019[私の理由]
[私の理由]
そう…私が倒した者達の異変に最初に気付いたのはアピスだった
仲間と戦っている相手を後ろから1撃で仕留める私を
アピス以外の仲間達は褒めてくれているのに
アピスだけは私を止める様に大人達に進言していた。
今回のナウマキアに参加し、負傷したメンバーの治療と
唯一命を落とした、コクレアの父親の葬儀が終わった
その夜・・・
私がその話を耳にして不思議に思い
『どうして?どうして駄目なの?アピス?
相手を殺そうとする時は、相手に殺される覚悟で挑むべきでしょ?
相手を殺そうとしたら、殺されても、生き地獄を味合わされても
文句は言えないんじゃないのかな?』と、言うと
アピスは悲しげな顔をして
『パパが殺されて、コクレアが悲しんでるの見たでしょ?
殺しに来た相手にも「家族がいるかもしれない」とは思わない?
悲しむ人がいるかもしれない相手を簡単に殺したり
一生、働けなくしたら駄目だと思うのよ』と、言う
ソレはきっと、父親を奪われたコクレアは勿論
今世の私にも、前世のセププライにも理解できない理屈だった。
『目的を持って、殺しに来ている相手に手加減なんてしたら
殺されてしまうんじゃないかな?
それに、そんな理由で敵を見逃し続けてたら
その情けを掛けた相手に、何時か殺されてしまうと思うよ
殺し損ねたって事は、失敗したって事でしょ?
殺しに来た人は怒られて、情けを掛けて貰ったのも忘れて逆恨みして
絶対に、もっと酷い方法で殺しに来るよ!』
同じチームの仲間達が『考え過ぎだ』と静かに笑う
私が言った言葉に対し、アピスは眉を寄せ困った様な顔をする
『フーは、人に助けて貰えたら嬉しくないの?』
私はアピスに・・・
「ソレとコレとは、設定に違いがある」と言いたかったけど
傭兵のギルド館の会議室内に居るメンバーは
私の意見をちゃんと理解してくれず、誰も賛同してくれないから
私は小心者モードで、静かに『嬉しいよ』と答えるしかなかった
『人は、助けて貰ったら恩義を感じるモノでしょ?フーは違うの?』
アピスの言葉にまた、私は仕方無しに同意する
『なら、分かるわね?』
アピスに言われ促されて頷いたけど、私的に本当は分からなかった。
私は大きく溜息を吐き
『皆がそう言う意見なら、従うけど…もしもの時の為に
皆はコクレアと…アピスとテッレストリスの事だけは
ちゃんとしっかり護ってね』と、言うと
今回のナウマキアのチームリーダーに、頭を軽くポンっと叩かれ
『自分がやった事が怖くなって、疑心暗鬼になってるんだろ?』と
抱き上げられ膝の上に座らせられ、更に頭を撫でられた。
今世の体は…まだ、子供で…7歳で…説得力が無い
私は自分の意見を訴え掛ける事を諦め、不貞腐れて
チームリーダーの膝から降り、本棚に向かう
私は今世2歳から、祭りの度に遊びに来るようになって
愛用している、傭兵ギルド館の本棚から
人生で物理的に役に立ちそうな、植物図鑑を出して抱え
クッションの良いソファーに、うつ伏せで寝転んで
開いて読み始める
誰かが『あぁ~あ、拗ねちゃった』と言い、皆が和み笑い出す
私が難しい文字を読む事が出来るとは思っていない大人達は
挿絵が載ってる本は、その図鑑のシリーズしかないから
挿絵を見てるだけだと勘違いし
『今回の活躍の御褒美に絵本を買ってやろうか?』と言う
私はコクレアとテッレストリスの欲しがってる絵本を思い出し
『英雄物語が欲しい!ドラゴンが出て来る外国のヤツ!』と
リクエストすると…アピスがクスクス笑い出した。
『それって、もしかして…
外国語で書かれた綺麗な挿絵の入ったヤツよね?
城壁の中の修道院のチャリティに出てた…
御金が足りなくて、テレと一緒に値段交渉してたヤツでしょ?
