
柳原は軽口を叩くが龍也を見るその目は獲物を見定めた狩人のように鋭く、半身を後ろに下げ構える。
龍也も同じく構えるが柳原のように洗練された美しいものではない。
その龍也の構えを見た瞬間、奏はこれはダメだと思った。
「頑張る、か。言うのは容易いな。」
「善処します。」
「善処、ね。難しい言葉を使えばいいってことじゃぁないぞ。」
「な、長く立って見せるよう頑張ります。」
「及第点だな。その言葉を裏切るなよ?」
そう言った途端に柳原は龍也に突っ込んでくる。
いや、違う。
突っ込んでくるのではなく、静かにではあるが自身の身体を風に逆らわせて龍也に身体を向かわせる。
突っ込んでくると見えたのは幻覚、幻を見るように動かなかった柳原が身体をあまり動かすことなく龍也に向かってくるからか。
そう見えた龍也は柳原の進む終点を見定め、そこから柳原の動作を予測し、後ろに上半身を下げる。
身体を後ろに反らした龍也の首元を掴むように柳原は腕を伸ばす。その腕の終点、手に触れさせてなるものかと龍也はその手を弾くように手を伸ばす。
だが、柳原もただで弾かれらんと逆手に変え、弾き手を掴もうとする。
いかん!!
瞬時に逆手で掴まれると理解した龍也は伸ばした手とは逆の半身の手を伸ばし、掴もうとする。そして、気が付いた。掴むのではなく、なぜ避けようとしないのか、と。
その事に気が付いて、龍也は身体を避けようと後ろに重心をかけようとする。だが、身体の重心も簡単に変えることなどできない。ゆっくり、ごくゆっくりした動作でしか重心を移動できない。
間に合え・・・・・・・・!!
龍也にできることは身体の重心を変えることと間に合えとただ祈ることのみだ。
掴み手を弾こうとした弾き手も引くことも忘れない。
だが、悲しいかな、弾き手を引こうとしてもすぐには後ろに引くことはできない。
結果。
「っぐ!!」
龍也の弾き手は掴まれ、柳原に腕を引かれる形になり、懐に身体を入れられ、柳原の前に行こうとする勢いに押し負けて倒される形になる。
倒される瞬間、頭を床にぶつけ、脳震盪を起こさぬように顎を引いて自由が効いた半身の腕で床を叩き、全身に掛かった力を床に分散する。
「がっ!」
さきほど言った言葉を裏切る形で龍也は柳原に倒された。
力を分散させるためとは言っても、逃した力はごく僅かなもの。
背中に、胴に込められた力は残っている。
「早かったな。頑張ると言ってこれか。口先だけか、新入り。」
「くっ!!うっ!」
これだけか。
所詮、異能を使わなければ能力者もただの人。
いや、それ以下かもしれない。
三分間だけというごく短い時間でしか強くなれないただのクズ。
それを変えたかったのだが、変わることなどできはしない。
所詮、クズはクズ。
いや。
まだだ。
倒されたはしたが、まだやれる。
まだ力はある。
ならば、答えはひとつのみ。
男ならば。
男であるというのなら、ただ諦めずに立ち向かうのみ・・・・・・・・!
「う、うぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・・・・・・・・・!!」
自身の身体に力を籠め、龍也は立ち上がろうと力を入れる。
動くことを諦め、床に身体を寝かせ、戦うことも、立ち向かうことも諦める。
まだ動ける。
まだ動かせる。
まだ戦える。
まだ・・・・・・・・・・・・・・・、まだ・・・・・・・・・・・!!
