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017[ドゥルケと私]

[ドゥルケと私]


私は一人、借り物の馬を走らせ

「この時間ならカフェに居る筈だ」と

自宅のある「アーレア・フローリブス・コンシタ」へ戻る


案の定、祖母のドゥルケは

昼間、カフェの営業をしている1階の店で

カフェと、夜営業している飲み屋と、祖母の本職の常連客達とで

御茶の時間を楽しんでいた。


私はドゥルケには一番良い笑顔を見せたくて

深呼吸して気持ちを切り替え、ゆっくりと馬を店の前に停まらせる


ドゥルケは私を見付けると笑顔で

『おや、御帰り!どうしたんだい?

日のある時間にうろついてるなんて珍しいじゃないか

それにその馬、騎士団のだろ?

アンタ…王子様にとうとう、口説き落とされたのかい』と

私を迎えてくれた。


私の作った作りたての笑顔が引き攣り、崩れる

常連客達と早朝から働いている店員達

昼から交代で入ってきたばかりの店員達もが笑い、場が盛り上がる


『そう言えば今回の王子様は、夜明け前にやって来て

坊ちゃんを騎士団に入れるって息巻いてましたものね』

『そうなんだよ…今回は夜明け前に、だよ!

これから寝る私の所までやってきてさぁ~

家の子を騎士団に入れる許可を取りに来たんだ!

本当にあの王子様は冗談抜きで迷惑な御子様だよ、困ったもんだ』

『そりゃ大変だ!「友達になりたい」から

一気に強制的になってきたな!

その内「性別なんて構わない!フロースを嫁に!」って

言って来たりするんじゃないか?』

『それは面白い!男の友情を求め続けて屈折して、行き過ぎて

時期国王が、男食に走るのか!大変な一大事だな!』

『そうだ!いっその事

食われる前にフロースが王子様食っちゃいなよ!』等・・・


今回も、無責任な御一行様の暴走は尽きない


私は、これからする御願について気が重くなり…溜息を吐き…

『いやいやいやいや…その冗談、笑えないから!』と

苦笑いを浮かべるしかなかった。


無責任な御一行様の暴走は止まらないが

私は一呼吸置いて意を決す


『そんな事より、バアちゃんに御願があるんだ

実はこれから仕事で…女の格好しなきゃならなくなったんだ!

だから私を「女」に見える様にしてくれないだろうか?』

私の言葉の内容で・・・

皆が静まり返り、少し時間を置いてからザワザワする


カフェの常連客なオッサンが代表して、心配そうに私の手を取る

『もしかして、本当に王子様の嫁に…』

『ならねぇ~よ!想像するのも止めてくれ』と、私は

オッサンの手を払い除け、低い声で叫ぶ様に突っ込みを入れてから

深ぁ~い深い溜息を吐いた。


暴走した会話の先導者達は、妄想会話に添った事が起きると

心配性になってしまって動揺していてイケナイ、イケテナイ


私は「それは無い」と否定する為、脱力しながら

『傭兵としての仕事なんだよ

ちょっと訳有りで、囮役する事になったんだ…

囮するなら、女の格好した方が獲物の食い付きが良いだろ?』と

簡単に事情を話す


話したら、今度はドゥルケが

『もう、誰かの良い様に使われなくても良くないかい?

