054[持ち込まれた情報]
私は、その日の午前中
『ずっと寝続けているとベットが湿気るから』と、
メイドの人に言われ、シーツ交換の為に移動を要望され
ユーニに御姫様抱っこでテラスに連れ出され
ユーニが事前にテラスの木陰に準備して作った寝床にて
日光浴をしながら体を拭き
傷が早く癒える様に、傷が化膿してしまわない様に
クーラーティオーに傷の消毒をして貰っていた。
その時、ユーニは
カーリタースとコクレアと一緒にグランツに呼び出され
私の側に居たのはクーラーティオーと、アモルだけで
訪問者は、包帯の取り換えの為に半裸状態だった私を暫く眺め
何か丁度良い悪口を思いつく事が無かったらしく
『良い御身分だな』的な悪態を吐き
私に向かって、ニヤニヤしながら話し掛けて来た。
アモルが私の側に駆け寄り
『如何しよう!覗き魔が開き直って話し掛けて来たよ!』と
『衛兵さぁ~ん!変態が出ました!』と騒ぎ出し
クーラーティオーは、私が服を着るのを手伝い
『この国の変態さんは堂々としてますねぇ~』と感想を述べる
私はと言うと「メイドさん…グルかぁ?」とか
「グルなら、衛兵も来ないかもしれねぇ~なぁ~」と思い
訪問者を一応「敵」と見做し
クーラーティオーが使っていた鋏をちょっと拝借して隠し持ち
今、風の力を借りたら、ガチで死亡フラグ立つので
何かあった時の為に自力で対処できる様に、軽く身構えた。
結果は、微妙にしょぼい・・・
『お前の所為で、我が国は、隣国から脅迫受けてる』だの
『お前の所為で、戦争になりそうだ』だの
簡単に平たく言えば、
「迷惑考えずに隣国に逃げて来てくれるな!
この国を守る為に祖国に帰って、捕まってしまえ!」と言うのが
この国の国民達の意見で、
それを伝える為に、この男は訪問して来たみたいだ
少し離れた場所からメイドさん達や、
衛兵さん達らしき人影が、此方の様子を窺っていたので
間違いじゃないであろう
私は、これが予測範囲内の出来事であった為
「そろそろ、潮時かな?」と考え
「私を留まらせたい」と思ってくれているであろう人達に内緒で
一般国民の皆さんの意見に少しだけ従う事にした。
此処は祖国から見て、南にある隣国
アモルが人型を取っている事と
海は見えないが、風向きによって、窓から潮風を感じるから
西側の海岸地域に属する場所である事が推測される
今世、母の代からの付き合いであるアモルなら海馬だし
海から祖国に上陸するルートを行く事が出来るのは確実で
「大切な人を守る為」と言う名目を伝えれば
英雄物語とかが大好きなアモルなら「手を貸してくれる」と言う
確証も私の中にある
私はクーラーティオーが
消毒の為に持って来た救急箱をささっと勝手に片付け
無くなった物を認識させないようにして
アモルの認識「変態さん」を追い払う為に騒いでいるアモルを呼び
クーラーティオーには救急箱を渡し
『もう、消毒は終わってるし、返して来てくれ』と
クーラーティオーを自分から遠ざける事にした。
『この変態さんから、未成年には聞かせられないかもしれない
詳しい話を訊きたいから』と、適当な事を言い
自分も実は、未成年である事はスルーして貰う方向で
クーラーティオーをこの場から離れさせる事に成功する
『この国の王子様と我が国の王子が、暫く戻って来ないって
しっかりとした確証あっての行動みたいだな、違うか?』と
私は時間に余裕があるらしい訪問者に話し掛けたら
私の問い掛けに対して男は『その通りだ』と言い
『関所まで迎えに来ている
お前の隣国よりの使者に、今から引き渡されて欲しい』と言う
どうやら、祖国は私が思っていたよりも近い場所にあるらしい
私は意を決し、アモルに目で合図して、
アモルの手を借りてふら付きながらも立ち上がり
テラスの木陰から出て、男に近付き
『祖国に戻るのは吝かではないが
悪いけど使者とやらに引き渡されるつもりはない』と答えた。
男は一瞬戸惑いを見せ『お前、幾つだ?』と、年齢を訊ねて来る
どうやら、相手が思っていたより、今世の今の私は若かったらしい
私が、そこは素直に『16だが、何か問題があるのか?』と言うと
『ウチの娘より若いじゃないか…』と呟き
『それにしてもお前、血の気が無さ過ぎだろぉ~…
それで動けるとか、もしかして、貧弱な地位の有る貴族とか
金持ちのとかでは無いんじゃないか?』と
何故か話の流れが変わって来た気がする
どうやら相手は
私がユーニと同じ様な高い身分の者と思っていたらしい
『私の身分が知りたいのか?
