029[私と理不尽気味な憤り]
[私と理不尽気味な憤り]
今回、私は経験して思った・・・
体調が悪い時に、奥深い森や山と呼ばれる場所には
入って行ってはイケナイと
今回の私の様に、山道とかの足場の悪い場所で
足元が覚束無くなると、とっても大変にマジでホントに
危険だからだ!
今日、私は・・・
毎月、必ずやって来る絶不調の弊害の一つである
目眩と脱力で一瞬、視界と体の自由を奪われ
岩場で足を踏み外し、体を支えられる場所を見付けられず
木々の葉や枝に隠れていた、上流であったであろう
細く深く、石や岩だらけの「枯れた沢」へと
転落してしまったのであった。
のだけど・・・
火事場の馬鹿力と言うモノの御蔭であろうか?
私の着用している衣服に酷い損傷は無く
体には、数か所の軽い擦り傷がある程度である
私は身の回りに残る風の気配を感じ取り
風の加護の恩恵で今、取敢えずは無事である事を知り
私を護ってくれた風に対して感謝する
でも、正直に思う・・・
私が風使いでなきゃ、岩場から落ちた後の私の状態は
大怪我して呻いてるか、死体になってるかの
二択だったのではなかろうか?
私は落ちて来た場所を見上げ
自分が風使いであって、本当に良かったと思った。
それにしても、私が岩場から転落して
どれくらいの時間が経過したか…が分からない
助かる為に自己回避能力が働いて、体力と精神力を使果し
暫く完全に意識を失っていたのは確かなのである
それより何より、私の事は兎も角
一緒に行動していたユーニの事が気になる
ユーニは、私の直ぐ隣
若干、覆い被さり気味で倒れて意識を失っていて
私より、あちこちがボロボロで
衣類とかに護られていなかった腕や顔に傷ができ
少量ではあるが、傷から今も新しい血が絶えずに流れていた。
ユーニからは、風の気配を感じ無いから
私が落ちる時に巻き込んでしまったり
一緒に転げ落ちて来てしまったりしたのでは無さそうだった
ユーニは・・・
私が岩場から転落したのを見て
私が落ちた場所へと私を追って来て、何らかの理由で
私の近くまで転落して来たのではないだろうか?
私は私の所為で崩れたのではなさそうな
今居る場所と、私が落ちて来た場所の中間程度の場所にある
ユーニが落ちて来たであろう岩場を眺め、溜息を吐いた。
今は、冷静に尚且つ慎重に行動したい場面だ
私が先程、意識を取り戻した当初・・・
傷だらけのユーニを最初に見た時、冗談抜きで死体かと思って
心臓が止まるかと思ったのは、内緒の方向で…
私は2度、3度、大きく深呼吸をし
今、やっと…冷静さを取り戻した所である
私はユーニの体に・・・
私から見える範囲で、大きな損傷が無い事を見て取り
ユーニが順調な呼吸をしているのをしっかり確認してから
『±0って事で、良しと言う事にしよう!』と
色々、自分を誤魔化す為の言い訳として
その言葉を呟き、ゆっくりと立ちあがった。
周囲は少しづつ暗くなっていき
空気が少しづつ冷たくなってきている、見上げた空は茜色
雲一つ無い空が、これからの夜の冷え込みを教えてくれる
勿論、私達は登山をする予定では無かったので
食料や、寒さを凌ぐ物は、全く持って来てはいない
私の脳裏に「遭難」と言う単語が浮かんでは消える
私は、頭痛と下腹部に起こる鈍痛と言う名の生理痛を抱え
「自分一人なら、風の力を借りて…
2~3日の遭難ライフを楽しんでも大丈夫なんだけどなぁ~」
なぁ~んて、時々やらかしてしまってる失敗を思い出しながら
ユーニを見て、ソレが今は不可能である事を実感する
私はユーニの為に意を決っし…
先程、見栄の為に逃がし手放した風を捕まえる為・・・
魔女狩りの対象にされ
祖母のドゥルケに迷惑が掛かるのを恐れて
内密気味に利用している、風の恩恵を受ける力で
ちょっと派手目に風を呼び寄せて
周囲に存在する有益な風を選んで捕まえる
風は誰が見ても、肉眼で確認できる様な渦を巻き
それでも、私に対して抵抗する事は無く
私を優しく包み込んでくれた。
『良かった!事細かに従ってくれそうなのを見付けられた…
何んとか、ちょっとした連絡くらいには使えそうだ』
私は意識を失っている間に少しでも
回復してくれていた力に対して、とっても感謝しながら
まだ、今日請け負った仕事の作戦中かもしれないと気を効かせ
人には聞えず、馬には聞こえる音域に調節した笛を鳴らし
空気を振動させ、馬としては御高齢で
とっても元気な自分の愛馬のアモルに救助を求めた。
アモルが来るのを待っている間・・・
私はユーニの為に、上に着ている服を2枚脱ぎ
一番上に着用していた上着を下に敷いてユーニを寝かせ
