042[善と悪]
「さて、これからどうしよう?」
私の悩みは尽きない
『この後、どうするつもりなんだ?事の次第によって
僕は、フロースに手を貸したいと思っているんだけど』と
ユーニが遠回しに「事の次第によって、妨害する」と
目で訴え掛けてきている
グランツはソレを聞いて、1人勝手に計画を立て
『獲物が5人かぁ~…3対5だな…うん、でも
俺が居るし、ハンデとして丁度いいじゃないか!
賭け試合を申し込んで、落とし前を付けさせて貰いに行こう
そうだ!それが良い!楽しみだなぁ~』等
私のやりたい事や、意見を訊く気もなく
ユーニに対し、それがどう言うモノなのかを説明する事も無く
そうする事に決めてしまっていた。
「自由に動けなくて、ちょっと不便だなぁ~
この2人をまいて逃げるか?でも、逃げた所で…
私がグランツ曰くの獲物を狙っている限り、逃げ切れねぇか?
じゃぁ~1回遵って、後で獲物を暗殺でもするか?
あぁ~でも、そもそも…
賭け試合とか、ユーニが参加するのか?っつ~か
文化的に賭け試合の無い地方から来たユーニに、賭け試合が
理解できるのか?」
私は色々、今後の行動プランを考えながら
『賭け試合って何なんだよ?
やっちゃイケナイ事だったりは、しないだろうな?』と
グランツに質問するユーニの事を少し遠目に見る
すると、グランツの説明がとってもアバウト過ぎて
ユーニの困惑している御様子が見て取れた。
「これは…私が、この国のルールを説明すべきなのか?
賭け試合の事も、説明するべきなんだろうか?」
私は少し思案し、ユーニの腕を軽く掴んで後ろに引き
意を決して、2人の間に入る
『グランツ!ユーニは、この国の人間じゃないから
その説明では駄目なんじゃないか?説明不足極まりないぞ…
まず、この国の概念を説明してやれよ
知ってる定義で話しても、知らないモノは理解できないから
話しても伝わらないぞ!』
『え?あぁ~…そうか…』
グランツは、私の言葉に気付く事あり理解してくれたらしく
『我が国では、弱肉強食なんだ』と
またまた、説明不足な発言を自信満々にしてくれた。
ユーニは、私に説明を求める様な視線を向けるが
私はグランツに『もっとちゃんと説明してやれよ…』と言い
大袈裟に溜息を吐く
私の突っ込みにグランツは
『んな事言われたって
俺には、何が理解できないのかが分かんねぇーんだよ』と言って
『コレだから外人と話すのは嫌なんだ』と喚いた後
『そうだ、何が理解できないか分かってるんなら
フロースが説明してやれよ
同郷なら、同郷の者が分かる様に説明できるだろ?』と
丸投げする様に言って来た。
私は、互いの国の文化の違いを
それなりに理解していたので、説明は簡単に感じ、取敢えず
『私達の国でトラブったら
法律に基づき、第三者に判定をして貰うけど
この国では、試合形式を取り入れた喧嘩で決着を付けるんだよ
つまり、グランツがさっき言ってた様に
この国は弱肉強食、ホント、マジ、それで成り立ってる
善と悪では無くて、強い奴が正しいんだ、この国…
此処まで理解出来るか?』と、ユーニに訊き
『それじゃ、非合法な事が罷り通って
悪人ばかりが得する事になってしまうじゃないか!』と
思ったのと違う反応を返され、話は逸れたが
私は、ユーニの想定外な純粋さを面白く感じ、笑いを漏らした。
『悪人だって、自分の正義の為に生きてるんだよ
それに聖戦でなら…
人を殺しても合法になったりするの知ってるか?
聖戦の名の元でも人を殺せば
誰であっても、殺人者である事に変わりないのにね』と
言った後、私は・・・
「ユーニには、理解できないかもな」と、思いながら
『善も悪も、合法も非合法も、唯一のモノじゃねぇ~ぞ
変わり、移ろい易い、簡単に変動するモノだ』と、言葉を残し
『って、言うか…そもそも
其処は他国の王子であるユーニが心配する事じゃないぞ
それに世の中って、そんな単純じゃねぇ~よ
善人にも、勿論、悪人にも…都合良くはできてないっての』と
ユーニの肩をポンっと叩いた。
ユーニは、納得していない様で少し難しそうな顔をしている
私は「理解して貰うのは、無理だったか…」と、残念に思い
『私は、誰の都合にも合わせない世界の中で見付けた
私の都合に合う法律の国で…
教会で殺された「私の友人達」に捧げる為の弔い合戦をしに来た
この国では、仇討も賭け試合形式を取れば合法になる
だから、私は私の正義に従って試合を申し込みに行く
ユーニは、自分の正義に反しても
此処では合法で、非合法では無いのだから
私の邪魔はしてくれるなよ』と、言いたい事だけ言って
『グランツ!私の私情の戦いに参加するつもりなら2対5だ!
