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044[大掃除]

オールナイトで騒いだ酒場には、酒で酔い潰れた生きた屍達と

その夢の痕が横たわり、腐臭を放つ


その場所が、どんな状態になっているかは、知る人ぞ知る

ある意味で、とんでもなく恐怖をそそるモノで、実質・・・

嘔吐物と、飲み零し、食べ零し…酒臭い酔払いの転がる

凄い臭いで吐き気をもよおす、地獄絵図が広がっていた。


私は、酒場のマスターの御好意で

酒場の酒蔵に置かれたソファーにて、毛布に包り寝て起き

顔を洗い、軽く身支度を整えてから

『ねぇ~、マスター…こうなってしまうと

人間も生ゴミとして、ゴミ捨て場に捨てたくなるよなぁ~

手伝おうか?』と、申し出る


昨晩の事で打ち解け、仲良くなった酒場のマスターは

『あはは…、金づるをゴミに出されると

おっちゃん、ちょ~っと困っちゃうなぁ~』と、微笑んだ。


昨日、此処に来た時、酒場に居た指名手配犯全員に向けて

『片っ端から、ふん縛って回ったら不味いかな?』

と、言っていたグランツと、それに同意していた筈のユーニは

自分達の言った言葉を完全に忘れ去って

その指名手配犯達と打ち解け、慣れ合い、酒を酌み交わし

仲良く地獄絵図の中に参加している


私は酒場のマスターに、ゴミ捨てを拒否られた為

ドサクサに紛れて、ユーニとグランツを捨てに行くのを諦め

現在の酒場の状態を放置し、自分だけ離脱するのもどうか?

と、ちょっと思い悩んでから

『一宿の恩を返すのに、皿洗い手伝うよ』と、申し出た。


酒場のマスターは、とても喜んでくれた

『じゃぁ~おっちゃんは、朝食と言う一飯の恩を売って

テラスでの朝食後に、フロア清掃を手伝うと言う恩を

返して貰おうかな?』

『あはは、仕方ねぇ~な…私の連れの所為でもあるし

その一飯、美味しく頂きましょう』と

私は、酒場のマスターと売買契約を成立させる


そして、意外と綺麗なキッチンにて

酒場のマスターが掻き集めた皿やコップを洗い

「食器洗い」と、言う「一仕事」を終えた後の

朝日を浴びながらテラスで頂く、美味しい食事は絶品だった。


私が食器を洗っている間に、マスターは牛乳を仕入れ

店で提供するツマミ用のチーズと玉葱とニンジンを刻み

米と一緒に牛乳で煮込んで、仕上げに刻んだパセリを振り掛け


『飲んだ翌朝の胃には、優しくしてやらなきゃな』と

ミルクリゾットを作ってくれたのだ

因みに、日差しの強い夏場になら・・・

パセリを入れず、トマトを一緒に刻んでリゾットを煮込み

仕上げにバジル刻んで振り入れると、良いらしい


私はマスターとの、リゾット談議に花を咲かせ

暫く、現実逃避に勤しみ、鋭気を引き摺り出してから


『ちょっと、これ一回

大清掃しないと、営業できないんじゃね?』

『同じ事を思ってくれて、おっちゃん嬉しいよ…』

との会話の元、マスターの要望を受け

店内の大掃除の為、酒場のフロア清掃へと向かった。


日は十分に登り、一人、一人と起き出す二日酔いの集団…

頭痛と吐き気に苦しみながら、ふら付き

腐臭を放ちながらゆっくりと動き出す、その姿は

『ゾンビってきっと、こんなだろうな…』って、感じ


「それにしても…この悪臭をどうにかしないと

今日、マスターが店を開けられないじゃねぇ~か」

私は、足の踏み場に困る

嘔吐物だらけの店内の床を無言で眺め、溜息を吐いた。


私は手始めに

『グランツゥ~起きろ!…掃除すっから、店内に転がってる

死に掛けゾンビと机に椅子、運び出すの手伝えよ』と

比較的軽症のグランツな声を掛け


何事かあっては、外交問題になってしまうユーニを

マスターに『さっきはゴミに出すって言ってたくせに

言ってる事が変わってぞ、打って変わって過保護だなぁ~』と

言われつつ、預かってくれるよう頼み込み


グランツに、私がさっきまで借りていた酒蔵のソファーまで

ユーニを御姫様抱っこで運んで貰って、寝かし付けてから


私は店の従業員を使って、使えない二日酔い集団を追い出し

簡単に言い包めて、無償で使えそうな奴と店の従業員を使って

机や椅子を運び出させ、空になった店内を作り上げ

清掃作業に取り掛かった。


取敢えず・・・

木の床に染み込んだ、嘔吐物の処理が先決かもしれない


私は最初に、箒で嘔吐物の上にゴミや塵を掃き集め

『すんげぇ~埃の塊!

