067[知らぬ間に巻き込まれていた事]
夏でも冷たい水の湖からユーニの手によって、引き上げられ
仰向けになった全裸の私の目の前には、
私の上に覆い被さる様にして、苦しそうに荒い呼吸をしながら
『自殺は良くない』と力説し
寒さにガタガタ震えている、ユーニの姿がある
私は震える事無く、ユーニより冷たい手でユーニに触れ
自分より暖かい相手が震えているのが面白くなって笑い
寒さを和らげたくて、遠くから暖かい乾いた風を呼び寄せた。
ユーニは、私が笑った事を物凄く怒って
『どうして分かってくれないんだ』と壊れた機械の様に震えながら
『僕は真剣に言っているのに』と血の気を失いながらも泣き、嘆く
この時、私は
風が暖かくても、風が吹けば気化熱で冷えてしまう事を失念していた。
先に、この状態の危険性に気が付いた海馬の皆達が集まり、
体温で風を更に暖め『フロース!そのままだとソイツ凍え死ぬぞ!』
『濡れた服を脱がせろ!』と指示してくれる
自分が全裸であった為に私は一瞬、躊躇する。
焦れたトニトゥルスが、一時、人型に戻り
ユーニから服を引き剥がしユーニを全裸にして
『さあ!フロース!抱いてやれ!』と言う
『ちょっと待て、裸でか?
トニトゥルスがやってくれても良いんじゃないか?
男同士なんだから』と言ったら
『嫌だよ!それはフロースの仕事だろ?
お前等は、夫婦なんだから』と馬の姿に戻ってしまった。
その後、海馬達はニヤニヤ笑い『頑張れ!』としか言ってくれない。
私は取敢えず、湖に入る前に脱ぎ捨てた自分の服を回収し
下着だけ身に着けて、上に着ていた服を羽織り
震えながら蹲るユーニを自分に向かせる為
『そんな事までしなくても大丈夫だから』と
力無く抵抗するユーニを無理やり力尽くで仰向けにし、
ユーニの肩を押さえ付けながら
「何だか、生娘を襲うヤローな気分だな」と、寒さで涙目になり
震えた体が上手く動かなくなっている、青褪めたユーニを見下ろす
トニトゥルスがやってくれていたら
「絵的にBL的で面白かったのにな」何て思ってた事はオフレコで、
私は自分の乾いた服を羽織り直し、そのままユーニに覆い被さり
できるだけ肌を密着させる様にし、体を寄り添わせた。
それから、それだけでは意味が無いので、ユーニを温める為に
普段、風を操っている要領で、風を使う時に風に与えている
魔力と言うモノを自分の中から引っぱり出して
自分の体からユーニの体へと対流させる
これは手っ取り早くて、確実な方法なのだが
力の消費が激しく、やり過ぎると、私側に死が直結しているらしい
その前兆として、私の全身に力が入らなくなっていく
獣が出ても、追手が来ても、きっと、海馬達が守ってくれる
そんな心の支えがあればこその、生命力の無駄遣いだ
そして、私のやっている事を知ってか知らずにか?
動揺し、色々な原因で早まったユーニの鼓動に耳を傾ける
以前、死にかけた犬や猫にやった時にも思ったのだが
これって難しいけど、
面白くて、上手く行くと強い達成感があったりするのだ
私は状態を取り戻し、体温を取り戻し始めたユーニの温度を感じつつ
順調さに手応えを感じながら目を閉じた。
私の下敷きになっているユーニの片手が私の腰にまわされる
対流させていた力の流れが変わり、疲れが私を夢現の世界へ落し込む
次に首筋や髪にもユーニの残った手が回され、
気の所為なのは確かなのだが
何となく、私はユーニと一つのモノに成った様な錯覚に陥る
その頃には、自力で対流を止める事は出来なくなっていた
「ヤバイな…このままだと死ぬかも?」とは思っていながら
そのままの状態を持続させユーニの怪我まで治し、
ユーニに流した魔力が消費されずの戻ってくる様になった頃
「死ななくて済みそうだな」と目を開けると目の前には、
こちらを覗き込む顔と、胸の谷間、見覚えのある刻印が見えた。
寝惚け眼な視界ではあるが、刻印を間近に見るのは初めてだった
その刻印の色は薄いが、
自分の内腿にあるのと同じ刻印だと言うのは間違いない。
ぼやけた視界が正常に少しづつ戻って行く。
そして私は、目の前の相手の顔に驚いた。
『本屋のおばちゃん!』思わず叫んだ私の声が木霊する。
彼女は、私が模擬戦や模擬海戦に参戦していた子供時代、
私とアピスの弟のテッレストリスが、
欲しいと思っていた絵本の為に、お金を預け、
取り置きして貰っていた筈の絵本を王子様に売ってしまった。