それに、我が家の収入だけで

私達が普通に暮らしていけるとは、思わないかい?』と

何か他にも言いたげに微笑んだ。


私は、ドゥルケの言いたい事は理解できてはいる

「もう、無理に稼がないで

普通に安全に、自分とずっと一緒に暮らして欲しい」と

ドゥルケが願っている事くらいは、知っているのだけれど


私の右の内腿に有る刻印の存在がそれを許さない


その刻印のある者は必ず・・・

ずっと一緒に居る、身近なモノを巻き込んだトラブルを抱え

そんな身近な者を早死にさせる事があったり

刻印を持つ者自身も、早死にする傾向にある


だから、何時もドゥルケと一緒には居られない


きっと「私も早死にする事だろう」と思うから・・・

過去の文献&セププライが死んだ年齢を考えると

「後、4~5年って所だろうな」と、考えられるから

私の死後のドゥルケに為に、御金を残しておきたい


「なんせ私は貴女の娘を殺し、貴女の孫の体を使って生きている

貴女の孫であって、孫では無い者なんですから…

本当に、ごめんなさい!」と、こっそり心の中で謝罪する。


謝罪して、過去と未来の事を考える

「私はドゥルケに苦しみばかり与えている存在なんだよな」


そう昔、コノ国一番の娼館の主の愛人だったドゥルケは

娼館の主との子供、フローリスが死ぬまで

城下で幸せに暮らしていたのに

私がフローリスを殺して産まれた後は、娼館の主に捨てられ


もう一度、城下に住める税金を納められる様になるまで

南にあるスラム街で、身を売ってまでして私を育ててくれていた。


私が生まれて来なければ・・・

ドゥルケの娘のフローリスが死ぬ事も無く

きっとずっと、ドゥルケは幸せに暮らしていたに違いない


私は、私である事を…

フローリスを殺して産まれてきた事を…

ドゥルケに辛い思いをさせ、私を育てさせてしまった事を

償う必要がある。


今世での、せめてもの救いは・・・

今は私の存在を娼館の主が知り、孫である私の存在が有るが為に

ドゥルケとの繋がりを、娼館の主の浮気相手と言う形ではあるが

復活させてくれている事だ


私の知る限り・・・

ドゥルケが今、幸せな暮らしが出来ている事…それが唯一の救い

でも、私が死んでしまえば・・・

また、ドゥルケは娼館の主に捨てられてしまうかもしれない


「だから私の死後、どんなに悲しい事が有っても

貴女が生きていくのに苦労しない為に

貴女の為に…将来、貴女が働けなくなった時の為に

せめてもの老後の準備だけはさせて下さいね」と

内緒でドゥルケに対して御願をした。


但し、そんな考えをドゥルケ自身には言えない

その代わりに私は『いや、まだまだ足りないね!』と言う


私はドゥルケに微笑み掛け

『働ける今の内は、その収入で事足りるけど

老後の事を考えると、もっと貯蓄しとかな駄目でしょ?』と言い


ドゥルケの肩を左手で抱いて

『老後に税金払えなくなって、城下から追い出されて

スラムで生活する事になったら、辛いでしょ?

そうならない為に今は、しっかりと稼がせてやってよ』と

無邪気に見える様に笑い直して見せた。


『16で老後の心配って…もしかして

その老後の話しって、アタシの為のじゃないだろうね?』

感の良いドゥルケが心配する


私はドゥルケの肩を叩きながら笑い

『嫌だなぁ~、バアちゃんってば

もしそうなら、ユーニからの騎士団入りの誘いを受けてるよ

王子様に頼めばバアちゃんの老後、絶対安泰だろうからね』と

冗談半分に返しておいた。


周りも『そりゃそうだ』と笑ってくれる


それでもドゥルケは私の事を心配して

『もう、自分を安売りしないでおくれよ?

毎年3~4回「パルマだよ」とか言って「棕櫚しゅろの葉」や

「褒め称えられてきた」って「月桂冠コローナ」を持ち帰ったり

「20連勝して木剣ルディス貰うまで辞めれない」とか

絶対に無しだからね』と、私に釘を刺した。


私も正直、その稼ぎ方の事も考えた…の、だが

その稼ぎ方「闘技会の興行への参加」は、年に3回しかできない

1回の御祭に1試合しか出られないので

20連勝する為には、最低でも7年近く掛かってしまう

現状、私の時間はそんなにも残されていない事が推定される


推定される上に、御祭で死ぬ以外

20連勝しないで参加できなくなる事があった場合・・・

逃げたと見做され、御祭の管理官プロークラートルの人達が

私を罪人として狩りに来る可能性が否定できない


私の死後にそんな事に成れば・・・

私を「唯一無二の自分の剣闘士」として受け入れ

先代のカースから引き継いで

「私を所有する興行師ラニスタ」になってくれた

カーリタースに興行師としての責任が課せられ

新しい剣闘士を出品する役割が出て来る


現在、仕事上の管理者となって貰ってる上に

私の死後にまで、カーリタースに迷惑を掛けたくはない


それに多分・・・

「祖母であるドゥルケにまでも、迷惑が掛かってしまうだろう」

と、言う事で「参加できないから大丈夫だよ」と

言いたい所なのだが、説明できない部分があって困ってしまった。


私は仕方無しに・・・

『バアちゃん…

私の真名に懸けて、それだけはしないって誓うよ』とだけ

説得力が無いのを自覚しながら言った後


『だからさ、傭兵としての仕事を遣り遂げる為に

私が女に見える様に何んとかしてやってくれないかな?』と

ちょっぴり悲しい御願をする


周囲からは・・・

『仕事の為に女装するって、何だか少し世知辛いな

もっと仕事を選ぶ事は出来なかったのか?』と

困惑顔をして、言われてしまう


私は苦笑いで受け流し

ドゥルケは『約束だよ?もう、剣闘士だけは駄目だからね』と

強く念押しして、私の頼みを訊いてくれる事にしたらしい。

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