027[私は思う…世の中、思い通りにはイカナイ]
[私は思う…世の中、思い通りにはイカナイ]
教会から街道への道を進み、街道を横切り
私とストゥディウムが、その教会が管理していた墓地に入ると
墓地の奥、裏口近くに5人の女の子達と
街中で見掛けた事のある、修道士の服を来た若そうな男
司祭の服を着用した、見た事の無いオッサンの姿が
先に墓地の中に存在していた。
私は、其処に居る者達に怪しまれるのも困るので
迷わず、今世の産みの母の墓へと向かう
ストゥディウムが『何処に行くんだ?』と
小声で囁く様に私に質問しながら付いて来たので
『来た序に、産みの母の墓参りをしとこうと思ってね』と
私は素直に答えた。
ストゥディウムが少し困惑した様子を見せる
『フェイクで無く、マジか…
此処は大人として、礼を欠かない様にしなきゃだな』
『気にすんなよそんな事…
冗談抜きで、私も「礼儀作法」とか知らね~から』と
私達は奥から見て少し手前の
小さな墓が無数に並ぶエリアにやってきた
私は今世の私の産みの母の墓の前まで来るとしゃがみ込み
花を手向け、手を合わせる
其処は少し小高くなっていて「奥で何をしているか?」が
角度的にしっかりと見えるポジションになっていた。
ストゥディウムは立ったまま手を合わせ
『俺は今、お前の母親に対して
感謝しても、し足りないかもしれないよ』と言う
私は静かに笑い
『我が母が、御役に立てて何よりだ…
好きなだけ敬って諂ってやってくれ』と返した。
『それにしてもアレ、遺体を埋葬してるみたいだね』
『葬儀無しに墓地に埋葬する事って、普通は無くないか?』
『そもそも…
礼拝堂があの状態では葬儀も何も出来ないと、私は思うぞ』
『じゃ、当たりかな?』
『まぁ~そうなんだろうけど…参ったな…
あの女の子達って、家の近所の娼館の娘達だと思う』
『5人全員か?』
『ああ、教会の墓地に縁の無い筈の奴隷出身の娼婦だな
それに…これから埋められる遺体も娼館の娘みたいだ
教会のルールで、此処には墓を作らせて貰えない筈のね』
『それじゃ、高確率であのヤロー達2人は、ターゲットだな
接触したいんだがイケルか?』
『どうだろ?行ってみなきゃ如何だか分かんねぇ~よ』
『取り合えず、近付いてみるか…』
『おい、待て!それって、ノープランじゃないのか?
計画性の無い大人だな…ん~まぁ~仕方ねぇ~か
じゃぁ~、私が適当に話し掛けるから取敢えず黙ってろよ
でも、森に潜んでる奴等に不意打ち食らって
簡単に殺されないでくれよ』
『お前、子供にしとくのが惜しいレベルで有能だな…
分かった、任せる』
私は『そりゃどうも』と、まずは立ち上り・・・
私とストゥディウムは
小声で敵の位置と数を確認し合いながら
ターゲットに接触を図る為に、墓地の奥に足を進めた。
『すみません!教会の方に行ったら、留守みたいだったので
先に墓参りをさせて貰ったのですが…
もしかして、そちらに居られるのは司祭様ですか?』と
私が躊躇なく声を掛ける
司祭の服を来たおっさんは、度胸のある役者さんらしく
私とストゥディウムに対し、動揺を見せる事もなく微笑み
『あぁ~はいはい、分かってますよ…御祈りですね?
今は葬儀中なので御待ちなさい』と返してきた。
ストゥディウムが私の肩に手を掛け
司祭の服を来たおっさんに対して軽く会釈をし
私にだけに聞える様に『司祭は完全に黒だな』と小声で言う
私もストゥディウムに倣い、軽く会釈しながら
『今、こっちを見てる修道士
ドゥルケの貸し部屋の客だ…アレも黒だろ』と言って伝えた。
私と司祭の会話を聞き、参列していた女の子達の一人が
様子見に此方を覗き見て、私を2度見し
『あ!』っと声を上げる
その彼女の『え?あれ?フロースくん?』と言う言葉に
全員が一斉に私の方を見た。
5人の娼館の娘達の内の1人の側面の髪に
私が今、髪に飾っているのと同じ髪飾りが飾られているのが
見えるようになった
ストゥディウムが「髪飾り」を確認し、私の背後で
『コレで完全に確定だな』と呟き
私は女の子達の全員の顔を確認し
「やんごとなき人が来店する時の
娼館での用心棒の仕事が女性&女装限定だから
この格好の私を彼女等は見慣れてるんだよなぁ~」と思いながら
笑顔で、女の子達に手を振る
女の子達は、と言うと・・・
同僚の埋葬中にも拘らず、少し小高くなった場所に有る墓の前
私の居る方までやって来て、体を押し付け口々に
『ねぇ~今日、時間ある?アタシの相手をしてよ』と
露骨に誘ってくれていた。
「嫌では無いけど…困ったなぁ~」
私は作戦の事を考え、少し途方に暮れる
ストゥディウムは、と言うと・・・
私を完全に男だと認識している女の子達の行動と
意味深な台詞を耳にして、眉間に皺を寄せ
『相手って何?』と零す
女の子達はクスクス笑いながら
『あらやだ、フロースってば…
女の子の振りしておにぃ~さんを騙してるの?』と言ったり
『胸はそのままなのね…って
やだ!もしかして商売敵になるつもり?
