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015[茶番劇の中の私]

[茶番劇の中の私]


『コクレア、刃物マニアがやってる金物屋って分かる?』

『正門方面の裏通りにある、貧民地区に近い店の事?』と

私がコクレアと話ながら歩き出すと・・・


私の着用しているベストの裾をユーニが掴み

『待てよ、フロース!本当は…

今日がお母さんの命日だから、自分の誕生日に

「自分の誕生日を祝うのが嫌」とか言う事なんじゃないのか?

もしそうなら、ちょっと悲しいじゃないか!』と

涙ながらに訴え掛けて来た。


「うわぁ~…面倒臭いな!

その話は私的に、もう終わってると思ってたよ…」

私は振り返り、ユーニが本気で泣いているのに気付いて


『いやいやいやいや…

そう言う訳じゃないし、他にちゃんとした理由あるし…

そもそも、こんな事で泣かれても困るんだけど』と言ってから

ユーニを背中を撫で、雰囲気的に流されてしまい

宥めなくてはいけなくなってしまった。


その様子を見ていたストゥディウムが・・・

不意に慌てた様子で立ち上り

『ん~?おい!お前!…お前も孤児なのか?』と

テーブルを叩く様に、大きな音を立ててテーブルの上に手を置き

その手に体重を掛け乗り出しながら私に訊いて来る


「あぁ~!コイツも、昔ながらのままで面倒臭ぇ~!

御前もって、何なんだ?…他に誰か孤児でもいるのか?」

私はストゥディウムの様子にたじろぎ


ストゥディウムの言葉の意図が分からないので

未成年である事がバレている事もあり

『いや…えぇ~っと

身寄りは有るよ…私には保護者がちゃんといるからな』と

出来るだけ、こちら側の情報を与えない様な言い方で返した。


のだが、しかし・・・

目尻に涙の痕を残し、泣き止んだユーニが空気を読まずに

『そう言えば…フロース、お父さんは?

ドゥルケさんって、お母さんのお母さんだよね』と

私的に求めていない、不必要な情報を発信する様に発言してくれる


私は無意識に右手の拳を握り締めていた

痛みで正気に戻ったが、この痛みが無かったら・・・

ユーニの後頭部を掌底で

下から上へ向かって突き上げる様に殴っていた事であろう


「あぁ~…ユーニが自国の王子で無ければ、シメテやるのに」

私は腹立たしい気持ちを堪え

笑顔でユーニの頬を軽く抓り、そのまま引き寄せ

ユーニの耳元で『余計な事を口走ってんじゃね~よ』と伝えた。


『え?何で?どうして?』

無邪気なユーニは、私の言葉に含まれた意味を理解する事無く

『あ!そうか!お母さんと、生まれる前の自分を捨てた

父親と言う存在が存在した事自体を認めたくないんだね!

フロースってば、変な所で潔癖症だなぁ~』って・・・

何設定で思い付いたか分からない言葉を口にする


「それにしても、いったいコイツは、

何をどう考えて、そんな答えを導き出したのだろう?」

私はユーニに対して「もう、何も喋らないで欲しい」と願い


思い余って物理的に・・・

ユーニの後頭部を右腕で固定し、左手でユーニの顎を掴み

顔を近づけ、至近距離で『取敢えず、黙れ!』と言った。


『坊ちゃん!それ、曲りなりにも我が国の王子様ですよぉ~

そんな風に乱暴に扱うのは、少しばかり如何なモノかと』

私はコクレアに肩を軽くポンっと叩かれ、周囲の様子に気付く


建物の中から此方を覗き見る騎士団人達は騒然としていた

テラスに居る数少ないピンクのショートドレスに身を包む

女性従業員達も同様に


但し、此処の騎士団の団長ストゥディウムは

腕を組み、何かしら考え込んでいる御様子で・・・


アルブムは私に対して、頷きながら

『そう言う風にユーニを扱いたくなる時って有るよな』と

同情的な態度だった。


私はそれでも、大多数の反応が気になり

「それなりに、コレはマズイよなぁ~」と思って

ユーニの顎を掴んだ左手と

ユーニの後頭部を捕らえた右腕をゆっくり放す


ユーニは、自分が謝る必要もないのに『ごめん』と私に謝り

『そんなにまで

父親と言う存在が嫌いだったとは想像する事も出来なかった』と

『もう二度と、この話題には触れないよ』と誓う様に

大きな声で言い放ち、私の左手を取り両手で優しく握りしめてくる


「えぇ~っと…この先、私は

この状況に対して、どう対処すれば良いのだろうか?」

私は本気で困り、沈黙する以外の事が出来なかった。


『よし!じゃあ、こうしよう!』

何かを思い付いたのか?ストゥディウムが大声を発する


私はストゥディウムが・・・

私に対して助け船を出してくれるか?と、少し期待したのだが

『このケーキは、誕生日を祝うケーキではない!

偶々、この場に出されたオヤツだ!』と言い切っただけだった。


「何なんだ、お前は…そんな事を本気で思い悩んでたのか?

