058[知る事]
無駄にしんみりしてしまって、逃げ出したくなる様な空気の中
カーリタースがテッレストリスと一緒に来て
助け舟を出してくれるまで
私は、ユーニとコクレアとクーラーティオー
今世の祖母のドゥルケと面識の無かったグランツ
この4人からの「フロースが祖母を亡くした」のは
「フロースの所為じゃないよ」と言う
同情含みの慰めに苛まれ続け
祖母の死を悲しむのでなく、違う意味で眼尻に涙を溜める
私は「祖母の死を口惜しい」と思っていたが
祖母に対して哀愁的なモノを感じてはいなかったので
とっても居た堪れない気持ちになってしまっていたのであった。
私をそんな中から救出してくれたカーリタースは
これまでの話を訊き
『完全に身も心も回復するまでは
可愛そうだから、コイツにドゥルケの話をしてやるな』と
私の頭を撫でながら
グランツの所の使用人達を我物顔して顎で使い
テーブルとイス、焼き菓子と紅茶を準備させてから
『取敢えず、お茶の時間にしようか』と
皆に、カーリタース自身が自分で作ったのであろう
ナッツやドライフルーツの入ったブランデーケーキを切り分けて
一人一人に手渡しで配ってくれた。
事前にお茶の時間にする為に準備していたのだろうが
勢いに任せたカーリタースの行動は功を奏し
地味にその場に居る皆の発言や行動が全て
カーリタースに支配されていくのが私的に透けて見える
私はその光景を眺め
「カースの人を含む動物の意思を操る力とかズルイわぁ~……。」と
グランツの所の使用人の様子を見て
「それがなくとも、場作り上手いんだもんなぁ~」と
ユーニとグランツとコクレアとクーラーティオーを見、続いて
私は、テッレストリスを見ながら
「カースだけは、敵に回したくねぇ~なぁ~」等と
内心、本気で思う
そんな私の眼差しに気付いたカーリタースは
『フーは、特別だから安心してくれてて良いよ』と
ケーキを私の皿に追加しくれ
『フーが俺を信じてくれている限り、裏切ったりしないから』と
使用人が運んできたカートから
新たなケーキをテーブルの上に置いて微笑み掛けてくれた。
果たして、今の言葉の意味は何処に繋がっているのだろうか?
私は「ケーキはまだ、沢山あるよ」と言う意味だったのか?
将又「これからの今後、精神的兼、物理的な意味で」なのか?
測りかねて私は困惑する
でも、取敢えず、今のお茶の時間の事ではなく、今後の事だと判断し
『じゃあ、私は、信じてないって疑われない様にしなきゃだな
カースに裏切られたら、私はきっと死んでしまうから』と返して
カーリタースに取り分けて貰ったブランデーケーキを食べて
『相変わらずカースの作る物は美味しいなぁ~』と
ケーキへの感想を簡単に短絡的に述べた。
ユーニとグランツ、コクレアとテッレストリス
クーラーティオーも『美味しい』と
カーリタースの作ったケーキを絶賛して
暫しお茶の時間を楽しみ
グランツが何かを思い出したかの様に使用人を下がらせ
唐突に・・・
『ユーニん所の実家の城に潜入する段取りについてなんだが』と
模造紙を壁に広げて貼り、話し出す
私とコクレアは視線を合わせ
何分か前の事が教訓になっていなかった事を残念に思い、溜息を吐く
『おい…ちょっと待て』と、テッレストリスが
明らかに自分より年長であるグランツの肩をポンッと叩き
『お前は、馬鹿なのか?』と苦笑いした。
正直、私とコクレアも今回だって「その意見」に賛成だった
テッレストリスは窓と壁に貼られた紙を指し
『大丈夫か?窓から見える位置にそんな物を貼ってどうするよ?
外から丸見えじゃないか!不用心過ぎだろ?
外から盗み見られたらどうする?
作戦を逆手にとってカモられるぞ?鴨葱になるつもりか?』と
グランツに注意する
グランツと、私の隣にいたユーニは
テッレストリスが言う「駄目な理由」が理解できなかった様子で
凄くビックリしている御様子だった。
私は前回と今回、そのグランツの様子の理由に心当たりを見付け
『あ…そう言う事か……。』と、一人で納得して
『グランツの国の模擬開戦では
戦略が駄目でも、筒抜け状態で、バレバレでも
グランツのチームって、馬鹿みたいに戦力があるから
今まで、戦略の必要性が低くて、問題が起きなかったのか!