あんなに高価な本、読めもしないのに欲しいの?』と
余計な事を言ってくれる
チームリーダーの了承を得てから、皆を買い物に連れ出して
我儘を通して買って貰ってやろうと計画していたのに
「高価な本」である事をアピスにバラされてしまった。
私は舌打ちしてソファぁーに座り
『城下の修道院で写本された、自国の装飾写本より
持ち込まれた外国の装飾写本のが、絵と絵の配色が綺麗なんだよ
どうせ見るなら、綺麗な方が良いと思わないか?』と、言い捨てる
『そうだね…フウちゃん、僕もそう思うよ』
会議室に、アピスと同じ年齢で
当時・・・
アピスより、女の子より小柄だったコクレアが姿を見せた。
その頃、コクレアは・・・
まだ、普通の男の子だったのだが
アピスと同じ年齢で、アピスより小柄だったコクレアの
儚げな面持ちに、愁いを帯びた表情を浮かべた顔は
何処から如何見ても美少女以外の何者でもない
ファンタジックにイメージするなら
サラサラストレートの亜麻色の髪に水色の目のアピスが「昼の妖精」
コクレアは、ゆるふわの漆黒の髪に同じく漆黒の目の「夜の妖精」
と、言う感じである。
コクレアを心配して、アピスがコクレアに駆け寄った
重ねて言う・・・
コクレアはまだ、男の子だったのだが
寄り添う2人は美少女過ぎて、目のやり場に困った。
2人が小さく語り合い、コクレアだけが私の傍までやって来る
私がコクレアも座れる様にと、ソファーの真ん中からズレルと
私の隣に座り、コクレアは私を強く抱締めた
コクレアの柔かい黒髪が私の頬に触れる
男の子なのに、ドゥルケが仕事で扱う香水の香りがした気がした
私を抱締めたコクレアの肩は小さく震えている
私は対処に困り、セププライからの情報に頼り答えを導き出し
コクレアをそっと抱締め返して
コクレアの背中を優しくポンポンっと叩いた。
コクレアは、私を抱締め殺す勢いで私を強く強く抱締め
父親の死への憤りと、仇討に対する感謝の気持ちをぶつけ
私に総てを叩き付ける様に泣き出す
私は抵抗する事無く
コクレアを全身で受け入れ、コクレアの後頭部を撫で
コクレアが寝付くまで、されるがままになっていた。
コクレアが寝付いた後、移動しようとしたら
コクレアにしっかりホールドされていて身動きが取れなかった
見兼ねたアピスが、私とコクレアに毛布を掛けてくれ
『今日は、一緒に寝てあげて』と言うので、私はそのまま就寝し
翌朝、それがアピスとの最期の会話になった事を知る
アピスと、今回のナウマキアのチームリーダーは
絵本を買う為に早朝に城下まで出掛け
暴漢に囲まれ、暴行を受け、アピスは自分で舌を噛み切って自害し
チームリーダーは、死なない程度の重傷と
アピスが死を選んだ理由を目の当りにして心を病み
心神耗弱状態に陥っていた。
私は時間を掛け、慎重にチームリーダーから情報を引き出す
繰返されるうわ言に耳を傾け、安心させるように話し掛け
犯人の人数と、個々の特徴、暴漢達が何をしたか
何を言ったか、口走ったかを事細かに詳細に訊き出し
報復の為・・・
剣闘士になってみたり、傭兵業をやってみたり、暗殺者に…とか
現在進行形で活動し続けているのである。
そして今日も、その為に活動するのだ
カーリタースには、その為の仕事を斡旋して貰っている
私は剣闘士時代に愛用し、報復の為に使う
アピスがナウマキアで使っていた物を斬れる様に打ち直した剣と
コクレアが父親から貰った、御信用の剣を携え
今回、祖母のドゥルケが準備してくれた
「綺麗な花を模したバレッタ」と、私に似合う
動きやすい、女にも見える服をありがたく受け取るのだった。
ドゥルケが住まう1階の庭付きの部屋の中
『本当は女なのに女装するなんて、ホントは変な話だね
でも、本当は女だってバレない様に気を付けるんだよ…
バレたら検査名目でナニされるか分からないからね』と
ドゥルケが私に念押ししてくれる
私は軽く笑う
『了解!バアちゃんに迷惑かけない様に、その事だけは
死ぬ気で死守してみせるよ』
ドゥルケも軽い雰囲気で笑い
『其処までしなくて良いよ!
バレたら、アタシの為にコノ国を捨てて逃げておくれ』と言った
コレはドゥルケとの何時もの会話
私達は笑い合い、互いに片手を出し合い
相手の手を軽くパンっと叩き、互いに準備に取り掛かった。
私は普段着用している服を脱ぎ
ドゥルケに準備して貰った物を身に付け始める
胸隠しのコルセットの上から首に掛けるタイプの付け胸
何時も着用しているのより、サイズの合ったシャツを着て
スリムな乗馬ズボンを穿き
後ろにスリットの入った、膝裏まで来る丈のロングベスト
V字に加工された裾の黒いロングカーデガンを着込む
この服装は・・・
スカートは穿いていないが、長いベストとカーデガンの裾が
スカートを穿いている様にも見えるシルエットを作り出していた。
女らしい恰好が本当は好きな、私のテンションが少し上がる
『流石、バアちゃん!
有る物だけで此処までやってくれるとは思わなかったよ!』
ドゥルケの方も自信満々に
『当たり前だろ?アタシはプロだよ?
まぁ~でも、本当は
時間の余裕をしっかり取って、仕立てさせて欲しかったんだけどね
一応、私は仕立て屋さんでもあるんだから』と言って
嬉しそうな顔をしていた。