059[下準備]
初め「コイツ等どうしたんだろう?何故に、ユーニとグランツが
ユーニの実家の城に忍び込む計画を立ててるんだ?」とは
ちょっとだけ思ったのだが、
その時は「世の中、そう言う事もあるかもしんない」と放置
そして最初に、ソレを耳にした数十分後と
更に数十分後、紙に書かれた物を目にした2回目のソレ
その後の今、私は自分の認識の甘さを痛感している
甘かったのは話をした場所と、話相手への情報への縛り
そう、あの時、グランツの所の王族が集まり
ユーニとグランツは、その輪の中で雑談に興じていた
そんな、周囲に人がいる中で話したのは
『ターゲットをピンポイントで狙い、乗り込んで行って夜襲掛ける』
と、言う会話・・・
ソレは「カーリタースとテッレストリスと私だけの会話」だと
私は一人、勝手に思い込み
ついうっかり、カーリタースとテッレストリスに
ソレに対するユーニとグランツへの口止めを忘れていたのだ。
私は後になって今更、自分の失態を思い知り
自分に対して残念に思い
更に、ユーニとグランツに「ソレ」に対する為以前の
それを実行する為に必要な最低限に知識が無い事に対して
本気の絶望感を覚える
「帝王学を知識として習った結果の弊害か……。」
私はユーニとグランツを無言で眺め
戦争状態から脱した後に教育を受けて育った王子様達の無知さを
生温い目で見て、溜息を吐いた。
私は色々思案し、思い悩んでから
先に『カース…こんな事を頼むのも変な話なんだが……。
過保護に育った王子様達に
子供向けのスラムでの身の守り方を伝授してやってくれないか?』と
カーリタースに願い出る
私の台詞にコクレアとテッレストリスが
『そうだわ…ソレ絶対に必要だわ…馬鹿お~……。
じゃなくて、王子様だって汚い事も知っておくべきだもんね!』
『そっか、そう言う知識が無いから、ユーニとグランツは
こんな…あ~えぇ~っとぉ~……。アレなんだな』と納得する
私にソレを頼まれたカーリタースは
『良いけど……。
ソレを「自分自ら教える」と言う選択肢はなかったのか?』と
私に「自分でやれよ」と言いたげに
本当に面倒臭そうな態度ではあったが、了承してくれた。
私は『物事は年長者から教えられた方が聞き入れられやすいだろ?
それにカースなら、内戦の時に培った知識があるんじゃないか?
私には無いソレも、ユーニとグランツに伝授して欲しいんだ』と
追加で要望を発注して、カーリタースに責任を押し付け
互いが互いに、実家の城での生活の話題に花を咲かす
ユーニとグランツに対しては
『秘密裏に潜入する為に必要な知識をカーリタースに学べよ
そうじゃないと、私は隙を突いて、ここから姿を晦まして
一人で勝手に行動させて貰うからな』と伝える
自分を人質に取る場合
相手にとって、自分の価値がそれなりに無いと
自分が切り捨てられたりする場合が高確率であるのだが・・・
ユーニとグランツにとって、私はそれなりに価値があったらしい
ユーニとグランツは私の言葉に驚き、少し怒りながら
『駄目だ!絶対に駄目だからな!
僕の前から勝手に居なくなるなんて、僕が許さないからな!』とか
『全く良い性格してるよ!ウチの新しい妹ちゃんは、本当に我儘だ!