手持ちの物と周囲に有る物を利用して
ユーニの怪我の汚れを落とし
その周辺に自生していた薬草を潰して応急処置をしてから
上着の下に来ていたベストをユーニに掛けてユーニに寄り添う
本当は、コレ以上余計な事をして
体力を削ってしまう訳にはいかない事は理解していたのだが
他に出来る事も、もう殆ど無くて
何もしないでいると、不安で仕方が無くて
私は「今、必要だから」と、自分に言い訳してから
又、意識を飛ばしてしまうのも覚悟し
意識を失っている間に回復したと言っても、残り少ない
自分の体力と精神力を無駄に多く消費して使って
夜の冷たい風でユーニの体が凍えてしまわない様に
ユーニの手を握り、風のカーテンでユーニを護る
ユーニの怪我は擦り傷と打ち身が殆どで
頭には怪我もなく瘤もない
意識の無いユーニに体に、あちこち触ってた顰めたが
骨にも異常はなさそうだったのだが、何故か
意識が全く戻る気配が無いのがとても気になる所だった。
私はユーニを見ていて、更に不安になり
「出来るだけ早く其方へ向かう」と言うアモルの返答に
気付かなかったかの様に
追加で何度も笛の音で、アモルを急かす様に助けを求める
その後、馬の蹄の音と嘶きが聞えた時には
半泣き状態になっていて…後々、後悔する事になるのだが
今は、それは置いておく事にする
そして、その助けが来た時・・・
助けに来たのはアモルだけでは無く
自分の馬に乗ってアモルを追掛けてきたカーリタースと
私が一時的に借りて乗っていた馬に乗ってアモルを追ってきた
ストゥディウムの姿があった。
私は其処に何の疑問も感じず
鼻面を押し付け、私が立ち上るのを手助けしてくれようとする
アモルの力を借りて立ち上り
カーリタースに駆け寄って、ユーニの怪我の状態と
何故か目を覚ます気配が無い事を告げ
『表面からは分からない所に異常があるのかもしれない』と
『動かすのは、もしかしたら危険かも…
状態を診る為に、ティオをこれから連れて来て欲しい』と
懇願したのだが・・・
少し離れた場所で
ストゥディウムが何故か、肩を震わせ噴き出す様に笑い出す
私がカーリタースに泣き付いている間に
ユーニを診たストゥディウムは戻って来て
私の頭をポンと叩き、私の髪をぐしゃぐしゃにして撫で
『大丈夫だ!ユーニは勤務中の仮眠時間も寝ないで遊んで
夜勤明けで1日中動き回った結果、寝てるだけだから』と言う
『え?』
私は今朝、ユーニと話した会話を思い出す・・・
そう言えば『今日は夜勤明けの非番』と言っていた気がする
カーリタースは、ちょっと放心状態に陥る私の髪を撫で
ストゥディウムの所為で崩れたヘアスタイルを修復しながら
『今日は早朝からずっと一緒にいたんだろ?どうだった?
フーが昼寝してる間もユーニ君は起きてたし
フーがユーニ君が寝てるのを今日、一度も見てないなら
原因はきっと、本当にソレだね
フーは、安心して良いんじゃないかな?』と言った。
私は黙って静かに思い出す、ユーニが寝たのは・・・
私と一緒に小屋で仮眠をした程度で、間違いは無い
私は残念な原因を目の当りにして、再び目眩を覚え
その場に一度へたり込み
「何か腹が立つ!思いっきり脇腹でも蹴ってやろうか!」と
内心、憤りを感じながらも
『所で、今回の仕事ってどうなった?
連れてかれた5人の娼館の娘達の保護は成功したのか?
人攫いをしていた奴等の討伐は達成できたんだろうか?』と
私はカーリタースとストゥディウムに訊ねた。
私は仕事の事を質問した事で、気が少しだけ逸れ
気が逸れた御蔭で、自分の心が御仕事モードに切り替わり
ユーニの事がどうでも良くなる
2人は目を合わせてから苦笑いし
カーリタースがストゥディウムの背中をポンと叩くと
『普通に失敗したよ』と、ストゥディウムが言う
『兵士崩れは一度2人程、生捕ったんだが自害されてな
女の子達は全員…
神に仕える人間の服を着た男等に騙されたまま
その2人と一緒に、今回の件に関係なさそうな
外国の商人の御一行様に助けを求めて、保護されて
商人達の「外交問題にする」ってのを楯に
そのまま海道の先に行っちまった』との事だった。
『奴隷の身分から解放される為の借金が
娼館にある娘等だったろうから、序に逃げたのかもな』
私は女の子達の事を思い出し
「また、奴隷に戻るのか…自業自得で仕方ないな」と考え
『じゃぁ~今回は、もう解散でOK?
ちょっと体調悪いから私は、このまま退散させて貰うよ
それと…ユーニと、教会の後の事を頼むな』と言い残し
アモルに乗って颯爽と、私はその場から逃げ去る事にした。




