064[分かっているけど解っていない気持]
ストゥディウムの計画では、宿場町に来る定期便の馬車に便乗し
本来なら、山越えをしていた筈だったらしく
宿無しになる所だった今日この頃・・・
空き部屋のある宿屋を見付け、カーリタースが用意してくれた安息の夜
4人部屋、4個のベットに6人で、どう分かれるかが話し合われる
私は眠たくて面倒になり
『フロースは僕と一緒って事で』と言うユーニに従いベットに入る
が、しかし・・・
ストゥディウムに『フロース!ユーニと一緒に寝るな!!
一人で寝るか、責めて女同士、プリウィアと一緒に寝ろよ』と言われ
猫の子の様にベットから引きずり出され
プルウィアの方が
『フロースさんって、神様の祟りで女になったんですよね?
元は男の人じゃないですか!隊長…私、ちょっとソレ困ります。』と
真剣に断りを入れているのを見る事になった。
カーリタースから、私が「最初から女である」と言う真相を聞いて
知っているコクレアが、ニヤニヤしながら
『あはは、じゃぁ~アタシの布団ならOKかしら?』と
本気とも冗談とも取れる事を言って
ストゥディウムを『女に見えても、御前は男だろうが!』と
怒らせて喜んでいる
私的に、私から見たら「それは、楽しそうな光景」だけれども
今以上に、つまらない事の拘り合いになるのは面倒臭い
「プルウィアは揺ぎ無く、カースが吐いた法螺話を信じてるんだ…
凄いなぁ~…疑わないだなんて……。今度、縁があったら
霊感商法で何かしら売り付けてみよう」と心に決めて
私は再度、ストゥディウムの隙を突いて
ユーニに誘われるがままにベットに入り
そんな騒がしい夜を先に寝てしまう事で乗り切る事にして
落ちる様に眠りに就いた。
寝てしまえば、起こされる事はなかった。
翌日は晴天、お出掛け日和、ユーニと一緒に寝る様になって
過去の人間の人生を夢に見る事の無くなった私の目覚めは
清々しい良い気分、だったのだが・・・
ストゥディウム提案による
プルウィアからの「女としての自覚」についての講義を受けさせられ
テンションがた落ち、美味しいゴハンも不味くなった。
そんな朝食後
ストゥディウムとプルウィアが、馬車を手配しに出かけた後
カーリタースが、私をテラス席に連れ出し、私の力を使い
風で繋がるテッレストリスとトニトゥルスと連絡を取り
グランツの所との連携を確認する
それを見たユーニが『それ、僕にもできないかな?』と
私の隣に座り、カーリタースがする様に私の手を取り握る
勿論、世の中そんなに簡単ではない
カーリタースは、一時的に私の力を支配し行使できるが
ユーニにそんな力はなく
私も、風に乗せた音の振動をユーニに聞かせる音に変換するのは
とっても面倒で、疲れるからしないので
ユーニは会話に参加する事ができず、子供の様にふてくされていた。
『ユーニは、一人、除け者にされたみたいでさみしいんでしょ?』と
コクレアが食後のコーヒーを運んで来ながら笑い
『帰る時の準備の話よ!祖国に戻って生きていくつもりがないのなら
グランツの居る国に戻る帰路の手配は不可欠でしょ?』と
何時もの様に、事前にカーリタース聞いていたであろう
風を使った会議の内容をユーニに教える
ユーニは何か言いたげな雰囲気を醸し出しながら
『そうだね』と言って、
私に甘える様に、私の腕に体を摺り寄せてきた。
このシチュエーション・・・
私が男で、ユーニが女ならば、問題なかったであろう事なのだがしかし
『お前は女子か!暑苦しいから、ちょっと離れろよ』
男女逆だと、少しばかりウザキモイので、私は冷たい言葉を口にする
私が、そんな風にユーニで心を乱していれば
今使用中の風の連絡ツールに不具合が起きてしまうのは仕方がない事
結果的に一番、被害を被る事になったカーリタースは溜息を吐き
『フーの事は後でユーニの好きにして良いから、今、邪魔するな』と
ユーニを追払ってくれた。
『って…コラ待て!カース!
勝手に「私を好きにして良い」とか、許可を出すなよ!』
『いぃ~じゃないか!フー、書類上は御前等、夫婦だろ?』と
カーリタースに言われ
『書類上だけじゃないよ!名実共に!だよ!』と
ユーニに言われて、私は黙り込む
クラーティオーがやってくれた
赤い花の汁で作った破瓜の偽装工作を思い出し
「あ…都合良かったから誤解を利用して
その後で、ゆっくり解いていくつもりでいて、うっかり忘れて
誤解を解くの忘れてた……。」と、軽くショックを受け
「でも今更、解けるのかその誤解」と、
解き方の分らなくなった誤解の前で、頭の中が真っ白になる
「そもそも、処女しか嫁にできない王族に嫁ぐ為に
非処女が偽装した事や、娼婦が処女を偽装して金儲けしたネタを
皆さん、本当にマジで信じ過ぎ!
