プロローグ 「死に戻り」
ーー死ぬ、本当に死ぬ。
冷たい床に顎が付いている。彼は今、床にうつ伏せになっている体を必死に動かそうとしていた。だが、体は言うことを聞かずピクリとも動かない。
更に、狂いそうになるほど体の1番下に痛みが走っている。
ーー助けて、たす…けて。
痛みが徐々になくなっていく感覚が体に伝わっていく。
チラリと彼は自分の足を見た。だが、そこに足は無く、代わりに血が大量に流れていた。
ーーなんで…こんな事に。
どんなにバカでも、これだけは分かるだろう。自分は絶対に助からないと。
ーー死ぬのは……確実だよな。
彼は、この傷の原因がいる方に目を向けた。その原因は、ただ狂ったように笑いながら短刀を振りかざしていた。彼は、その攻撃を必死に防いでいる少女の姿を見ていることしかできなかった。
ーーくっそ! なんでこんなことになるんだよ!
そんな文句は誰にも届くことはなく意識が虚しく途切れていった。そして、少女の首が切りを落とされるのを彼は見ていることしかできなかった。彼は傷の原因に届くはずのない手を伸ばしながら怨念のように言った。
「か、なら……ず」
かすれた声を必死に引き出して。
「俺が殺してやる!」
彼は本気で殺せると思い込んでいた。
次の瞬間、安田 彰の首が切り落とされた。