騎士団の団長がそんなんで大丈夫なのか?」

私は虚ろな瞳でストゥディウムを見る


「あぁ~…でも、ボス猿が助け船を出す男では無い事くらい

セププライの過去の記憶から分かっていただろうに

今のストゥディウム期待してしまうだなんて…」

私は「私ってば、愚かだな」と思った。


ストゥディウムの右手には、何処から取り出されたか分からない「HappyBirthday フロースくん」と、チョコレートで書かれた

ホワイトチョコの板が握り締められている


私は生温い目でそれを眺め・・・

私の視線に気付いたストゥディウムは、と言うと

『こんなモノはこうしてくれる!』と

手にした白チョコの板を口に放り込み食べるのであった。


「帰りたい」

私は今までカーリタースに紹介されて、受けてきた仕事の中で

此処まで激しく「帰りたい」と思った事は無かった様な気がする


「このくだらない茶番劇は、何時まで続くのだろうか?」と

私は絶望の中、今一度・・・

観客の多い茶番劇が、繰り広げられる周囲の状況を確認した。


建物の中から此方を見る集団

ピンクのショートドレスに身を包んだ女性店員達

控室らしき場所の窓から此方の様子を窺うその他の女性店員達

後・・・コクレア、アルブム、ストゥディウム

勿論、ユーニまでもが私をじっと見詰めている


ストゥディウムの発言と行動に対する

私の答え、返答を待っているのかもしれない

私は一度、無意識に天を仰ぎ、大きく溜息を吐いて脱力する

『ユーニ…私はこれからどうすればいいのだろうか?』


唐突に私に問い掛けられ・・・

ユーニは一瞬、少し驚いた様子で目を見開き

次の瞬間には、何だか本当に嬉しそうに微笑んで

『ケーキ…一緒に食べよぉ~よ!』と言った。


「まぁ~…それくらいしか、選択肢がないよな」

今日これで、3度目の正直・・・

今度はユーニに促され私は、さっきと同じ席に戻される


どうやら、このテラスでケーキを食べないと

この話はどうやっても進まないらしい


私はポットに残っていた

少し冷め、濃くなっている紅茶をカップに注ぎ

それをミルクティーで飲む事にした。


私が、自分が飲むお茶を準備しているとユーニが

『ドゥルケさんがね、フロースは昔から

苺と生クリームの組み合わせが一番好きだって言ってたから

苺と生クリームをシフォンケーキで挟んだ上に、生クリーム塗って

苺と生クリームを山積みにして貰ったんだよ!どう?』と、私に

目の前にある苺のケーキを勧めて来る

「どうと言われましても…」


私はユーニの目を見て

『そうだな、強いて言えば…凄いな

でも、それにしても何時の間に私の祖母と仲良くなったんだ?』と

ケーキの感想をしっかり伝える事よりも

私的に疑問に思っていた事を質問し返す事を選んだのだが

ユーニは気分を害す事無く、何故だが自慢げに笑った。


ユーニはケーキの事そっちのけになって

『一番最初に、僕とフロースが運命的に出会った日だよ!

隊長とアルブムが、証人だ』と、言う

私は、ユーニと初めて出会った2年前の事を思い出してみる


「確か、ユーニと一番最初に出会ったのは…

爺さんが経営する娼館だったよな?

其処では絶対に、バアちゃんとユーニ達が出会う訳が無い

本妻と鉢合わせするリスクをバアちゃんが犯す筈無いし」

『接点が見えん』

其処は花街、私と祖母ドゥルケの住処

「アーレア・フローリブス・コンシタ」とは、少しばかり離れ

道筋も1本以上離れている


『あ、だからね、君の事…フロースの事を詳しく訊きたくて

偉くない方の経営者の人にドゥルケさんを紹介して貰ったんだ』

「偉くないって、言い方!まぁ~ど~でも良いけど…

でも、多分…ソレ爺さんの本妻さんの産んだ長男だよな」

私は私を産んだ人の兄を思い出し微妙な気持ちになった。


『そうそう!その前には、一番偉い経営者の爺さんに訊いて

滅茶苦茶怒鳴り散らされたんだよな』と、アルブムが笑う


「あの温和な爺さんに滅茶苦茶怒鳴り散らされるって…

一体、どんな話の持って行き方をしたのだろうか?」

私はその事も気になったのだが・・・


『もしかして、この席に座ってる全員が私の祖母と…

ドゥルケと知り合いって言う事か?』と、私は確認した。


ストゥディウムがニパッと子供の様に笑う

『そうみたいだな

因みに俺は2年前から、ドゥルケとは飲み友達だぞ!』

『ん?では何故、私がに孤児なのかと訊いたんだ?

私の事をバアちゃんに訊かなかったのか?』

『え?あ~…熟女落とすのに

その人が育ててるガキの話を掘り返して訊き出すのは

弊害にしかならないだろ?』

『…はい?今、何て言った?』

私は自慢げな風に微笑むストゥディウムに対して

切っ先の折れたナイフを突き付けていた。

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