024[私と教会]
[私と教会]
私の強さの秘密が、無自覚なストゥディウムの発言によって
適当に、いい加減に暴露されていた頃・・・
私は道の途中で、東の方向に道を少しだけそれ
街道沿いにある、小さな雑木林に囲まれた花畑に入り込み
今世の私を産んだ人の為に、献花する為の花を摘んでいた。
其処は昔、前世…私がセププライであった頃
教会で保護された、水の加護を受ける孤児の少女と一緒に
地面から近い水源を見付け、他の孤児な子供等と水を掘り上げ
レンガを積み作り上げた、小さな人工的な泉を作り
其処を中心に花の栽培場所を作り、花壇を作り
その外側に雑木林を作った、と言う・・・
セププライが教会に土地を寄付し、セププライが手を貸して育て
今も、教会の私有地になっている場所
そして、教会の「神父様と幼馴染」だった「祖母ドゥルケが」
私が生まれた時に立ち会い、手伝って貰った縁
私を産んだ人が死に、葬儀までした縁
その後、私を産んだ人の愛馬アモルを預けていた繋がりで
昼の仕事を貰い…
『処女でない者が教会に住み込んでいる』と
祖父の本妻に「嘘の噂」を流され
更に城下に有る、他の教会に通報されるまでの間
仕事の無い昼間、ドゥルケが働いていた所だった場所
更にその後は、預けっぱなしのアモルに会いに来る名目で
私とアピスとコクレアの3人で
小銭稼ぎの為に栽培を手伝い、花を貰って売り稼ぐ為に通い…
現在は、教会からの御達しで
剣闘士を始め、闘技会の関係者は洗礼を受ける資格が無いとの事で
他の教会の関係者に見付らない様に隠れ、内緒で月1回・・・
孤児達に貢物を持って遊びに来る場所の一つとなっていた。
そんな私的に、とっても縁も縁も恩も繋がりもある場所なのだが・・・
「先月来た時までは皆、頑張って育ててたのに
少し花畑が荒れてるなぁ…水遣りとかをサボってるのか?
それとも、今回の人攫いの被害を受けて
花壇の手入れをする者が居なくなってしまったのか…」と
考えずにはいられない程
水路を使い水遣りの面倒を減らした温室には、少し雑草が生え
水路の無い、花壇の方の弱い草花達は枯れ
花を付ける木々も弱り、荒れていた。
私が花を摘みながら見回っていると
『あ、やっぱり寄り道してた』と
背後から声がし、振り返るとコクレアが手を振り近付いて来ていた
私は『コクレア…コノ花畑の惨状、どう考える?』と
唐突に質問しながら、私からもコクレアに近付き
摘んだ花をコクレアに見て貰った。
コクレアは花を見ると表情を変え、私の横をすり抜け
すぅ~っと温室の中に入り、溜息を吐きながら戻ってくる
『フゥーちゃんは、神父様と孤児院の子供達の事を信じてる?』
コクレアの質問に見え隠れする
神父様と孤児院の子供達が「加害者でもある可能性」
私は黙って、小さく首を縦に振る
『でも…危険があるなら、作戦を少しだけ変更して貰わないとね
コクレアは、礼拝堂の正面から花を持って司祭様に会いに行ってよ
私は元剣闘士で、裏口からしか入れないから
予定通りそっちから行くよ』と
摘んだばかりの花をコクレアに手渡した。
私達は、人攫い達が教会に居る可能性
教会の近くに潜んで居る可能性を視野に入れて話し合い
街道に戻って・・・
ストゥディウムとユーニとアルブムが来るのを静かに待つ事にした。
コクレアが一度、大きく深呼吸する
『もしも、院の子供達が
人攫いをする協力を強要されて、実行していたらどうするの?』
コクレアの言葉が、此処最近のコクレアの話し言葉に戻っていた
「本気で、答えが欲しいんだな」と、私は感じ取り
『どうもしない…強要されて、犯してしまった罪を裁くのは
その罪の被害者か、被害者から依頼を受けた者の仕事だろ?
