031[私の本当の敵は身近に…]
[私の本当の敵は身近に…]
「私の気の所為であろうか?
いや、寧ろ本気で本当に私の気の所為であって欲しい」
私はちょっと、テンションの下がる現実の前に
途方に暮れるしかなかった。
私が御手洗いに行くまで寝ていたらしき場所・・・
干し草のベットに、干し草のソファーと1人掛け用の座椅子
家具を持ち込むには、不便な立地に存在する
隠れ家の寛ぎ用の簡易家具の中に・・・
「もしかして、私ってば…アレで寝てたのか?」
如何考えても「不釣り合いな家具」
豪華な天蓋付きの重厚感の有る御洒落いベットが鎮座していた。
更に・・・
「隠れ家に居る時は、素のまんまの自分」でいたくて
胸を隠す為のコルセットを外した状態の私に
『動いて大丈夫なの?辛くない?』と
左目を持たない藁色の髪の少女クーラーティオーが
抱き付いて来て
『アタシはフーちゃんの味方だよ!
フーちゃんが、アタシの治療を頑なに拒んでいたのは
「癒し手」であるアタシが触れたら、色々分かるからでしょ?
自分が「女の子」だって事を隠す為だったんでしょ?
だからもう、逃げないで大丈夫だよ!』と
泣き出しそうな表情を見せる
クーラーティオーは、私が道端で拾って
教会に連れて行った子供な為、私に特別な感情を抱いており
『アタシが大人になったら
フーちゃんの御嫁さんになってあげるからね!』と
私が求めてもないのに、宣言していた事を思い出し
「自分が女」である事に対して『ごめんね』と謝った。
私が謝るとクーラーティオーが・・・
『それにしても水臭いよ!言ってくれれば良かったのに!
魔物の呪で「女の子」にされて、大変だったんでしょ?』と
想定外な言葉を口にする
『はい?え?えぇ~っとぉ…』
私が驚きの余り、動揺しまくって
クーラーティオーの言葉の意味を理解でき無くている間に
クーラーティオーは、自分の世界に入り込んでしまい
『アタシでは、何の力にも成れないかもしれないけど
アタシはどんな事があっても、フーちゃんの味方だからね』と
誰が考えたのか分からない設定に陶酔した顔で私を見詰め
クーラーティオーは、私に微笑んでいてくれている
私はクーラーティオーに対して
どう対応して良いか分からなくて、釣られて笑うしかなかった。
少し離れた場所で、その光景を見守っていたカーリタースが
『俺の親父だった、先代のカーリタースから話を聞いてて
俺は最初から知ってるよ、良かったな!丸く収まって』と
上から目線な感じで微笑を浮かべている
私は、カーリタースがクーラーティオーに
何かしらの法螺話を吹き込んでくれたのだと確信し
「嘘がバレた時、どうすんだよ…」とネガティブに陥った。
クーラーティオーは、そんな私の心情を知る事も無く
まだ、生理の不快感も生理痛の辛さも知らないであろうに
『「菜園の御嬢様」がね、生理痛は辛いかもしれないけど
生理は病気じゃないから大丈夫って言ってたよ!
カーリタースさんが鎮痛剤買ってくれてるから
御飯食べて薬飲んじゃいなよ』と
私を強引にキッチンへと連れて行く
「大丈夫じゃ、ね~よ!
病気じゃないのに不快感が付き纏って、下腹部が痛いは
頭痛はするは、毎月やって来るはで…地獄じゃねぇ~か!」と
言ってやろうか?と、思った矢先
クーラーティオーが勢い良く開けたキッチンへの扉から
異臭がやって来て、その異臭の根源の有るキッチンには・・・
私の愛用している赤いエプロンを身に付け
コノ隠れ家の住人では8割方、私しか利用していない
キッチンの台所用品を散らかす様にして使う
我が国の第一王子様ユーニウェルシタースの姿があった。
『ユーニ…何をやってんだ?』
『ん?あ~おはよ?動ける様になったんだ…もう、夕方だよ
1日ぶりだねぇ~…昨日は、崖から落ちたりとかしたから
僕ずっとフロースの事、心配してたんだぞ』
『で?何やってんだよ…』
私自身の秘密「女」と言う事がバレタ事よりも
酷い臭いを放つ、何某かの物質
ユーニが作っている物の正体と利用法?が気になる所だった。
ユーニは『食べて貰おうと思って、料理を作ってる』と言って
満面の笑みをもしかしたら、私に向けているのかもしれない
『『って、誰に?』』
私と臭いに釣られてやって来たカーリタースの声が重なる
舞い降りる不安と言う名の暗雲、鍋の中身は明らかに大量で
少人数で食べる量でもなさそうだった。