門に囲まれた城下町にある本屋の女将さんだ。
その本屋のおばちゃんは
『相手の男の子が怒ってる所から見てたんだけど、
声を掛け辛くてね』と苦笑いしながら
『フーくん、女の子だったのね、焚き火があるよ、
手を貸すから移動してきなよ』と言って私の頭に軽く触れた。
魔力の対流は他者からの接触で崩れ、消え去り、
私は凄く複雑な気分で、本屋のおばちゃんに訊きたい事も沢山あった。
でも、質問する事が出来たのは
『何故にここへ?』と言う素朴な質問だけだった。
地面に放置していた濡れてしまったユーニの服を干し、
私は自分の服を着込み。
焚き火の場所まで、トニトゥルスにユーニを運んでもらい。
暖かい場所で、裸のユーニを乾いた毛布に包め、
ユーニの大丈夫そうな様子を確認してから、再度、事情を聞いた。
事情を聞いて私は「祖国はもう、駄目かもしれない」と溜息を吐く。
本屋のおばちゃんは、
城下に居る国民を気紛れに殺すので、家を捨てて、逃げて来たらしい。
でも、おばちゃんは、
「刻印の呪いで、国外に逃げる事が出来ない」と言う。
「私は国外に出れるし、これまでの人生、普通に出入りしてきたけど、
私の刻印と、おばちゃんの刻印に何の違いがあるのだろうか?」
気になった私は、『私も同じ刻印を持っているのだが』と、
おばちゃんに自分の刻印を見せ、年齢を訊かれ、答え……。
何故か、
『もしかして、フー君は、
顔の刻印を焼き捨てられたセププライの生まれ変わりなのかい?』と、
訊ねられた。
私が心底驚いていると、本屋のおばちゃんは、
『申し訳ないねぇ~……。アタシが死んだ振りして、
行方をくらませたから、フーくん、アンタ、アタシに間違えられて、
竜の王に追い掛けられてるんだよ』って言う。
しかも、私が驚き過ぎて答えられないでいる内に、
おばちゃんは大粒の涙を零し、大泣きしながら、
『ホント、申し訳ないね』と私に謝る。
そもそも、「竜の王って何それ?美味しいの?」と
私が一人、困惑していると、おばちゃんの旦那さんが、
『コイツは御前が欲しがってた絵本に描かれていた「竜の姫君」だ』と
薪を抱えて戻って来た早々に会話に入って来る。
このおっさんは、昔、
私が買う予定の本を勝手に売り飛ばしやがったおっさんだが、
昔「お詫びに」と、他の本と菓子を無償提供されたので和解済み、
今も好きではないが、相手の言葉を否定する程、嫌いではない。
私は怪訝そうにしながらも、おっさんからの話を聴き、
竜の王様が、この地の歴代王の体を乗っ取り、
竜の姫の転生体を妃にする為、奮闘している事を話される。
もしも、それが本当ならば、
私は前世であろうセププライの時代から、巻き込まれている事になる。
で、その話に出てくる「取り違えられる事の原因」、
刻印の事を質問したら…
もっと前から、巻き込まれていた事を知る事になった。
女神の刻印は、勇者と、
竜の姫と一度は友達になり、竜の呪いを受けなかった者。
物語に出て来ない「勇者の御供」をして旅に出た「従者達」にも、
与えられていたらしい。
時を経て、竜の王に記憶を持ち越してでの転生を阻害され、
勇者と従者の方の刻印が姿を見せなくなってきた為、
現在では、もう存在しないと竜の王は勝手に思い込み、
『たまたま発見してしまった女神の刻印の持ち主と、
竜の姫を取り違えてしまったのだろう』とおっさんは言って、
『実は俺にも女神の刻印があったりしてな』と、
尻の割れ目近くに存在する薄い色の女神の刻印を見せてくれた。
私的に「正直、見せてなんて欲しくなかった」と思う。
私が精神的なダメージで、不快感に苛まれている中、
おっさんは『絵本に出てくる勇者は、俺だ!』と自己紹介してくれた。
その事実も、嫌がらせでしかなかった。
「夢が壊れるから、その情報、欲しくなかった。」なんて、
私が思っているなんて事は、おっさん、気付きもしない。
気付きもしないから、
『これも何かの縁だ、竜の姫の友人の生まれ変わりとして、
竜の姫と勇者の生まれ変わりである俺等を助けてくれないか?』と、
『竜の姫の身代わりになって、
ウーニ国王の体を乗っ取った竜の王に食われて来ちゃくれないか?』
なぁ~んて言ったに違いない。
『ふざけるな!冗談じゃないぞ!』私が言う前に誰かが言った。
続けて『フロースは僕の妻だ!』と、声の主は言う。
声の主は、さっきまで意識を失っていたユーニだった。