処女でも、相手が上手なら出血なんてしないし
処女じゃなくても、ド下手な奴と性交渉を持てば出血するんですよ?」
何て事をユーニに説明するのってどうよ?凄く面倒くさい。
そう言えば・・・
「え?あれ?私って、ユーニの中で、どんな立ち位置にいるんだ?」と
私は、私から離れて、コクレアと一緒に
コーヒーとデザートをテーブルに並べるユーニを見詰る
カーリタースが溜め息交じりに微笑み
『フー、それ、後で考えようか?
そんなに心を乱されたら、風が使えねぇよ』と言って
私は自分の動揺を自覚させられた。
精神を集中させて風の制御を戻すと、風の通話先のテッレストリスが
『フーってば、俺より年上なのに、そう言う方面では御子様なのな』と
クスクス笑われてしまい
アモルと同じ海馬で、アモルより純血種に近い海馬なトニトゥルスには
『人間は、俺達より寿命が短いんだ
自分の気持ちを自分で受け入れて、相手に伝えたらどうだ?』と
言われてしまう
どうやら、私よりカーリタースやテッレストリス、トニトゥルスの方が
私の気持ちを理解しているらしい
だが、それにしても・・・
「自分の気持ちを受け入れる前に
その自分の気持ちが理解できない場合、どうしたら良いのだろうか?」
私が救いを求める様にカーリタースを見ると
カーリタースは緩く笑って、私の頭をポンっと優しく叩き
『フーは最近、ユーニに手を伸ばされたら
相手の表情をちゃんと見ずに、身を任せてるだろ?
それ止めて、ユーニの顔を見て、ゆっくり10数えてみろよ
十中八九、それで、自分の気持ちが理解できるようになると思うぞ』と
言ってくれた。
「表情を見ずに?」
私は「そんなつもりはなかったけど」とユーニを眺めていると
『ユーニの顔を見るのは、至近距離で真正面からな』と
カーリタースに指摘される
私はカーリタースの顔を見詰め、ゆっくり10数えてみてから
「その程度の事で何がわかるんだ?」と、思いながら
『了解、次、ユーニを至近距離で見る時にしてみるよ』と答えた。
そして、その機会は
食後のコーヒーの準備をコクレアとユーニがしていたので
直ぐにやってきた。
なので、私は実践していたつもりだったのだが
『斜め横からじゃなく、真正面からだ』とか
『互いの目を見て、もっとゆっくり、10数えような』とか
カーリタースが手を出し、口を出し、、私とユーニを向かい合わせ
私とユーニの背を押して近付け、ゆっくり10数えるので
私とユーニは見詰め合いながら、変な緊張状態に突入し
カーリタースが想定より遅く、ゆっくり10を数え終わる頃には
私とユーニは精神的に疲れて、その場にへたり込む事になる
ユーニは訳も分からず参加させられた為、カーリタースに訳を訊ね
私は緊張し過ぎて途中から息を止めてしまっていたらしく
呼吸を整えながら
「自分の気持ちが理解できるように」なんて理由をユーニに知られたら
気の所為かも知れないけど、ちょっと恥ずかしい気がするので
それを阻止した。
のだが、しかし・・・
何かしら伝わってしまったらしく、ユーニが
『そっか~、そう言う事かぁ~』と、嬉しそうに微笑む
「そう言う事って、どう言う事だよ!」
私は前に、ユーニから逃げるのに失敗し
手首を怪我した時に感じた感情までもを思い出し
熱くなり頬が赤くなるのを自覚しながら、ユーニから顔を背けた。
私が顔を向けた先で、カーリタースが緩く笑っている
『もう、自分の気を逸らして寝て、気持ちをリセットしなくても
受け入れられるんじゃないか?頑張れよ』と
カーリタースは、私の肩をポンっと叩いて私を通り過ぎ
テーブルに着いてコーヒーを飲み始める
風で繋いだ通話の糸も
テッレストリスとトニトゥルスの『『まぁ~頑張れ』』と言う
御優しい言葉で途切れ
カーリタースを追って向けた視線の先で
コクレアも『頑張ってね』としか、言ってくれなかった。
「何をどう頑張れば良いのだろうか?」
私はその後、直ぐにユーニに連行されるようにテーブルに着き
コーヒーを飲みながら
ユーニに恐る恐る、怖々、視線を向けて大きく溜息を吐く
セププライの記憶を参考にしようと検索しても
セププライとウーニの恋愛と、
私とユーニのでは、気持ちが違い過ぎて参考にならないから
今の私の求める答えは出てこない
親子で、そっくりな顔立ちでも
ウーニは『俺について来てくれ』と言うタイプ
ユーニは『一緒に行こう』と言うタイプ
「最初は何でも一緒にってのがウザかったけど、
今は、ユーニのそう言う所が、私は多分、きっと
それ程、嫌じゃなくなったんだよな」と
気持ちを軽く整理して、コーヒーを飲みほした。




