051[脱走するならば、思い立ったが吉日]
気付けば、幽閉生活が1ヶ月以上も経過していた。
私は取敢えず・・・
カーリタースの法螺話から生まれた言霊の力を信じ
「女神に怒りを買って性別を変えられた」設定押しで
自分からは、情報を提供しない方向で黙秘を続け
着る物については・・・
『お前、相手に強制的にそんな格好させてたら
好きになって貰える筈の相手にでさえ、嫌われる事になるぞ
もう、遅いかもしれないけどな』と言う
ストゥディウムの苦言が、ウーニの心に届き
足枷は外して貰えないながら
着心地の良いワンピースの着用が許される事になって
普通に生活できる様になっていた。
そして、行動範囲を極端に制限され
運動していないと2日で落ちてしまう筋力を落とさない為
体を鈍らせない為に、毎日の筋トレが欠かせない現在
日に3度の給仕の時間
国王であるウーニが、公務の為に同席しない時に来る
兵士とメイドと仲良くなり
暇も見付けてはやっている体バランスのトレーニングについて
『それ、ダイエットになりますか?』と訊かれ
『筋肉付けない程度にやれば、二の腕とか細くできるよ』と答え
『フロースさんって、凄腕のディマカリエだったんですよね?
稽古付けて貰っても良いですか?』と頼まれ
『女の子達に教える体バランスの訓練に付き合えば
稽古付けなくても、腕は上がると思うよ』と言うスタンスで
体育会系のノリを盛り上げて、通って来る生徒を発生させ
私は先生的な立場で、筋トレを指導する様になっていた。
こうして人が集まれば、情報も集まる
緘口令が敷かれている情報も、人と仲良くなれば
耳にする事が可能になるのが、この世の定番のセオリー
私は細心の注意を払い、怪しまれる事が無い様に
ありとあらゆる情報を情報の種類を問わずに収集し
序に、ダイエットや剣術向上による
御礼のプレゼントや贈り物をゲットして
この場で生きるのに痒い所にも手が届く状況を手に入れていった。
そして、今日の終わり
嫌悪感を持って、ウーニの顔を見ながら、話し掛けられながら
食事を終え『また明日、朝食を持って会いに来るよ』と
ウーニが、私の心の内を知らずに帰った後
『さてと…これからどうするか……』
私は此処に居る理由が
1ヶ月前から、一つも無くなってしまっていた事を昼に知り
小さく散歩する様に歩きながら、足首の枷の鎖が鳴るのをBGMに
この部屋から、この国から出る算段を立て始める
今回に限っては・・・
戦争が起きても困るので、隣国の王族であるグランツは勿論の事
王命で何かやらかして貰っても困るので
この国で生きるカーリタースやコクレア、テッレストリス
付き合いの長い友人知人を「頼らない方が賢明である」と判断する
更に人間以外・・・
馬の魔物であるアハ・イシュケのアモルやトニトゥルスの方も
国王であるウーニに逆らえない相手
「ストゥディウムの世話になっている」と、言う事なので
今回は、除外するべきだ
と、言う事で・・・
マジで正直、今回、本当に行く当ても、頼る相手も無い
しかも、貢物はあっても旅支度になる物は無し
勿論、旅費となる金も、旅に出るのに使う足も無い
行き当たりばったりで、逃走する程、私は無謀な人間でもない
『でも、祖母ちゃんを処刑した国王を許せる心の広さは無いし
此処での生活に甘んじて居られ続けられる程
私は図太く出来てはいないんだよな』と呟いた。
其処で静かな笑い声が聞えて来た
私は不意をつかれ、立ち止まって身構え、声のして来たらしき方向
暖炉の方、その暖炉の奥にあるアシピットの方に目を向ける
私の目の前でアシピットの扉がゆっくり開き
『そっか、来て良かったよ!フロース!僕と一緒に行こう!』と
「外の警備の人に聞こえるぞ!」と
突っ込み入れたくなる様な、普通の声のトーンで声の主が宣言し
その灰溜め、灰を落とす為の穴がある扉の奥から室内へと
其処から入って来るのが常識の様な雰囲気で声の主は入って来た。
蜘蛛の巣だらけ、灰だらけの状態で
私の方に手を差し伸べて来る男に対して、酷く残念に思い
私が生理的に、その汚さから後ずさると
『酷い』と、相手から小さな呟きが聞えて来る
侵入者は「蜘蛛の巣に灰、塵と埃」と言う汚れを払い落とし
『フロースには、閉じ込められた姫君を助け出しに来た
王子様に払う敬意は無いのかな?』と言いながら近付いて来る
私は、薄汚れた我が国の王子様、ユーニの顔を見て
「その設定で、姫を助ける王子様の物語りや
御伽噺、武勇伝に対して謝罪するか、土下座して来い!」と
その設定にしては、格好の悪い登場の仕方のユーニに対し
少しばかり抗議する心を携え
それでも
本気で自分が格好良くやってる設定でいるユーニに対して