倒され横になった上半身を気合を入れなおして起き上がらせ、再び立ち上がるために、両足に力を籠める。
「・・・・・・・・・・・・・・ん・・・・・・・っ!?」
「・・・・・・・鉄っ!?」
再び龍也は両の足、右と左の二本の足で床に立つ。
「もう一本、もう一本、頼みます。」
「・・・・・・・・・・・・・もう一本、いけるのか、鉄?」
「寝るのが仕事じゃないでしょう?」
「ふっ。面白い。面白いな、鉄。良いだろう。なら、もう一本、相手を頼もうか。」
龍也は柳原にもう一回、相手を頼み、柳原は龍也の頼みに顔を綻ばせて答える。
「おい、あの新人。」
「あぁ。」
「柳原チーフにもう一本って、頼みやがった。」
龍也たちの様子を外野で見ていた社員たちだったが、龍也の取った行動に驚きを隠せなかったように各々が口を開く。
「鉄・・・・・・・・・・。」
一番、驚いたのは奏であった。
龍也が柳原に負けるのを思い浮かべるのはいとも容易いことだ。
強化系の異能を持っているならなおのこと。
それを裏付けるかのように龍也はものの見事に柳原に倒され、床に、地面に寝ることとなった。
勝てるなどとは思ってはいない。
だからこそ、奏は骨は拾うと龍也に言ったのだ。
龍也は奏の言葉に不快感を示していたが。
べつに寝ていても問題はない。
この仕事を続けるか否か。
そう思うのは龍也個人の話であって奏の問題ではないのだから。
だが、龍也は立って見せた。さらには、もう一本と柳原に頼んだのだ。
ならば、ならばだ。
奏は龍也ではない。
だが、龍也の、彼の意志を、彼の根性を見せた。
奏としては十分だ。
バディの、鉄龍也の、本質を垣間見た。
それだけでも十分だと言える。
だから。
「いけっ、鉄っ!!」
他人に染められるのではなく、自分で自身を染め上げろ。
それが人が人たる、人の道。
昔、小さいときに誰かが言っていた言葉が奏の脳裏に思い浮かぶ。
誰が言ったのか。それは奏にはわからない。
だが、気にすべきはそこではない。
自身のバディが。
相棒が立ち上がり、再び相手になってくれと願い下げている。
また床に横に寝かされるかもしれないというのに、だ。
「ったく、渚が珍しく応援してやがる。ここで蹴ったら男が廃るってもんだ。」
「いいんですか!」
「別に時間はまだあるし、いいだろ。その時はその時だ。それに、新入りが気合見せて、その相棒が応援してんだ。なら、答えるのが筋だろ。」
「チーフ・・・・・・・。」
やれやれと柳原は言いながらも、龍也に対し構えをとる。
龍也も構えをとるが素人がすぐに上達した構えをとれるはずもない。
だが、先ほどよりかはマシと呼べる構えであった。
半身を下げ、腕を腰より高い位置で構える。
先ほどよりかはマシではあったが、まだだ。
まだ上達者ともいえる域に達しているわけではない。
ではあるが。
先程の瞳にはなかった光が、力強さが宿っているのが目に映る。
その龍也の目を見て柳原は自身の口元が緩くなるのを自覚する。
これも性分か。
そう思うと泣けてくるが、別に悪いとは思わない。
後手に回った龍也が今度は先手を打ってくる。
柳原よりも速くに踏み込む。
だが、そうは問屋が許さない。
後手にまわろうとも龍也の先を打つ。
終点であろう狙い手を予測し、龍也の掴み手を弾く。
柳原もそれだけで終わるつもりはなく、踏み込んできた龍也の胴を掴み、再び龍也を寝かそうと踏み込んで懐に入った龍也の腰を柳原は掴もうとする。
それが柳原の狙いだと龍也は瞬時に悟り、柳原の軸足を刈るべく、柳原の片腕を掴み、己の胴に柳原を当てるように胸を張り、柳原の胴を横に引っ張る。
それがどのような技でどのような狙いを龍也がとろうとしているのを悟れぬ柳原ではない。
龍也が崩そうとした身体のバランスを力で戻し、引っ張ろうとした腕を戻す。
くそ・・・・・・・・・・・・・・・・っ。
柳原は龍也の心中を察する。
だが、それが分かって手を緩めないわけにはいかない。
龍也の首裏から片腕を回して首元をしっかりと掴み、龍也の足を払うように片足を龍也の軸足に沿わせる。
そうすると、龍也の身体は宙に舞い、床に再び身体を寝かせる結果となる。その衝撃を今度は両腕で床に分散させる。その時、バァン!と強い衝撃が訓練場に響き渡る。
「っぐ!・・・・・・・・がっ!!」
「ちょいとはやるな、新人。だが、そうは問屋が卸さないぜ、新入り。」
ニヤリと口元を歪めながら、柳原は龍也に手を伸ばす。
「だが、やる気は見せてもらった。頑張れよ、新入り。」
「はい、ありがとうございました、柳原チーフ!!」
伸ばされた手を龍也は力強く握り、立ち上がる。
「あの新入り、すごいな。」
「あぁ、バディ組んでるのか、あいつ?」
「知らないな。」
そう外野の先輩たちが話している声を聴きながら、身体の埃を払うようにパンパンと軽くたたく。
「渚のやつ、頼めるな?最初見たときは少し不安だったが、それだけのやる気を見せてもらったらな。バディ解散、って言うのも変な話だろ?」
「どこまで行けるか不安ですが、盾くらいにはなれますよ。」
「そのセリフ、アイツに聞かせたら同じこと言うぞ。」
「そうですね。盾にはなれませんが、矛くらいには。」
「ま、及第点か。頼むぞ、『首輪付き』。」
「ははは、荷が重いですね。」
はははっと柳原と龍也は軽く笑いあう。
その時、龍也の肩にぽんと誰かの手が置かれる。
「はい?誰で・・・・・・・・す・・・・・・か・・・・・?」
「下がって、鉄。骨拾ったげるから。」
「骨・・・・・・?」
その誰かは龍也のバディ、渚奏であった。
奏は龍也に笑顔で下がれと言う。龍也には笑っているように見えるのだが、同時に笑っていないようにも見える。
それに、骨を拾うと言う。
はて、何のことか?
