018[アピスと私]
[アピスと私]
『右手を使うなら、包帯を巻いている程度では意味が無いだろ?』と
湿布薬を付け貼り直し
祖母のドゥルケが、丁寧にテーピングを巻いてくれる
そうしながらも…しつこく、余りにも駄目駄目と言うので
今世の私の幼き日に
剣闘士の道に片足を突っ込む原因となった戦友の事と
私が剣闘士になった理由を改めて思い出した。
戦友、それは「アピス」と言う名の
現在、南のスラムを支配する男の姉であった人で
私が一時期、剣闘士になっていた理由となった死んでしまった人
彼女は5歳の時に、乳飲み子である私を抱えたドゥルケと知り合い
祖父の親友の司祭様とドゥルケ、アピスの3人で私を育てた
その3人の「育ての親」の1人である
余談として、落ちの如くに・・・
当時、祖父は私が生まれずに死んだと思い込んでいたらしい…
何て事もあったらしいが
その頃の事は流石に、私も聞いた事がある程度で知らないし
良く分からなかったりする。
だが、私の今世での一番古い記憶・・・
セププライの記憶でカスタマイズされた
自分史上、最高レベルに狡賢い2歳児な私の記憶では
乳幼児だったテッレストリスを連れ、育てていたアピス7歳は
私の母親的存在でもあった事は、間違いないだろう。
そのアピスが「何故に私の戦友となったのか?」と言うと
平たく言えば簡単だが、理解し辛いので
説明が少し面倒でも取敢えず、順に説明して行く・・・
我等が生息する国は、追悼行事とか入ると4回にもなるが
*雪解け時期「今年の豊作を祝う祭り」
*暑い盛りの「雨に感謝する」か、「雨乞いをする祭り」
*今年最後の収穫時期「今年の収穫に感謝する祭り」
基本「年3回」の御祭りが開催される。
それぞれの祭りには、闘技会と言う催し物があって
「死刑判決を受けた重罪人」
「国に害をなした戦争捕虜」等の処刑の序に
剣闘士同士を闘わせて賭けをするイベントや
落第剣闘士な「闘獣士」や「戦車闘士」が
猛獣と戦う「野獣狩り(ウェーナーティオー)」…
投げ縄で相手の動きを封じて戦い合う
「縄闘士」の「寸劇」
観客の笑いを誘う為に9割の視界を遮る仮面を被った
「目隠し騎士」の「寸劇」
「射手闘士」の「弓の大会」
「戦車騎士」の「チャリオット戦車競走」
「騎馬闘士」の「馬術競技」
と、色々イベントがあったりする。
ソレを盛り上げる「前夜祭」には
模擬戦、又は模擬海戦「ナウマキア」と言う
自由民も徒党を組めば参加できるサバイバルゲームが開催される
ソレが、最初に私がアピスに誘われ片足突っ込んだヤツである
「ナウマキア」が、どう言うモノかと言うと・・・
剣闘士のファイトマネーよりは、ちょっぴり安いのだが
優勝すれば「賞金の出る」余興で
剣闘士の養成所の生徒は参加できないが
その卒業生で、ラニスタを持たず闘技会の参加資格が無い者
有っても参加人数から漏れて出ない者や、元剣闘士
剣闘士ではないが腕に自信がある一般人、元騎士、等…
数多くの種類の人間が参加できたりする
グループ対戦型の無差別格闘技みたいなモノである。
何故アピスが、そんなモノに参加してたかと言うと・・・
アピスは、とても綺麗な女の子だったので
「剣闘士になりたくて」奴隷として、自分を身売りしても
「身分的には一緒だろ?」と、「娼婦として働かされる」のが
火を見るより明らかだった…と、言う事と
剣闘士の養成所に入る御金も無いから…と、言う理由から
前夜祭のサバイバルゲームの一般参加グループに所属する
「剣闘士モドキ」の端くれ、と言う
中途半端な存在に甘んじるしかなかったそうだ。
因みに、剣闘士とは・・・
興行師の資格を持つ者の傘下に入って
1度でも闘技会に参加した事のある戦士の事で…
金のある自由民、貴族が所有する奴隷、時々、貴族や何かが
興行師が経営する有料の剣闘士養成所を卒業し
興行師が統率する剣闘士団に入ってなったり
各地の闘技場へ巡業する見世物小屋の興行師や
20勝した証の木剣「ルディス」を持つ元剣闘士が
師匠兼、ラニスタ役となり
その弟子が、闘技会に出場してなったりするモノだ
例外として・・・
カーリタースの様に、父親が興行師の資格を持ち
その父親が不慮の事故で死に
20勝してない剣闘士が、父親の所有のままになっていた場合
親から子へ、ラニスタの資格と剣闘士が一緒に
押し付けられる形で贈呈される場合もある。
話は戻り、私が今世で2歳になった時には
アピスは既に、剣でナウマキアに参戦していて