やめてよ?男の娘として商売するのは!
その技術は女の子を楽しませる為のモノよ!』と
今、発信して欲しくない情報を盛大に放出してくれた。
司祭の服を着用したおっさんと修道士の変装をした男が
こっちを見ながら怪訝そうな顔をしている
私が「囮になって捕まり、アジトまで案内して貰う」と言う
作戦は失敗に終わりそうな様相を呈して来てしまった事は
言うまでもないであろう
更に、ストゥディウムが表情を曇らせ
『ん?えぇ~っとぉ~…お前って』と
何かを問いかけて来そうな雰囲気で私を見る
もしかしたら、現在進行形の今やってる仕事の事を忘れ
自分が興味を引かれた事を確かめて来る気なのかもしれない
因みに・・・
「今の私の男設定って作戦的に不都合なのだがどうしよう?」
この場合、本当の性別がバレた方が作戦には都合が良いが
男と思われてた方が、私生活の上では都合が良い
私は私生活と現在進行している作戦を天秤に掛け、溜息を吐き
作戦の方もちょっとは守る方向で、私生活を優先させる為
ストゥディウムに対する先手を打って
『墓地でそう言う話は無しにしようよ』と
極力、性別の事は有耶無耶にしてしまう方向に…と思い
話題変更をしようかと画策するのだが
『おい、フロース!もしかしてお前
此処に居る女の子達全員に手を出してるのか?
男としては、それなりに少しだけ理解できるが…
人としてソレは駄目だろぉ~』と
ストゥディウムは、私の意図を汲んではくれなかった。
私は、苛立ちを心の中で抑え込みきれず
女の子達を自分から強引に乱暴に引き剥がし
自分より背の高いストゥディウムの襟首を掴んで引き寄せ
『おい!おっさん!今は作戦中だろうが馬鹿!
痴呆症でも患ってんのか?
私が男である事を強調してどうするつもりだ!
取敢えず、一旦引くぞ』と、小声で声を低くし囁いてから
『アンタに言われる筋合いはない!』と怒鳴って
突き放してやった。
コノ行動の意図は伝わったらしく
作戦の事を思い出してくれたらしきストゥディウムは
子供の様に無邪気に笑い
『困ったな…怒るなよ相棒
そうだ司祭さん、手伝う事は有るか?無かったら…
御布施として持って来た食べ物とか
教会の前に置きっぱなしなんで、先に戻って待ってるけど…
どうする?』と、司祭の服を着用したおっさんに打診する
司祭の服を着用したおっさんは
『埋葬の仕事は、修道士の修行の一環だから』と
ストゥディウムの申し出を断り
私は、司祭の服を着用したおっさんと
修道士の服を来た若そうな男に向かって、極力良い笑顔を向け
『埋葬の邪魔してすみませんでした』と、口先だけで言って
ストゥディウムと一緒に墓地の入口へと向かう
そう、此処までは何んとか
想定内で、作戦のリカバリーが出来たのだがしかし・・・
物事上手くいかない時はどうやっても上手く行かない
此処で、ユーニとテッレストリスが喧嘩しながら
墓地の中に突入して来てくれたのであった。
ユーニは『何処ですか隊長!作戦の時間です!』と
テッレストリスは・・・
『何処に居る!騎士団の団長!フロースを返せ!』と叫ぶ
そして、2人は私とストゥディウムを発見すると
『『こんな所に居た!』』と声を合わせ
私とストゥディウムの居る方向に駆け足で走って来ながら
『隊長もフロースに入団する様に説得して下さいよ!』
『ふざけんな!フロースは元々、傭兵ギルドのモノだ!
だからフーは、傭兵ギルドに戻るべきなんだよ!』と
喧嘩をし続けてくれた。
私的に・・・
5人の女の子達には取敢えず、連れ攫われて貰って
私とストゥディウムの2人で後を追跡して
アジトを突き止めるつもりだったのだが
その作戦は、面白い位に簡単に水泡に帰され
墓地を囲む森に潜んでいた、人攫いをする集団が動き出す
私とストゥディウムは苦笑いを浮かべるしかなく
ユーニとテッレストリスの御蔭で人質になった
5人の女の子達を如何「救出」して、如何「逃がす」かが
今後の大きな課題となってしまった。




