061[身に籠らせる何か]
皆が何故「名実共に夫婦になる事」を強要し出したのか
その理由を知る事になったのは、その日の昼食の時間だったりする
因みに「ヤッた」と、誤解しない様に
寝起きの状態を解説するのが面倒臭くて、私が放置したユーニが
やっぱり『酒の勢いでヤッちゃった』と勘違いしてくれて
彼的に証拠となる物品を持って走り回りながら
『僕もだけど、フロースも初めてだったのに
本人の了承を得ずにやっちゃったんだ!どうしよう!』と
『フロースが逃げてしまった!きっと、僕は下手過ぎたんだ!
痛い思いをさせただろうから、謝って許して貰いたいのに
フロースが見つからないんだ』と
恥ずかし気もなく周囲の人に喋って回った。
とかって事を後日、耳にする事になるのだが、それは余談。
その余談の一片を耳にし、焦ったクーラーティオーが
皆で集まった昼食の前の時間
『実は2人の仲を取り持とうと思って』等の事情を説明するも
誤解は解けぬまま、説明するのに撃沈してくれ
昼食前に集まった食堂で再会したユーニが
『この国のルールに従って、半年前に夫婦になってるから
これ以上責任の取り方は無いけど
一生、妻としてフロースの事を幸せにするから』なぁ~んて
私が如何返事して良いのやら分からない事を周囲に人がいる前で
私に対して口走ってくれた為に
唐突に浮上した「名実共に夫婦になる必要性」に付いては
ユーニと、事情を知らない周囲の人間の誤認の中
「条件をクリアした」と言う事で、事無きを得た。
そんな茶番を、唐突に浮上した「理由」
ユーニにとっての「母国からの使者」
母国を逃げ出してから振りの「久し振りの再会を果たした相手」
騎士団の団長であるストゥディウムは、渋い顔で耳にし
曲がりなりにも自国の第一王子で
元自分の部下のユーニウェルシタースの口から出た
その言葉を静かに受け入れた御様子で案内された座席に座り
『半年がかりな上に酒の力借りてって
ちょっと半端なく、ヘタレだな…そんな夫婦関係で大丈夫か?』と
苦笑いをしてくれる
それからストゥディウムはワザとらしく溜息を吐き
『あぁ~でも、惜しい事をしたかもな…
やっちゃったのって、昨晩から今朝にかけての間だよな?
もっと早く来てやるべきだったか……。』と意味深な事を言い
『処女じゃないなら、愛人って手があるな』と続け
『こっちの国の損害を総て補填する代わりに
お前の親父であるウチの国王さんが
そのお前の嫁、自分の思い人の転生体かもしれないから
無条件で譲り渡せって言ってるけど、どうする?』と
軽いノリで言いだした。
ストゥディウムを食堂に招き入れる様に手配した家主のグランツは
『凄い冗談をぶちかましてくれるな、使者殿!
我が可愛い妹をから奪って、愛人にするとか言ったか?
そんなの俺が許すと思ってんのか?』と怖い表情で笑っている
勿論「本当は、血の繋がりもねぇ~し、妹じゃ無いけどな」
と言う突込みは、私の中で内緒で、呟く
私の存在の御蔭で、グランツの新しく弟になった夫ユーニも
『やっと、名実共に夫婦になれたのに、手放す訳が無いだろ?』と言う
「本当はヤッて無いから、なれてないけどね!」
『それに……。』
「ん?」
『今回、作れてなかったら
今晩にでも再チャレンジさせて貰おうと思ってるんだから!』
『何を?』
私は意味が分からなくて、ユーニに質問し
『何をって、子供!』
『……。』
ユーニの中途半端過ぎる無知さ加減に絶句した。
当たり前の事だが、子供はそんな直ぐには出来ない
身籠るにも2日は必要だし、身籠ったかどうだかの反応が出始めるのも
早くて、1ヶ月程度経過した後からだ
その場に居た全員が、ユーニを見た後、ゆっくりストゥディウムを見る
ユーニを遠目に眺めていたストゥディウムは
『いや、俺、そっち担当じゃねぇ~し』と言うが
『性教育って言って、ウチの店の近所の娼館に
ユーニを含めた部下数人を連れてきてやしなかったか?』
『あ、そうそう!それ切っ掛けで
僕とフロースは出会ったんだもんね!懐かしいなぁ~』等
私とユーニのダブル攻撃でストゥディウムは撃沈した。
『あのさぁ…ちょっと気になったんだけど、ユーニって……。』
『訊くな!』
私は、何か言いかけたテッレストリスを止め
『話を先読みして、そっち方面に話しに行きそうだから
急遽、話を脱線させたんだぞ!蒸し返すなよ!