その時、アピスの家は父子家庭になっていた為
乳幼児のテッレストリスと、御手伝いモドキの私を連れ
ナウマキアで一緒に戦うチームの会議に参加していた。
そんな中、セププライの記憶でカスタマイズされた私は
将来有望に見えたのであろう
その年から、周囲から何かしらの才能を見いだされた私は
アピスが参加している、毎年の優勝候補に名を連ねていた
強豪な一般傭兵チームの大人達から、新人として
色々、戦い方を教わる事になる
紆余曲折有って、3年後には・・・
10歳のアピスに連れられ、5歳の私は弓を持ち
ナウマキアに参戦し「名ばかりの戦友」の仲間入りとなった。
大人達が犇めく、サバイバルゲームのフィールドに
10歳の可愛らしい少女と、少女に連れられた5歳の子供の参加者
剣闘士では無く、傭兵を生業とする同じチームの大人達にとって
私とアピスは、相手チームに対する罠以外のナニモノでもない
時々、弓矢が飛んでくる事はあっても完全に大人達に守られ
私生活面でも、同じチームの大人達に支えられ
ドゥルケが身売りしなくても
仕立て屋の仕事で事足りる生活が出来るようになって
私は今の生活と、守られる事に満足して
その年は、それなりぃ~に安全にゲームを楽しんで
浮かれ、相応に幸せな暮らしをしていた。
でも・・・
その暮らしが崩れる前兆は、事前に存在していた。
アピスはナウマキア常連で、何年もそんな事を続けている
当たり前の事だが、そんな事をワンパターンに続けていれば
違った方向から弱点を突いて来るチームも出て来る
私の初参戦から1年後、私のナウマキア4回目の参戦の時・・・
私とアピスを狙う振りして、私達を護ろうとする者達を狙う者
フェイントを掛けて攻撃を仕掛けて来る者達が現れ出した。
そして、幸せのタイムリミットは更に1年経過してやって来た。
私は、この年のナウマキア程
セププライの知識や、経験に助けられた事は無い
この年の最初の祭り、初戦勝で当たった相手チームは
ナウマキアのルールを破り「模擬戦」と言う事を忘れたのか?
真剣で、私達に向かって襲いかかって来たのだ…
最初、相手が持っているのが真剣とは気付かずに
覆い被さるように私とアピスを庇い、一人の大人が…
コクレアの父親が、背中を斬り付けられ絶命した。
流血沙汰や、死人が出にくい模擬戦を好む
オペラグラスで観戦していた少し上品な観客達から悲鳴が上がる
私とアピスは、死に逝くチームの仲間を見守りながら茫然とする
乱戦に突入し・・・
視界の端では同じチームの大人達が、切れない剣で応戦している
時々、私とアピスを庇い誰かが斬り付けられ
鮮血を周囲に撒き散らし倒れていった。
運営側は、暴徒と化した私達の対戦相手を持て余したのか?
サバイバルゲームのフィールドの扉を固く閉ざしたままで
私達のチームを救援に来る気配が無い
「いや、違う…私達のチームを皆殺しにする為に閉じ込めたんだ」
その時の大会の管理官の視線と
私の視線がぶつかり、大人の男のニヤニヤ笑う顔を見て
私はその事を確信し
恐怖を感じる前に、私の中心で何かが壊れたのを感じた。
私はセププライから与えられる情報に従い
私とアピスを護り、即死してしまった
コクレアの父親の亡骸を丁寧に且つ、簡易的に弔い
温かい赤い液体で両手を濡らし、ソレが冷めて冷たくなると同時に
湧き溢れ出す冷たい感情に身を任せ
今世で初めて、前世のセププライと同化した。
『貴様、コレは我が国の農神への祭りだぞ!
「コンナ事をしてしまって」覚悟はできているのか?』
私はプロークラートに向かって指差し、怒鳴る様に叫ぶ
巷の噂では
この時、私の紅茶色の瞳が、碧眼に変化していたらしい
そして、今世の仲間を護る為に
腰を抜かして座り込んだままのアピスの腰の剣を引き抜き
刃を削り取られた、模擬戦用の切れない剣で相手の人生を殺した。
切れない剣で、私に斬り付けられ
倒れた男が一呼吸置いて、倒れた状態で身動きを全くせずに呻き
意味不明な言葉を擦れた声で発する
ちょっと不思議な状態ではあったが
恐慌状態に陥った状況、最初は誰も私のやっている事に気付き
私がやっている事を止め様とする者は、存在しなかった。
私は微笑を浮かべ
『御前も、農神違いの農神サトゥルナリアに捧げてあげる』と
一人で次々と、敵チームの奇襲隊を蹴散らし
私が倒した相手の様子が可笑しな事に気付いて
アピスとチームメイトが、私を止めに入るまでの間に
私は数人の大人の男達を再起不能にして回ったらしい…。