飲食店なんだから、普段から掃除しとけよ』と

私は、従業員達に言いながら

水分をゴミや塵に含ませて、塵取りで取ってゴミ箱に入れる


ボロくなって捨てる予定の雑巾を石鹸水で濡らし、軽く絞って

嘔吐物の有った場所を拭き、使った雑巾はゴミとして捨て


汚れたら、新しい物に交換して拭き掃除をする為

綺麗な布巾を大量に準備して貰い

それを濡らし、強く絞った濡れ布巾で、窓やカウンターやらの

拭き掃除をしてから布巾を綺麗に石鹸で洗って乾す


「普段、掃除に使っている」と、言うモップが

汚すぎたので、一度、石鹸で洗ってから

全体にモップを掛け

更にモッフを洗い強く絞って、モップで木の床にニスを塗る


ニスが乾くまでの間は、洗って乾していた乾いていない布巾で

椅子や机を拭いて回り、床に塗ったニスが乾いたら

最後にイスと机を運び込んで、大掃除を終了する


昨晩の宴会に参加していた店の従業員達が

素直に私の指示に従い、掃除に参加してくれた為

大掃除は昼前に終了した。


マスターは『新品みたいになった』と、大喜びし

『フロースお前…本当は、どう言う素性何だ?

掃除のテクニックが普通じゃないぞ?』と、質問される


私は返答に困り、苦笑いして

『昔、城で働くメイドから教えて貰った』と

嘘ではないが、自分が教えて貰った訳ではない

セププライの掃除に関する知識を追加で披露してから


『私自身は、城って格式ある場所に入った事は無いけど

御城のパーティーとやらも、終ると酷い事になってるらしいよ』

なぁ~んて話題を提供し、皆で笑い合った。


この酒場は・・・

昼過ぎからの営業と、夜に向けての仕込みに入るらしい


仕入れた酒と食材を持った

昨晩、店に来ていなかった、従業員達が集まり出し

昨晩の宴会に参加した従業員から「奢って貰った話」を耳にし


『また、そう言う事をする予定は無いのか?』と

私は、来たばかりの、昨晩いなかった従業員達に質問される


私は『貧民街出身の私には、奢れる甲斐性はねぇ~ぞ』と笑い

その後、マスターに呼ばれ

『店を綺麗にしてくれた御褒美だ』と、昼食を提供され

一緒に掃除をしたメンバーと共に昼御飯を食べた。


昼食後、自分達が使った食器の皿洗いが終わる頃になって

やっとユーニが目を覚まし、ふらふらしながら酒蔵から出て来る


その頃になると、一旦、姿を消していた

この店の常連客達が、ポツリポツリと姿を現せ始め

酒場は込み始めていた。


私は『起きるのおっそ…もう昼だぞ』と、ユーニに声を掛け


「宿に戻って、風呂に入りたいなぁ~…あ、そう言えば

この近所に、温泉の湧いてる渓谷があった筈だよな

馬でも何処からか借りて

ちょっくら、汗と汚れを落としてくるか?」と

一応、マスターに『馬持ってない?』と訊いて

マスターに、マスター所有の馬1頭と、タオルを借り


私は、ユーニとグランツの事をマスターに頼んで

1人出掛けて、さっぱりして帰って来た。


明らかに、風呂上がりな私の雰囲気に、ユーニとグランツが

『『一人で風呂入ってくるなんてずるい』』と、言う

私は『悪いな、風呂は一人で入る主義なんだ』と、返し

『そんな事より、何で紐で縛られてる奴等が居るんだ?』と

私はカウンターの前に並べられた縛られた男達に目を向ける


ユーニが得意気に笑い

『実はね…昨晩、仲良くなった人達に

「今夜も奢るから、娼婦を転売してる奴等を捕まえて来て」

って僕が頼んだら、捕まえて来てくれたんだ』と

明るい声で言って

紐で繋がれた一人一人の役割と名前を紹介してくれた。


確かに、今世の産みの親の墓の近くで見た

司祭の服を着ていたおっさんと

修道士の服を着ていた若そうな男の姿があるので

私が「命を取りにきた獲物」である事は確かだったのだが


「私は、殺された年下の友人達の仇打ちに来たのだが…

この状況で命取るのは、私の美学に反するな」

とか、考えてしまうのである


「さて、どの時点で敵討ちをさせて貰おうか?」

私が思案していると、ユーニが

『そうそうコイツ等、国際問題になる犯罪を犯してくれたから

僕の所と、グランツの所の2カ国間で罪を判断して

処罰する事になってるんだ

だから、コイツ等に殴る蹴るの暴行をして貰うと困るんで

今の内にコイツ等に対して、罵倒でもして

ストレス発散しといて貰って良いかな?』と、言って来た。


つまり、ユーニは私に対して「手を出すな」と

言って来ているのだ、私はちょっとイラッとしてユーニを睨む


ユーニは私に微笑み掛け

『敵討ちを望むのは、フロースだけじゃないんだ

フロースは仲の良い、コクレアの気持ち分からない?

それより何より、今回は…母上を殺されたアルブムの為に

譲ってやって欲しい、駄目かな?』と言う

そんな風に言われてしまうと、私は・・・

気持ちが分かってしまうだけに、引く事しかできなかった。

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