現在の時点でソレは、私に関係ない…
私の今回の獲物は、人攫いをする首謀者達
それ以上にはならないし、それ以下の仕事はしないよ』と
私は素直に答えた。
そうこうしている内に・・・
馬を連れたストゥディウムとユーニが楽しそうに
アルブムがちょっと深く悩んでいる様子でやって来る
私とコクレアは、3人に花畑の事を話し
そこから導き出せる、幾つかの可能性と仮説を伝えて
私とストゥディウムとユーニが、南へ続く街道から東に外れ
教会と花畑を繋ぐ道を通り、教会の裏から
コクレアとアルブムが馬を連れ、街道を道通りに歩き
正面から、寄付をしに来た名目で教会に立ち寄る事にした。
私達は、そう決めてから2手に分かれて歩き出す
「本当は…単独行動させて欲しかったんだけどな」
私はストゥディウムとユーニを見てこっそり溜息を吐き
歩きながら、一人の女性の顔を思い浮かべる
ソレは前世の私、セププライを産んだ女性の顔
南へ向かう街道沿いに存在する教会の高い塀に囲まれた菜園には
心を病んで、夢の中の住人になってしまった
セププライの母親が幽閉される形で今も住んでいるのだった。
昔、セププライ達が革命を起こし成功させる前までは
客が訪れる事の無い王宮の一番寂れた場所に有る離宮の奥で
隠される様に「王妃だから」と言う理由で
取敢えず、生かされていた王妃
その後は、セププライ出会った前世の私が死んでしまって
神父様に聞いた話なのだが
革命軍が…ウーニウェルスムと、その父親が…
セププライとの密約を無視し、殺そうとして失敗して
誰かは知らないが、政府の要人の手によって
革命軍に発見されぬ様、教会に預けられ
政権奪還の為に存在し、利用される為だけに生かされた元王妃
今は、支配する王の世代が更に変わり
政権奪還を目論んでいた者達も一掃され
預けられた先の教会の慈悲で、細々と暮らす名も無き女・・・
だが…ストゥディウムは、ウーニ側の人間で
セププライ時代の私、ウーニとの3人で合い
面識があるから、セププライの母親の存在を知られるのは
危険かもしれない
本当は私的に率先して、無事を確認しに行きたい所だが
其処の所は今回、我慢する事にした。
だから私は、高い塀に囲まれた菜園の方向を気にしつつも
孤児院と教会の本館、礼拝堂が有る建物の方を確認に行く事を提案し
ゴリ押しして、ストゥディウムに同意させ
教会の建物に近付き、建物の中と背後を気にしながらも慎重に
裏口の扉の鍵をこっそり、合いカギを使って開ける
其処には変わった様子は無く、人の気配が全く感じられない
私は『オカシイ…』と呟き
微かに遠くから聞えて来るコクレアの声のする方向に足を進める
そして、礼拝堂への扉を開け…私は一人、立ち尽くした。
其処には虫か飛んでいた…
掃除の行き届かないトイレの様な臭いに混じり
肉やの前を通った時に感じる蛋白質的な臭い、生ごみ臭さが漂う
発生源は少し干乾びた、白い虫幼虫が這う死体
私が見た事のある小さな人の成れの果てが、幾つか転がっている
殺した者が書いたのであろう大きな文字
乾き茶色くなった血文字が白い壁を暗く彩っていた。
ソレは、此処に来る誰かへの警告・・・
『コレハイママデノオレイダイゴコウナリタクナカッタラテヲヒケ』
さて、問題です…単語の区切りは、何処だろう?
私は区切りなく並べられた文字を数度、静かに辿り
視線を壁から床に戻した。
私の体の中心が…心臓辺りが冷たくなったような気がする
ユーニのモノであろうか?私を呼ぶ声がした気がしたけど
私は傷んだ死骸を見詰め、動く事も返事をする事もしない
ユーニが、無抵抗な私の視界を片手で塞ぎ
背後から私の肩を抱いて下がらせ、扉から離した
続いて、颯爽とした足音が私の横を通り過ぎ
外へと続く礼拝堂の扉を開けた。
最初『何だ、留守だったんだ』と、軽い声が聞えて来る
次の瞬間、礼拝堂に入って来たコクレアとアルブムが
息を飲み、動揺する雰囲気が伝わって来る
アルブムが『母上』と呟き、私を押し退けて奥に走って行く
私は自立する事を放棄し、ユーニに完全に体を預け
座り込まない様に、ユーニに抱締められる事になる
アルブムが走り去った後、ユーニが遮っていた私の視界は広がり
コクレアが、礼拝堂の中に有る遺体を見て回り
目尻に涙を溜めるのが見える、私はそれを無言で眺めた。
『アタシにはコレ…心当たりが何個か、あったりするんだけど
坊ちゃんはどうですか?』
コクレアから、想定以上の低い声が発せられる
コクレアの質問に対する私の答えは、コクレアも知っているだろう…
私は『あるよ…』と答え、ユーニの腕を解き
ユーニの腕から離れ、礼拝堂の中に入った。
13歳で出て行かなければイケナイ孤児院のルールの中
死んでいる子供達は全員、年長組に属する
アピスの弟、テッレストリスの1~2個下の年齢の
テッレストリスと仲の良かった子等で
来年・再来年には、城下の南にあるスラム街の
傭兵ギルドに入る予定となっていた者達であった。