王族が御遊びで参加するには、歩が悪過ぎだから
辞退してくれても良いぞ』と、グランツと話し
『そんなオイシイ状況を逃す訳が無いだろ』と
グランツから軽い御戯れな感じのヘッドロックと言う名の
じゃれあいを受けた。
そんな中、ユーニは暫く黙り込んでいた。
私とグランツはその後、ユーニに声を掛ける事無く、
後ろから、ユーニが付いてきている事を確認しつつも無視し
私は「ユーニが、何処まで付いて来るつもりなのか?」と
少しだけ気にしながら
グランツと雑談しながら、徒歩で街道を進み
高い壁に隔たれた、関所
中立都市と言う形を取って広がった、賊の溜り場になっている
3つの国が隣接する街道の街へと足を踏み入れた。
『おい、ユーニ…何処まで付いて来るつもりだ?』
私と同じ事を思っていたのか?グランツがユーニに問い掛ける
『幾ら俺でも、何かあった時に完全に守り切れるのは1人だぞ』
「今、何て言った?」
私は立ち止まり、言葉を反芻してからグランツを睨む
『ちょっと待て、グランツ!今の台詞…
私が守られる設定になっている気がするのは、気の所為か?
私は、守られなきゃならない程、弱くないぞ』
『いや、でも…フロースの体は今、女なんだろ?
女の体の構造じゃ、純粋な力比べで男に勝てないだろ?』
『おいおい…今言った事って冗談だよな?
もしかして握力とか、腕相撲とかで勝負するつもりなのか?
それなら1対5で、殺し合いをしてくるから
ユーニを連れて、宿屋に帰って貰って良いかな?』
『はぁ?いやいやいや、駄目だろ…お前一人で行かせたら
賭けの勝負を挑むんじゃ無く、ウチの国の法律無視して
普通に、殺戮の惨劇を繰り広げるんだろ?引けねぇ~よ!』
『多分だけど、法律を私からは違反しねぇ~よ!だから引け!
んで、友人特典で「ある程度の事」は見逃せよ』等と
私とグランツは、気付けば、ユーニを無視して話をしていた。
其処へユーニが、私の頭にポンっと触れ
『取敢えず、フロースの自由には、させられないよ』と
会話に参加して来て
『フロースとグランツには申し訳ないけど
僕も賭け試合とやらに、参加させて貰いたい』と、言う
私は正直に『うざっ!』と、本音を零し
『グランツと同じ理由で参加したいとか言うだけだったら
今直ぐに帰れ!』と、怒鳴った。
御機嫌斜めな私に対して
ユーニは、冷静さを欠く事の無い真面目な顔で
『親友の…アルブムの母親を殺した連中には
僕が「ユーニウェルシタース」として、下さなければイケナイ
裁きがあるんだ』と、言う
「あぁ~忘れてたな…」
私は、私の前世、セププライの母親が
セププライの死後に産んだらしいアルブムの事を思い出す
「そういやぁ~…ユーニにとってで考えても
あの人は伯母になるんだっけか?」
私はユーニにもちゃんとした理由がある事を思い出し
『あぁ~もう!どうでもいいや…好きにしてくれ』
今日、何度目になるか分からない溜息を吐いた。
そして目的地に到着すると、其処は指名手配犯の巣窟だった。
グランツが、私とユーニの肩にポンっと手を置き
私とユーニを引き寄せて
『えっと、これは…
片っ端から、ふん縛って回ったら不味いかな?』と
私達の耳元で囁く
『その気持ち、分かるよ…
僕も自国で見たら、同じ事思うし…言うと思う』
『あはは…頼むから、2人共…そう言うのは流石に勘弁な!
それやったら、生きて帰れる気がしねぇよ』
私は、今まで気付けなかったユーニの一面を知り
「王子様ってヤツは皆
それなりの一定の正義感を所持しているんだな」と、実感した。
その上で、ユーニとグランツが
それなりの自制心を持っていてくれた事に感謝し
その場に居た、指名手配犯達にも
それなりのルールがあり、自制心を持っていてくれた事に
私は安堵する
もしも此処で、ユーニとグランツが自制心を持たずに暴走したり
指名手配犯の方が、国の最高権力者の息子達を挑発し
攻撃を仕掛けていたら・・・
この場は一瞬で、戦場へと変化した事であろう
私はこの場所の支配者らしき男の姿を見付け
ユーニとグランツに『ちょっと、此処で大人しく待ってて』と
『先に所用を済ませて来るから』と
指名手配犯が集う酒場のカウンター席へと向かった。