海馬と言う種類の馬の魔物アハ・イシュケのアモル達は
基本「馬」なので「人間の料理」と言う
「味付けをした物」を食べない
だから、人の姿ながらも『食べる事が出来ないから』と
ユーニが作った食事を事前に先に辞退していたらしい
カーリタースは、胸元で立派に十字を切り
本当は、何処の宗教にも属していない分際で
『宗教的な理由でね
俺は自分で作った物以外、基本的に口にできないんだよ』と
嘘で誤魔化し、難を逃れた。
クーラーティオーは、と言うと・・・
薬草を育て、薬を作る癒し手であるが為
薬の苦さ、不味さに慣れており
ユーニの作った鍋料理の不味さに気付かないで、食べて見せ
『体に良さそうな味がしているよ』と
私にもユーニが作った「薬膳鍋」と言う名の物質を
食べる様に強要して来た。
前日昼から食事を取ってなくて、空腹だった私は
ユーニとクーラーティオーが普通に食べていて
大丈夫そうだった為
「多少、臭くて不味くても…
これだけ腹が減ってればイケルか?」と恐る恐る
ユーニの料理を微かに口にして・・・
「誰だよ!この人達をコノ隠れ家に連れて来たの!」と
ちょっと色々、絶望感を感じて苦痛に苛まれる
忘れていた右手首の痛みが復活し、酷い頭痛生理痛
「自分で作れば、そんな事には、なったり絶対にしない!」と
断言できる程に不味い…いや、寧ろヤバイ
「薬膳料理と言う名の暴力」から引き起こされる
胃から絞り出される様な吐き気に襲われ
私は思わず、臭いが充満したキッチンから…
キッチンの扉を開けた時に
家全体に広がってしまった臭いから…家から…洞窟から…
全力疾走で逃げ出し、崖を飛び降り、少し離れた岩場まで逃げ
「死ぬんじゃないか?」と思う程に吐いたのであった。
そして、私が逃げ出した後・・・
ユーニとクーラーティオーは茫然としていたらしい
カーリタースは、溜息を吐き
『王子、ソレ…一人で全部処理しろよ
それと、この御嬢ちゃんに助けて貰って片付けと掃除しろ!
「コノ臭い」が「この家」から消えるまで頑張れよ』と
ユーニの片付けの監督をクーラーティオーに押し付け
アモルを連れて私を回収に来て、そのまま・・・
海岸沿いの宿場町の宿屋に運び込んでくれたらしかった。
それから次、私が目覚めたのは次の日の朝で・・・
ベットに寝たまま、最初に視界に入ったのは
カーリタースの店で、コクレアと言う名の壁を越え
カーリタースの隣りを醜く争い、陣取り合戦をしていた
綺麗めな集団に属する一人である女医だった。
私は、部屋を見回し
朝っぱらから見目麗しい男女に囲まれている事に気付く
カーリタースにアプローチを欠かせない女医は勿論・・・
カーリタースも中年と呼ばれる年齢ながらもイケメンで
その後ろに控える、黒い肌に銀髪なトニトゥルスと
褐色の肌に銀髪なアモルの、海馬と言う美麗な生き物達は
掛け値なしの絶世の美男美女だ
「目の保養になるけど…私ってば何て場違いな場所に…」
一人で顔立ちの平均値を下げてる気がしてならない私は
寝返りを打ち、綺麗な男女達に背を向けた。
私の意識が戻った事に気付いたカーリタースは
女医に対し、唇にキスしそうな距離感で御礼を言い
頬にキス一つで女医を追い返す
ソレを間近に見たトニトゥルスは
『師匠!教えを請うて良いですか?』と
カーリタースの両手を取って、真摯に見詰め懇願していた。
アモルは大きく溜息を吐き、私が寝ているベットの端に座り
私の顔を覗き込んで、私の目を見て話す
『ごめんね、フーが
こんな目に遭ったのはきっと、トニーの所為なのよ』と…
『駄目って言ったのに、トニーってば
複数の人間の居る前で、馬から人になったのよ』と…
『ティオだけを拉致する予定だったのに
律儀に事情をカース達、皆に話して、カースだけじゃなく
ユーニまでも連れて来ちゃったのは、トニーなんだから!』と…
私はアモルが私に言った言葉に対し、がっかりし
「癒し手のティオ」と
どんな生き物でも調教できる「動物使いのカース」には
「極力、係わり合いを持たないでくれ」と
繰返し繰返し何度も何度もアモルに御願いしていたのだが
忘れられている様子なので更に、残念過ぎて仕方がなかった。
トニトゥルスに対しては・・・
大前提「御前等…ネタバレしちゃ駄目な種族だろ!」と
言ってやりたくて仕方がない
私は今後の先行きが不安過ぎて今後、如何したら良いか
分からなくなってしまった。