045[我が祖国の事情]
私が昨晩・・・
ユーニとグランツを飲み会になってしまった会場に残し
早い段階で酒場のマスターの御好意を受け
酒蔵のソファーで寝ていた頃
ユーニは「未来を担う」王子様同士の話をグランツとして
人知れず、国家間での協定を自分達の名の元に結び
酒場のマスターをも巻き込んで
ある意味とっても凄い事をやらかしてくれていたのだった。
人知れず、物を盗み取る事が得意なスリ師に対し
『君には、諜報員としての素晴らしい才能がある
地位や金を笠に着て見下して来る、私服を肥やした金持ち達の
悪を挫き、正義の名の元に国家間を暗躍してみないか?』と
ユーニが、スリ師を諜報員としてスカウトした。
どんな錠でも開錠でき、鍵無しで施錠も出来る空き巣犯に対し
『時に、挑む側から挑まれる側になってみる気は無いか?
君になら、鍵無しでは、君以外に開ける事の出来ない
「最強の錠前」を作る事が出来るのではないだろうか?
どうだろう?
僕の元で「最強の錠前師」兼「最強の鍵師」と言う
スペシャリストになってはくれないだろうか?』と
ユーニが、空き巣犯を錠前師兼、鍵師としてスカウトした。
盗みに入り強盗もする、脅しが得意な盗賊に対して
『凄みがあって、腕の立つ人材をずっと探してたんです!
受刑者を従わせる刑務官の仕事には、興味ありませんか?
ローテーション制になるので夜勤もありますが
衣食住と安定収入の保証しますよ』と
ユーニが、盗賊を刑務官にスカウトした。
カウンターで昨日、酒を飲んでいた男が率いる
待ち伏せして、集団で奇襲を仕掛けるのが得意な
山賊達に対しては
『ずっと山賊を続けるつもりですか?』
『多分な…王子様には、理解できねぇ~だろうけど
山賊に一度なちまうと、他の事が出来なくなるもんなんだよ』
『本当にそうですか?そうとも言い切れませんよ?
この国から出て、僕の国に来ませんか?』と
ユーニは、山賊1団体全員に対しての誘いを掛け
傭兵仲介人をやってるカーリタースの事を話し
何時の間にか、山賊を傭兵に仕立てあげてしまったのであった。
私がその事を知ったのは
コクレアが、ユーニの手配で私を迎えに来る少し前の事
「何故、手配書がある男達がユーニに従うのか?」
と、言う真相を・・・
酒場の客達の雑談、従業員達の会話、酒場のマスターとの
話の中から、直接的に耳にした時の事だった。
私は内心、ユーニに対して恐れ戦き
ユーニと話すと、何かしら丸め込まれそうな気がして
ちょっと逃げるのと、気分転換の序に酒場の店内から外に出る
其処で・・・
『坊ちゃぁ~ん!』と叫び、飛び付いて来たコクレアに
『何の連絡も無しに
勝手に居なくなったままでいたりしないで下さいよ!』と
道端で押し倒されたのであった。
私は尻餅を突き、迎えに来てくれた
派手な色彩の女装姿に戻ってしまったコクレアに対して
『あぁ~、ごめん…連絡するの忘れてたかも…
でも、ほとぼりが冷める頃を見計らってその内、帰る予定には、
してたつもりんだぞ』と、言いながら
「ユーニ…緩い表情してるけど侮れね~男だな」と
ユーニに対する自分の評価を改めて大きく見直した。
大幅な見直しの理由は
来たのが、コクレアだけでは無かったからだ
私は、コクレアが引連れて来た団体に目を向ける
騒ぎに気付いて、酒場から出て来たユーニの話、曰く・・・
『僕が自国の荒くれ者集団をスカウトして
傭兵団として再出発させた団体さんなんだよ』との事
冗談抜きで、本当に、ついさっき、
転職した顔見知りの詐欺師に、今回の事の顛末を聴き
目の前に存在してしまっている現実を実感した所だったので
ユーニが言った事を否定する要素は何処にも無かった。
取敢えず、その集団は・・・祖国では犯罪者な為
この隣国で新しく傭兵集団になった山賊と入れ替わりに酒場に駐留し
秘密裏にグランツが、グランツのポケットマネーを投入し
正式な傭兵集団として、この国で活動して行く予定らしい
ユーニは・・・
『グランツから、君達の活躍を聞くの楽しみにしてるよ』と
自国から来た者達と戯れ
『任せとけ!この国で一番の傭兵団に伸上ってやんよ』と
自国から来た者達に、自らの意思で勝気な事を言わせている
私は「自家薬籠中の物」として
自国民を操り、何食わぬ顔で使ってるユーニに対し
「銭ある時は鬼をも使う」と、言う言葉や
「適材適所」と「馬鹿と鋏は使いよう」と、言う
