063[気付けば、カーリタースの手の上]
私はカーリタースの鷹が届けた
トニトゥルスの声をもう一度、聴き直しながら深呼吸をし
大きく溜息を吐く
このまま、ストゥディウムとプルウィアと一緒に、そのまま行動し
アモルを道連れにして、こんな所で遭難してしまう訳にはいかない
って言うか、普通に、何一つ面白い事なんてないだろうから
水も食料も無しに、遭難なんてしたくはない
今の私は、嫌でも、嫌じゃなくても
トニトゥルスの背後にいるであろうカーリタースの指示に
素直に従うしかなかった。
私は、鷹にやる餌を所持していなかった為
餌の調達手段も、時間も無かった為に
自分が捕まえて纏っている鷹が好みそうな風を鷹に譲り渡し
鷹にその風の加護を与えてから空に帰す事にする
鷹は、それで満足し、フワリと軽く舞い上がり
敬意でも表してくれている御様子で、私の周囲を旋回してから
カーリタースの居る方向へと一直線に飛び去って行く
これで、更に正確に位置を把握でき、進む方向が決まる
今、進んでいる道が、迷い人が広げてしまった獣道でない限り
もう、私達が迷う事は無いであろう。
私はプルウィアから地図を借り
広げた借り物の地図をストゥディウムとプルウィアに見せて
『現在地は多分だけど、この周辺だ、このまま右の道を進めば
吊り橋のある渓谷に辿り着くけど、ここは馬では渡れないから
本来通る予定の橋って、こっちだよな?
分岐点2つ程戻った、こっちの道の先の橋……。』と訊くと
2人はそれぞれ『そうだ、よく分かったな』
『その通りです。』と、答えてくれる
ストゥディウムが
『行きに通ってきた道をそのまま帰るつもりだったんだがな
何処で通り過ぎちまったんだろう?』と、本気で言う
そんなストゥディウムが首をかしげながら地図を見る姿を見て
頬を染め、幸せそうに微笑むプルウィア・・・
そんなのを横目で見た私は
「何で今まで、母国は滅びなかったんだろう?」と不思議に思い
『やっぱ、カーリタースを敵に回すと不便だな……。
なぁ~、フロース!
お前の師匠に、帰国して仕事に戻る様、説得してくれないか?』
と言われ、その謎が簡単に解けてしまった。
「そう言う事か……。」
私は無言でアモルに道を戻るように指示して御願いし
プルウィアが『説得すると言え!』と、抜身の剣を向けて来るが
放置して、一人、勝手に、先に道を戻り始める
ストゥディウムは、プルウィアを素手で制止し
『この手のタイプは、取引材料無しに命令しても無駄だぞ』と笑い
「間者の事」を言おうとするプルウィアの口をその手で塞ぎ
『さっきの鷹、カースの鷹だろ?
動物使い同士の連携は完璧で、今頃、間者は御縄になってるよな?』と
言ってくれたのだが、甘い!鷹が来た時には既にトニトゥルスを通した
カーリタースからの伝言
「間者だった人、色々な意味で、終了のお知らせ」を持参され済み
然も、私が風使いではなく、動物使いだとの誤解は解けぬまま
そんなカーリタースの書いたシナリオ通り進む現実に私は乗っかり
『凄いね、鷹の違いが判るんだ……。
でもまぁ~、帰国する事には変更無いし、安心しといてくれよ
取敢えず、野宿は嫌だから、渡る予定の橋に向かうぞ』と言う
それから、本来なら、もう少し早い時間に
ストゥディウムとプルウィアが渡る予定にしていただろう橋を渡り
宿場町に辿り着いたのは、夜の帳が下りて暗くなった後だった。
・・・で、其処には、涙目のユーニが待ち構えていた。
私はユーニに引き摺り落とされてしまう前に馬の姿のアモルから降り
『遅かったじゃないか!
僕がどれだけ心配するかを理解してくれよ!』と怒鳴り
抱き付いて来ると言う、ユーニからの洗礼を甘んじて受ける事にする
背後でストゥディウムとプルウィアが私達を見守り
『先に到着してるってどうよ……。』
『事前に、計画がバレていた可能性がありますね』と会話している
「ユーニを此処へ連れて来た」と見られるカーリタースとコクレアは
そんな2人に歩み寄り
『ストゥディウム?