そうだな…祖国では、スラム上がりの傭兵で
現在、見ての通り、療養中で無職としか言いようが無いな』
私がそう言うと、アモルが
『身分を証明するなら、木剣見せたらよくない?』と
私がノルマを達成し、生き残った証として授与された
昔、最高位の筆頭剣闘士だった事
二刀闘士だった事、引退時期と、その時期の年齢
名前、生年月日に当時、カーリタース所有だった事や
試合履歴が記載された木の剣を勝手に部屋の中から持って来て
私の静止を振り切り、走って男に見せに行った。
男は木剣をアモルから受け取って、そこに書かれた文字を読み
『フロースって、殿下のお気に入りの坊主…
女神を怒らせて、性別を女にされたとか言う噂の……』と
後半、カーリタースの言霊の呪いが掛かった法螺話含みのネタが
私に突き付けられ、私は何と無くうんざりさせられる
『うんうん、多分そのフロースは「フー」の事だよ』と
アモルが嬉しそうに肯定してくれた。
男は『しくじった』と呟き、頭を抱え
『俺が此処に来て話した事を総て忘れてくれ』と言い残し
走り去って行く
どうやら、グランツの配慮で私は、正体不明の人物として、
此処に匿われていたらしい・・・
とは言え、自分勝手に事情を話しといて、そのまま放置とかは
問屋が卸しても、私が、その取扱いを認めない!
『アモル、あのおっさんを確保して連れて来てくれ
私に現状を話して逃げようとしたツケを払って貰う』と言うと
アモルは、馬の姿になり追いかけ
おっさんの首根っこを銜えて、引き摺って連れ戻してきてくれた。
私は満面に笑みを浮かべ
『お前の所為で決心を固めたから、教えといてやる!
全ての剣闘士守る立場にある
この国の国王のプライドを傷付ける事にはなるが
私は祖国に帰る事にした。
私に話した事を後悔しながら、今回の事を企てた関係者と
一緒に保身の仕方を考えるが良いよ』と、言い放つ
『忘れてくれって言ったじゃないか!』と
必死に反論する男を鼻で笑い飛ばし
『アモル、それ、もういいや、
塀の外に捨てて来てよ、それで、直ぐにでも戻ってきてくれ』と
私は踵を返す
「と、言っても…荷物も無いんだよねぇ……。
祖国が敵陣で、敵陣に見方が0なのに乗り込まなきゃいけないなんて
どんだけ、ドS設定なのさ」と、旅支度を始める
「そんな、ドS設定に突っ込んで行こうとしてる私って
馬鹿だよな!ユーニとか、グランツの国とか放置して逃げれば
ずっと欲しいと思ってた
普通の人の普通の幸せを見付けられるかもしれないのに」
私は深呼吸して『馬鹿だよな』と、呟き
「セププライと違って私は、捨てるの苦手なんだよな」と
大きく溜息を吐いた。
実質、私とセププライとが別の存在だからかもしれないが
セププライが捨てたモノに、私は執着を持てないのではあるが
今世の私が一度でも手にしたモノは、貧乏性と言う名の不治の病の為、
正直、中々、捨てる事ができないので、祖国の自室には・・・
捨てられないモノが詰まった箱で、壁ができていて
何人たりとも、自室に立ち入る事を許したくなかった現状
普通に帰れなくなった今
この際だから願わくば、私では捨てられないので
私の知らない所で、荷物を処分しておいて欲しい
そう願う、今日この頃だったりする
そんな今日この頃の今、私の全身から冷汗が滴っていた
今朝の医師の言葉通り『後、2ヶ月は安静に』と言うのは
嘘でも、冗談でも無かったらしい
まだ、少ししか動き回っていないのに、
治りきっていない傷の痛みと、傷の痛みの為に溜った疲労
血の製造が間に合っていない為の倦怠感で意識が飛びかける
私は必死で意識を繋ぎ留め
必要最低限しか集められなかった荷物を手にテラスの外に出た。
アモルは既に帰ってきており『ただいま!』と微笑んだ
私は、これからしたい事を
『此処に居る、此処に来ている皆を守りたいから』と言う
理由付きで話して、アモルには馬の姿に戻って貰う
馬に戻っては貰ったのだが
今の私には、馬具を付けていないアモルに乗る事は自殺行為だった
そんな今の私に馬具を準備し、それをアモルに装着する事も不可能
風を使えば、身軽になって乗りこなす事も可能だが
対価として渡せる体力も無しにそんな事をすれば
前回みたいに切り刻まれるだけでなく、100%風に殺される
でも今、出て行かないと、皆に監禁される事は必至で
現実問題、さっきの男に宣言してしまったから、選択の余地は無い
私は仕方無く、傷が開くのを承知でアモルに飛び乗った。