そんな言葉を思い浮かべて
その言葉の意味に少しだけ、感慨深いモノを感じた。
「そう言えば…セププライの記憶の中のコイツの父親にも
似た性質があったな…もしかして、ユーニとかにも…
カーリタースと同じ様な、動物使い的な力があったりして」
私は自分で辿りついた考えに、少し自分で納得し
「あぁ~でも、金持ちめ!、何故だか何だか腹立たしいぞ!っと」と
私は小さな小石を拾い、ユーニの背中に投げ付けていた。
私の行動にコクレアが驚き
小石を背中に投げ付けられたユーニが「何事か?」と振り返る
私は自分でやっておいて、プイッと外方を向き
向いた先に居たコクレアに
『あらやだ、坊ちゃんってば…焼き餅?』と
からかう様に笑われた。
私は一瞬、呼吸を止め
言われた言葉と、自分の行動を考え赤面する
私が今、やってしまった行動は、そう取られても仕方が無い
私は狼狽え、何か良い訳をしようと考えていると
コクレアが本当に楽しそうに
『ふふふ…今回のは相手が若いわねぇ~
昔、カーリタースにも同じ事をしてたのよ』と、言った。
コクレアは、小石を当てられて寄って来たユーニに対して
今の言葉を言った御様子だ
私がコクレアに「コレ以上に何を言われるのか?」と
オロオロしていると
『フロースってば、小さい頃からねぇ~
お祖父ちゃんや、お父さん役をやってくれそうな人をね
見付けると必ず、その相手が忙しくしてる時に限って
構って欲しくなって、ちょっかい掛けるのよぉ~』と
言ってくれた。
ユーニが不思議そうに
『何故にお祖父ちゃんや、お父さん役なんですか?』と
コクレアに質問する
コクレアは不安そうな私を見ながら
『坊ちゃんってば…お祖母ちゃんしか居なかったから
お祖父ちゃんや、お父さん要素に飢えてるみたいなのよね』と
吐息を漏らした。
其処から、私の存在を無視して
カーリタースが吹いた法螺話設定で会話が進み
少し遠くに居た筈のグランツも会話に参加して来る
『へぇ~…そう言う場合って
マザコン的な要素もあったりするんじゃないのか?』
『あらやだ、イケメンさん達!
アタシの坊ちゃんは、女の子達と仲良しな振りをしているけど、
花街付近で育ったから、本当は女性の事って、苦手よ』
『『嘘だろ?ホントなら、何でまた…』』と、
ユーニとグランツの声が重なる
『支配欲の有る女が、身を売りながら生活してるとね
嫌々支配されるその反動で
男の子を支配して食い物にしたがるモノなのよ』
『え?それじゃ…』と、狼狽して私を見るユーニ
『あらあら想像しちゃった?
でも、そんな事には、なった事は無いのよ
傭兵団の団長の娘が、生まれた時から物心付くまで
ずっと子守りしてたから、坊ちゃん安全圏で育ってたし
それに、坊ちゃんてば
2歳から傭兵団の団長に、戦いの英才教育受けてた幼児なのよ
最年少でナウマキアに参加した有名人だし
そもそも、オママゴトより先に、人殺しを覚えた御子様に
本気で手を出す商売女はいないわよ』と
ちょっと、私の幼少期をコクレアに大袈裟な言い方された。
私が会話を耳にして唖然としていると
『そうそう、2歳の時は当時50代の傭兵団の団長が
一番、大好きだったわよね
その後7~8歳の時は、カーリタースのお父さんだから
60代の人じゃなかったかしら?』と話が進む
ユーニが私を無言で見詰め
『確かに、男の子には父親が必要って言うけど…話を聴く限り
相手が爺さんばっかだな』と、グランツが苦笑いをした。
『でも、割合直ぐにカーリタースのお父さんって亡くなったから
それは短い期間だったのよ、その後からは…
ずっと、カーリタースが一番だったんじゃないかしら?』
『イヤイヤイヤイヤ…コクレア、それはコクレアだろ?
自室に、お手製のカーリタース抱き枕とかあったり
絵師に描かせたカーリタースの絵を飾りまくってたり
最近じゃ、ベットカバーに
カーリタースの全身像を刺繍してたじゃないか』
私の言葉でコクレアが赤面し、両手で自分の顔を隠し
『きゃっ、ちょっとやだ、ばらさないでよ』と
モジモジしてくれる
『で、そのカーリタースって幾つだ?』
グランツの質問に私は指折り数え
『40代?』
『そうなのよね…我が国の国王様くらいの年齢なのよ』
『へぇ~…あ、でも
本当に父上と同い年なら今年、39歳だよ
本当に40代なら国王より年上だね』と、ユーニは笑った。