と考えたときに思い出した。
柳原に相手をしてもらう際に、奏にそう言われた気がする。
骨は拾ってあげるから、と。
「待て、渚。確かに今は訓練してるがな・・・・・・・・・。」
「『訓練』、ですよね?なら、誰が相手になっても構いませんよね?」
「えっと、先輩。下がった方が。」
「そうね、下がってて、鉄。」
「あー・・・・・・・、イエス、マム。」
「待て、鉄。もう一本、もう一本やろう!なっ!」
「柳原チーフ。鉄の相手はもうしたでしょう?それに、新人の歓迎はもうしたと思いますが?」
「だからって、お前の相手をするのとは話が別・・・・・・・・・・・。」
「チーフ。」
「鉄っ。待て、待てっ!まだ行くなっ!」
「柳原チーフっ!!」
「鉄、待たんかっ!!待たんか、鉄っ!!」
柳原の相手を奏に任せて、龍也はその場を離れたのだが、柳原は終わったはずの龍也の名を呼び続ける。
その柳原の様子を見て、外野の先輩連中は各々の感想を言い始める。
「オゥ・・・・・・・・・・・・・チーフ・・・・・・・・・・・。」
「おい、チーフが可哀そうだろ。助けてやれよ。」
「いや、だって、渚だぜ?お前が行けよ。」
「ばっ、お前が行けよ。俺より強いだろ。」
「こういう時は言い出しっぺの法則が適用されてだな・・・・・・・。」
「おい、お前、渚の胸がいい感じだって言ってたよな?」
「いや、言ったけどよ。アイツ、加減しないし、落とされんの目に見えて分かるのに喜んで行きたいやついるかよ?」
「締め上げられるしな。」
「能力使ってもいいならいけるかもしれないけど、そうなったらなったで、もっと加減しないよな。」
「だな。」
そう結論を出すと、一斉に後ろに振り返り、柳原から視線を外す。
その様子を肌で感じ、視線が外れたことを悟った奏は柳原に視線を向ける。
「では、柳原チーフ。『訓練』、お願いします!」
「お、おぅ・・・・・・・・・・・。」
やや引き攣った顔で奏に返事をする柳原。
訓練であることを頭から取り出していない証拠に半身を反射的に構えるが、奏の方が数手早く、構えようとしていた瞬間に奏の身体が流れるように動き出し、柳原が奏の動きを理解し、身体を掴もうと腕を伸ばした時にはもうすでに奏に腕をがっしり掴まれており、柳原の腰に手を伸ばし掴むように、柳原の胴を上から周り、腰のベルトを掴むと、龍也が先ほど柳原にかけようとした技を柳原にかけて、自身の足で柳原の足を刈る。
「っがっ!!」
そして、足を刈られた柳原は先ほど龍也がなったように床に叩かれる。
その際、衝撃を逃がすために受け身を取ろうと床を叩いたのだが、龍也がした音よりも大きな音が響いたと龍也は感じた。
わずか数十秒。
その間の出来事であった。
「骨は拾ったよ、鉄。」
「まぁそうかもはしれないですけどね、先輩。」
いくらなんでもやりすぎじゃ・・・・・・・・。
龍也は笑顔で言う奏にそう言う事は出来なかった。
代わりに、胸の中で言う事にした。
先輩、怖っ。
そうして一日、何事もなく終わるであった。
今回は比較的平和(?)に終わってよかったよかった。次もいい感じに書けると、いいなぁ(切望。