もしもだぞ、万が一に、そこ事を訊いてユーニの口から
キャベツやコウノトリってネタが出てきたらどうする?』と
テッレストリスに小声で詰め寄る
『あぁ~流石にそれは無かろうて』とテッレストリスは否定したが
『キャベツやコウノトリ?
あぁ~!子供が生まれて、運ばれてくるんだよね』と
ユーニが会話に参入してきてくれ、私とテッレストリスは閉口する
此処で脳裏に「キャベツから生まれてくる」とか
「コウノトリが運んでくる」とかを信じてたらどうしよう
なぁ~んて不安が過った。
他のメンバーも同じ意見だったのだろうか?
微妙な空気間の中、皆が皆、ギコチナイ動きと言葉で
今の話を無かった事にして
身の内、腹の中に、今一瞬、浮かんだであろう疑問を引籠らせ
皆がそれぞれ誤魔化し、次の話題への糸口を検索する
『えぇ~まぁ~何だろうな?あ、そうそう!
フロース…で、良いのか?それとも、フローリスって呼ぶのが正解か?』
逃げ道を先に見つけたのはストゥディウムで
『え?あぁ~…フロースって呼ばれないと認識できないぞ』
私は呼ばれ方を選んだ。
『では、フロース殿
両国の戦いを収める為に母国に戻り、国王の愛妾になる気は無いか?』
『戻る理由の無くなった国の為に戻って、妾になれってか?
で?何の後ろ盾も無く、王妃様達に虐待死でもされろって?』
『嫌がらせくらいはされるだろうが、殺されるまではしないと思うぞ』
『イジメられるのはやっぱ確定なんだろ?嫌な話だな
自称、父方の身内の国を守る為でも
祖母を殺させた国の王様の妾になるのは、相手を殺したくなるレベルで
腹立たしくて、屈辱的だな』
『あぁ~…やっぱ、知ってたか……。』
『総てが終わってから人伝に訊いた。公開処刑したんだって?
普通、それで知らないとか、難しいだろ?』
『お前を誘き出す罠だったんだがな……。
来ないから実行するしかなくて、国王は残念がってたぞ
お前の為に年功序列で、娼館の御隠居やら、スラムの傭兵団の前団長
お前を子供の頃から知る者を沢山殺す羽目になったんだ
何故、来なかったんだ?
総ての隣国に知れ渡るレベルで宣伝したつもりだったんだがな』
私はストゥディウムの口から、私が知らなかった事を語られ
テッレストリスの方をゆっくり見る
テッレストリスは悲し気に口元だけで曖昧に微笑み
『伝え忘れていたけどそう言う事だ
俺はあの時、フーがどんな状態にあったか知ってるから
大丈夫だよ、恨んじゃいない』と言った。
そこで、私のこれからの方向性は決まった。
『帰って国王に伝えると良い!
私が欲しければ、まず、誠意を見せろ!と……。
私の出生や、生い立ちは、もう調べてあるよな?
まず、私は3年近く前、20連勝して木剣を授けられた時
願いを叶えて貰い損ねている。
放置されても、私の願いは変わっていないから、叶えてみせろ!』
そう言うと、ストゥディウムは
『剣闘士だったって、本当の話だったのか……。』と言い
カーリタースに
『お前、何度か二刀闘士を見に来た事あっただろ?
それ、コイツだ!興行師としての俺の最初で最後の剣闘士
罪人処刑専門の筆頭剣闘士』と
私の事を紹介されて
『そういう事は、最初に傭兵として貸し出してくれた時の手紙に
ちゃんと書いといてくれよ!』なぁ~んて怒鳴る
そう言えば…その手紙を見た気がするが……。
私が剣闘士だった事は、書いていなかった様な気がするのは
気の所為ではないだろう
私がカーリタースとストゥディウムの会話を眺めていると
『剣闘士時代に願った願いって何?』とユーニが質問してくる
黙っていたら『夫なのに!』と駄々を捏ねられそうだったので
私は正直に話す事にした。
『私が剣闘士になった年、城下で死んだアピスの墓前に差し出せる
アピスを殺した実行犯の首と、その命令を下した者達総ての首
その事の発端となった模擬海戦での
八百長を斡旋していた管理官達の首を
私に切り落とさせてくれるか、私の目の前で切り落として欲しい』
そう、それは、当時の願いなのだが、今、生き残っているのは
私掛かり損じた手練れと、金持ちで位の高い王侯貴族
然もそいつ等は、私が何度も命を狙っていた為
私的に情報源の乏しい他国に逃げ去られてしまい、手が出せなくなている
手練れの方は兎も角
国王であるウーニウェルスムなら猶更
他国と血縁関係を結んで、他国に居る身内を差し出すのは難しい
叶えるのが難しい願い
どんなに誠意があっても、叶える事ができないであろう願いなのだが
何も知らないユーニにとっては
私が妥協案を差し出したかの様に感じられたらしく、怒っていた。