道理で、真っ向勝負しか挑んで来ない訳だ』と
私は一人、スッキリした気持ちで紅茶を啜る
剣闘大会関連の興行師であったカーリタースは
私よりも、もっと
グランツの思考パターンの根源について理解していたらしく
『テレ……。
グランツ王子に無理難題を押し付けてやるなよ』と笑い
『卑怯過ぎる手が御法度な模擬開戦に慣れたグランツに
卑怯な手と殺し合いに慣れた俺達みたいな思考は
普通に理解できないんじゃないか?』と言い出した。
カーリタースの言う「卑怯な手と殺し合いに慣れていない」
グランツとユーニは、明らかにカーリタースの言葉に戸惑っている
私は大きく深呼吸してから、わざとらしく溜息を吐き
『王子様コンビは、足手纏いになるかもしれないから
今回の件については、辞退して貰った方が良くないか?』と
提案してみた。
テッレストリスが『うんうん』と2度頷き
『ウーニウェルスムの首を
俺とフーとコクレアの3人で取って来てやるから
ユーニは、グランツの陣営で大人しく待ってろよ』と宣言する
それまで黙っていたコクレアが
『ちょっとテレ!坊ちゃんを戦力に入れては駄目よ!
筋力が落ちて、体力も無くなって、怪我の完治してない状態では
連れて行けないわ!今回連れて行くなら、我が旦那様よ!』と
カーリタースの腕を取った。
事実、現状そのままの今の私の怪我の完治度状態では
この場に居る非戦闘員のクーラーティオー以外の誰にも
私は勝てないだろう
私がそれを自覚して黙っていると
カーリタースが私の頭をポンっと叩くと
『怪我して弱って
完全に普通の女の子相当の状態になったフーでは
戦力にならないだろうからな』と言って
『騎士団団長のストゥディウムの相手は難しいが
足止め程度なら俺に任せろ
後、同時には無理だが、側近のプルウィア程度なら
俺が引き受けて始末しておこう』と、本格的な事を言い出した。
そこで『待て待て待て待て!』とユーニとグランツが反論する
『おっさん!戦えるのか?見るからに筋力ねぇ~し参謀タイプだろ?
プルウィアって、騎士団長の連れてた副官の女だろ?
その程度の時点で、ある程度の手練れだぞ』と、グランツ
『失礼だけど』と、ユーニも
『カーリタースがプルウィアに勝てるとは思えない
正直プルウィアは僕よりも強いぞ!
僕だって練習試合して3本中1本しか取れないのに』と
2人は、カーリタースの力量を疑っていた。
密かに、通り魔的な仕事で、プルウィア相手に素性を悟られず
相手に情報を与えずに退却させた事のあった私は
『プルウィアと殺し合った事は無いけどカースなら…
カーリタースなら……。』と言の葉を探す
そして見つけた言葉を私は口にのせ
『手加減して、プルウィアを生け捕りにするのは無理でも
殺す事は簡単なんじゃないかな?
カーリタースは、全開状態の私よりも、確実に強いよ』と、言うと
『そうそう!そうは見えないかもしれないけど
カーリタースは、私と坊ちゃんの剣の師匠だから、相当の手練れよ』と
私の言葉にコクレアが賛同し
『何と言っても
我が旦那様はの御父上は、ストゥディウムの剣の師匠
ストゥディウムとは
実力の「1・2」を競う兄弟弟子だったんだから!』と
カーリタースの実力自慢を始めてしまう
カーリタースは『はい、はい……。』と厭きれ顔で
『コクレアの台詞は聞き流していいぞ』と
ユーニとグランツに言ったのだが
2人は、コクレアのカーリタース自慢な話を真剣に聞いていた。
私とカーリタースとテッレストリス
そして暇にしていたクーラーティオーは手持無沙汰になり
グランツが壁に広げた作戦書に目を通す
『昼間なら謁見室、夜なら寝室って…適当過ぎる予測だな
王様って、そこの往復が仕事なのか?』
テッレストリスが怪訝そうな顔をする
『いやいや、俺の記憶では、アイツは何時も用事がない限り
執務室で仕事して、気分転換に執務室で筋トレして
時に、セププライが住んでた離宮で休憩してる事があっても
夜は執務室のソファーで寝てるのが定番だったぞ』と
カーリタースが言う
コクレアも
我らが国の国王であるウーニウェルスムと面識があるらしくて
更に、疑問に思っている部分があったらしく
カーリタースの言葉を聞きつけて
コクレア自身がユーニとグランツに熱く語っていた
カーリタース自慢の言葉を中断してまで
『あ、私も我が国の国王と、執務室でしかあった事がないわ』と
会話に入って来た。
そこでユーニが『へぇ~……。あ!でも、執務室って何処にあるんだ?
僕は行った事が無いぞ!何時も父上とは謁見室でしか会わないから』と
ちょっと違和感を感じる変な事を言い出す
『へぇ~変わってるなぁ~……。あ、でも、ウチは親父と会うのって
闘技場か、剣闘士の養成所がメインかも』と
グランツはグランツで
「それはそれでどうよ?君の所の王様、仕事してる?」
と、言いたくなる様な事を口にしてくれていた。