俺を出抜こうなんて可愛い事をしてくれるじゃないか』
『フーを連れて行きたいなら
相談してくれれば、カーリタースは了承したと思いますよ』と
笑顔でストゥディウムとプルウィアに話し掛けていた。
私はユーニの腕の中
久し振りの御出かけで疲れてしまったみたいで、眠気に襲われている
私に対してお怒りだった御様子のユーニは
そこで気付いてくれ、打って変わって猫撫で声になり、私の頭を撫で
『寝るのは御飯を食べてからにしようね
来るのが遅いから少し冷めてしまったかもしれないけど
準備してあるから、おいでよ』と
私の手を引き、宿屋付きの食堂へ案内してくれた。
私はそれに素直に従いながら
「どんだけ、ストゥディウムとプルウィアの計画は
バレた上で、カースに予測されていたんだろうか?」とか
「誕生日だって、数か月しか変わらないじゃねぇ~か!
年上振りやがってからに!ユーニめ!私を子供扱いし過ぎだぞ!」
なぁ~んて思っていた。
んでもって、私が一人でユーニに対して抵抗を示しても無駄なので
何時も通りユーニと一緒に
御飯を食べたり、風呂に入ったりしていたのだが
『おい!ここ…男湯だぞ……。』と
ストゥディウムに突っ込みを入れられて、私は我に返る
続いて『フーには「自分が女である」と言う自覚が
必要なのかもしれないわね』と
女装を解いたが、女性的な御色気満載のコクレアが微笑むのだが
私より、コクレアの裸の方が注目を集めているのは何故だろう?
「私の存在って、今まで誰にも気づかれてなかったんじゃね?」と言う
悲しい現実の方は放置して
「最近、ユーニが当たり前の様に何でもしてくれるし
性別隠す必要性が無い気がして、色々隠すの忘れてた……。」とか
態々、そんな事をこのメンバーに説明するのも
「面倒臭い気がしてる」とか、私は間違っているだろうか?
私はユーニに髪を洗って貰いながら顔を上げ
ストゥディウムの後ろに居たカーリタースに軽く手を挙げ挨拶をし
ストゥディウムに向かって
『まぁ~、私は気にしないから、私の事は気にするな!』と言った。
『いやいやいやいや、気にしてくれ!で、女は女湯に入れ!』
『え?それは困るよ
それだと、僕がフロースと一緒に入れないじゃないか!』
ストゥディウムの言葉に、今回の事の掌握の根源が声を上げる
言わずと知れた事かも知れないが、その掌握の根源はユーニである
ユーニは『元は男なんだから見られても平気だろ?』と笑い
『じゃぁ~フロースの、見せて平気なのか?』
と、ストゥディウムに聞かれ
『体に巻いたタオルの下が見たいのなら、見ると良い』と
ユーニが躊躇無く、私の体に巻いていたバスタオルを解く
それに驚いたストゥディウムの野太い悲鳴が上がる
私は、と言うと・・・
「本来、悲鳴上げるのって、私の役目じゃね?」と、思いながら
ユーニにビキニを着せられていた為、黙って状況を眺めていた
そして『あらやだ、それ可愛いわね』と
テンションの上がったコクレアと
『色違いも買って貰って持ってるから、コクレアも着るか?』と
私は静かに雑談をした。
そこでバンッと大きな音をたてて扉が開き、全裸の女性が乱入してくる
男湯に乱入してきた
絶世の美女と呼んでも大丈夫なレベルで綺麗な女性は
私の腕をひっ掴み、私を女湯へと連れ去るのだった
最初、その絶世の美女の正体が誰だか分からなかった私は
彼女の見覚えのある顔立ちに悩み、抵抗する事無く従い
『もしかしてだけど、プルウィア?』と答えを導き出してから
客を取り合う娼婦達が罵り合うのに使う様な言葉を
そのプルウィアから浴びせられた。
どうやら「私がストゥディウムを誘惑しようとした」と
何故だか勘違いしてしまっているらしい
私が「心底、本気で心外だ」と思い、反論してやろうかと思った矢先
私の事を心配し、私を追って女湯に侵入したユーニが
他の女性客と鉢合わせになって悲鳴を上げられて
私の所まで逃げる様にやって来た。
場面はここで一転する「さて、どうしたモノか?」
私は今、プルウィアから奪還され
手を引かれ、ユーニと一緒に走って逃げる事になっている
「水着で走り回るの寒いし、疲れてるからもう寝たいんだけどな」
私の意見は、ユーニに聞き届けて貰えるのだろうか?
私がそんな事を言い出せずにいたら
服に着替え、通り掛かったカーリタースが、ユーニの額を軽く叩き
いや、カーリタースが伸ばした手にユーニがぶつかり、止まった。
『はいぃ~はい!っと……。
湯冷めして風邪を引く前にタオルで髪拭いて服着ろな!』
何時もながらに、カーリタースの登場のタイミングは私的に神です
で、その我が救いの神は
笑顔でユーニを制し私に自分が着てた服を掛け、私が何も言わなくても
この現在進行形だった問題を解決してくれたけれども・・・
これって、何処までがカーリタースの手の上なんだろうか?
真相は何時もながらに不明である。