「馬鹿過ぎて面白いな、おい!」と壺に嵌って
笑いを堪えようとして失敗し、口元と腹を抱え
噴き出す様に笑いを零し、肩を震わせ笑ってしまう
ユーニは本気で怪訝そうな顔をするが
私は、ユーニの顔を見ただけで気が抜けてしまい
私の中のドロドロになっていた暗い気持ちが晴れた気がする
これは余談だが、私的に意外な事に
ウーニの若い頃と、同じ顔をしているのに
私はユーニに対しては何故か、嫌な気持ちを持てなかった。
『ユーニは、祖母ちゃんの仇の息子なのにな…』
私はそっと呟き、大きく深呼吸して笑いを一度収め
傍まで来たユーニをじぃ~っと見詰める
そして1歩、ユーニに近付き
『お前さ…無計画過ぎだろ……
普通、連絡なりなんなりを取ってから、行動に移せよ
夜中に行き成り、1ヶ月以上振りに姿を見せて
「一緒に行こう」は、ねぇ~だろ?』と、私が言うと
ユーニは思った通り、凄くうろたえてくれる
私は何だかとっても楽しくなって、ニヤニヤ笑い
『私は、怖いモノ見たさ溢れんばかりのチャレンジャ~だから
ユーニについて行くけどね』と
ユーニの肩口に触れ、そのまま服を引張って引き寄せ
ユーニの首に抱き付き『来てくれてありがとう』と言う
ユーニは・・・
古びて湿気って黴た、倉庫の品物の様に凄く埃臭かった。
一度嵌ってしまった笑いの壺は、アリ地獄の巣の様に脱出が難しく
ちょっとした事で、収まった笑いがまた復活して来る
私はユーニを解放してから
肩を震わせながら笑い、笑いが止まらず一頻り笑い続ける
それから『何なんだよもう!』と不貞腐れるユーニに
今後の計画を訊ね
その内容の残念さに『あぁ~あ、もう、これだから箱入りは』と
ユーニから移った服の汚れを気にせずに
私はベットに仰向けになって倒れ込み、また笑った。
笑って不意に、
「暖炉の下にある通路は、複雑な迷路になっている筈だ」と
私は我に帰り、ベットから起き上がる
『ユーニ…誰にコノ隠し通路を教えて貰って来たんだ?』
私の質問にユーニは
『子供の頃、探検してて迷子になった事があってね』と
楽しげに、子供の頃、
アルブムとプルウィアと遊んでた時の話を語り出す
それと引き換えかの様に、私は冷汗を掻き、緊張していく
凄く嫌な予感がして
少しづつ心拍数が上がり、私は全身で自分の鼓動を感じ
意識を集中させ、部屋の中の空気を監視下に置く事にする
監視下に置いてみたら室内に違和感を感じた。
「今、この部屋には、私を合わせて3人いる」
私は深呼吸し、気配を辿る為に集中力を高める
『ストゥディウムが大きな犬を連れて迎えに来てくれなきゃ
今、僕もアルブムもプルウィアも死んでたと思うよ』と言う
ユーニの言葉をヒントに私は
その違和感を感じさせた相手を完全に特定して
特定した相手の居場所を空気伝いに発見し
緊急事態になったので、ベットのシーツをひっぺがしてから
ナイフとフォークとスプーンを投げ手窓を割り、風を引き込み
詳細未確認な緊急を要する事態と硝子の破片から
自分とユーニを手にしたシーツを楯にし守った。
私とユーニしか居なかった筈の部屋の中から
別の誰かの悲鳴が上がり、暖炉の前に人影が姿を露わした
それは、透明な抜身の大ぶりな剣を携える
体の反面を硝子の破片で輝かせ、反面を血に染めた女性の姿で
ユーニが『プルウィア?』と声を掛けて駆け寄ろうとする
私はそれを、ユーニの服を掴んで必死に制止し
『馬鹿か?お前は!』と
服の背中が斬り裂かれたユーニの背中に手を突っ込んで
ユーニの背中にできた刀傷を撫でてやる
突然の痛さに驚くユーニに
『お前、その女に殺される所だったんだぞ』と言ってやる
『うそだろ?プルウィアが僕を殺す訳が無いじゃないか』と
信じないユーニに、私は溜息を吐き
『訳が無い何て事は無いんだよ』と言って
『プルウィアは、ストゥディウムの命や立場を守る為なら
自国の王子のユーニでも、平気で殺せる女だよな?』と
プルウィアに向かって言い放った。
プルウィアは一瞬、ビク付き
『あら?女になったばかりだそうだけど、女心が分かるのね
オカマになる素質があったんじゃないの?』と
観念したかの様に否定せず、ニヤリと笑って
皮肉らしき事を言うが
「私…元々、女なのだがなぁ……何でバレないのかな?
つぅ~か、カースの法螺話って凄いな」と、他の事を考え
プルウィアの台詞からコクレアの事を思い出し
『あ、もしかして…
ストゥディウムのお気に入りのコクレアの存在を否定したくて
オカマ否定運動実施中なのか?頑張るなぁ~……
でも、そんな事をする女を
ストゥディウムは好きにならないと思うぞ』と、私も笑い
ユーニは一人だけ、ちょっとした修羅場に驚き、
色々な意味で混乱している様子だった。