直ぐに及第点を貰って主導権握らせて貰うからな!』と
自ら進んで、カーリタースに教えを乞う事を了承してくれた。
その上で、私が自分の怪我の治療に大人しく専念する事を条件に
戦争を終結させる為の戦いに
「私が参戦する権利」をカーリタースとグランツに了承して貰い
作戦実行までの時間の猶予と言う、仮初の停滞した時間と
この場に居る皆から油断を勝ち得る事が出来て
私は密かにほくそ笑む。
正直、グランツを連れて行ってでの「勝ち名乗りを上げる結果」は
祖国にとって、後々
「好ましくない結果を生み出しそうで宜しくないだろう」と
私はそう思う
グランツに他意は無くても
グランツの国の政治を構成する偉い人達には企みがあるのは明白だ
その企みは大方、今、ウーニウェルスムが統治する祖国の偉い人達
それ総てを一度一掃してしまい
グランツの国の偉い人、又はグランツ側の国に有益な者達に
それを挿げ替えて、我等が祖国を完全なる属国にし
グランツ側の国の利益を上げる
その程度の事は考えていると推定される。
祖国を虐げられる側にしてしまうのは、私的に美味しくない
だから、この場合は、攻め込んで落とされるより
取敢えず、トップであるウーニウェルスムを暗殺して
その息子、第一王子であるユーニウェルシタースを帰還させて
反対する勢力をカーリタースの口先三寸で押さえて貰って
その上で、ユーニを王位につけてしまった方が収まりが良い筈だ
戦っている相手である隣国に亡命していたユーニに対して
反発を覚える者も少なくないであろうが
事の発端が発端だけなだけに、黙らせるのは簡単であろう。
祖国の王様であるウーニウェルスムを殺す為
私が単独で近付くのは
「ウーニが、セププライを求めている」のなら
セププライの記憶を夢で見て知っている私が
ウーニが求めているであろう、セププライを演じてやれば
凄く簡単に出来る筈
私には、ウーニを殺す事を躊躇する理由が無いから
当面の問題は無い。
でも、それは
「私の体が自由に動き、体力が備わっているのならば」の話。
問題は実行する為に必要な下準備と実行力・・・
武器の調達は「事前に使い慣れておきたいから」と調達して貰っても
私の日頃の行いが悪いから
使わない予定の時間には、取り上げられてしまう自信がある
だからと言って、現地調達は、手持ちの金では心許ない
それなら仕方無しにと、戦う相手の武器を奪って使う場合は
素早さが必須になってくるのだが
時間的に何処まで、前の自分の体力や素早さに戻せるかが
本当に分からないから、実行可能かすら不確定だったりする
だが、期限を考えると見切り発車するしかない
私は自分で引き延ばした時間の猶予を単純に計算し
何処まで内緒で、自分の体を治せるかを取敢えず換算する
相手は、幼少の頃から毒の耐性を強化している王族
毒を盛っても、味とかでバレるし
普通の人よりも利きが悪く、即効性も期待できないから
弱らせて暗殺するのは無理
元より毒を調達するリスクをここで犯すのはナンセンス
隙を突いて暗殺するのがベストだが、話は少し元に戻って
それができるのは
「私の体が自由に動き、体力が備わっているのならば」の話で
思考が無駄にループしてきていた。
私はゆっくりゆっくり、痛みを感じない様に体を伸ばし
落馬して怪我を悪化させた後から始め
欠かさずにやっているストレッチ運動を気分転換として始める
そんなストレッチ運動の御蔭で
最近では、傷が痛まない程度の可動域も少しづつ増え
傷の治りも、通常より早くなっている
今、怪我が治りきってはいないが、密かに立って歩けるのは
その結果で、まだ、皆には歩ける程回復している事は内緒にしている
後、検証していないので、どの程度まで動けるかは不明
昼は、皆が居る場所にユーニに連れ出され
ユーニが『紙面上とは言え、夫婦なんだから』と
夜、一緒に寝る事を譲らない為に一人になれず
確認ができていないのが、悲しい現実だった。
「さて、どうするべきだろうか?」
ぶっつけ本番で戦いの場に出て、動けるか試すとか
そんなギャンブラーな事は、正直避けたいが
今回、カーリタースが、どうも私よりユーニ側についている臭いから
考えを話して反対されたらアウトだし
カーリタースに女性としての居場所を貰ったコクレアは
カーリタースに隠し事をしないから、相談できない
クーラーティオーは
怪我を完治させていない人間が戦いの場に出る事を嫌うし
テッレストリスに話したりしたら、確実に一緒に行きたがる
同じ風の加護を受けたテッレストリスが
本気で私を監視しようと思えば、今の私では太刀打ちできない
私は大きく溜息を吐き、ベットに仰向けに転がった。
少ししか動いていないのに、疲労が私の体をベットに縫い付ける
続いて眠気に襲われた私は、体力の衰えに愕然としながら
意識を手放した。
私が寝入ったのを確認したカーリタースが
私の知らない所でほくそ笑み、皆に何かを提案し
私に知られぬ様に口止めをした上で、その意見を了承されている
私はそれを知らぬまま、体調と体力を少しづつ整え
少しづつ戻って来た風を操る力で
アハ・イシュケであるアモルとトニトゥルスと連絡を取り
単独行動する為の下準備を地道に整えて
グランツの国が動き出す日の前日を期限として
グランツ達を巻き込まない状態で行動を起こせる日を待った。




