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010[私と騎士団の詰め所]

[私と騎士団の詰め所]


税金を湯水の様に使い、賄賂が横行していた

セププライの父親が国王であった時代の名残の産物

白い壁、白い柱に白い模様が刻まれた白亜の豪邸へと向かって

コクレアが操る高級馬車が進んで行く


「うわぁ~懐かしいなぁ~生れ変ってから来たの初めてだ」

私は顔を上げ、騎士達が集う詰め所を眺めた。


但し、騎士達の詰め所に近付くにつれ・・・

「段々、見窄らしく見えて来るのは気の所為か?

いや…気の所為ではない、みたいだな」

傍から見ていると、残念な現実が見えて来る


建物は通常劣化を上回る速さで劣化して古くなり

近くで観ると、所々に大きな罅が入っていて

管理が行き届かず、補修を受ける事も無く崩れて

修理不能に陥っている所が、無数に存在している御様子だ


そんな外観の建物に、掃除が行き届いている筈も無く

建物の根元の方は、黴たり苔が生えてたり

比較的に綺麗な所の色も、煤で汚れてくすんで鼠色になって

逆に、黒い筈の看板の文字は白けて消えかかっていた。


「勿体無いなぁ…」

私はセププライの知識の中にある

建てた時の利用計画書の管理の項目に書かれていた事を思い出す


「ちゃんとしてたら

こんなに酷く痛まずに、それなりに綺麗なままだっただろうに」

金属製の高い柵はペンキが剥げて錆び、錆び溜を地に作り

鉄の門の下には、雨で流れた錆びの通り道が色濃く色付いている


「つぅ~か…これは、管理をサボリ過ぎなのではなかろうか?」


私が目を向けた「昔、芝生の庭」だった所は・・・

踏み入れるのを躊躇してしまえる程に荒れ

水溜りが出来る様な場所には、むき出しの地面が露出し

雑草の生えた場所は、足元が見えなくなりそうな雑草林に

更に木が植わっていた場所となると、森みたくなっていた。


『なんかちょっと…御化け屋敷みたいじゃね?』

気付けば、私は思った事をそのまま口にしてしまっている


『あぁ~うん、だよね…そう言う風に見えるよね

人通りの無い時間に初めて見た人は、廃墟と勘違いするんだよ』と

ユーニが明るい水色の瞳を曇らせて、苦笑いを浮かべる


私はユーニ的に「言われたくない事」を言ってしまった様なので

『あ…ごめん』と、小さく謝って

余計にユーニに気を遣わせ、2人で気を遣い合い謝り合い

コクレアに鼻で笑われてしまった。


私とユーニは目を合わせ、互いに溜息を吐く

そして『今のは無かった事に』と、互いに照れた様に笑い合う


一呼吸置き、深呼吸してユーニが・・・

『ごめん!僕…

ちょっと確かめたい事があるから、直ぐ戻るから

少しだけ此処で待ってて』と、馬車を1人で降りて行こうとする


誰でも無く私が、ユーニに『馬車で待ってて』と言われたのだが

こんなに無駄に目立つ馬車の上…目立つ座席に座り…

このまま、晒し者で居続けられる精神を…

マジでホントぶっちゃけ、私は持ち合わせていない


『ざけんな!それ、私が花を買う為に求めてる

花売りの人達に関する事だろ?狡いんじゃないか?

自分だけ確かめに行こうとしてんじゃねぇ~よ』とニヤリと笑い


私は恥ずかしくて、どうしても此処で待ってられなくって

「ユーニに同行する」と・・・

「騎士達が集う詰め所に、ついて行きたい」と、主張した


コクレアが『坊ちゃんってば、物好きだなぁ~』と笑い

ユーニが、すんなり要望を受け入れてくれた。


「意外だな…

受け入れるにしても、何かしら条件だして来るかと思ったのに」


私の予測では「連れてく代わりに騎士団入りを強要する」か

高確率で「フロースは騎士じゃなくて部外者だから駄目だよ」と

「断られてしまう」かの「どちらか」だと思っていたので

前よりユーニに対して興味が湧き


断られたら「セププライの記憶の中」にある

代々続く「この地区の情報屋」を「見付けに行ってみよう」と

考えていた事を破棄して

深く考える事無く、ユーニの後に歩いて着いて行く事にした


そして・・・

「ユーニが詰め所に入ったのを見計って

コクレアに留守番を頼み、情報屋を訪ねてみれば良かった等」と

建物に入った初っ端から、後悔するのだった。


久し振りに入った騎士達の詰め所は

埃臭く、汗臭く、体臭のキツイ男臭さも入り混じって

自然と吐き気が込上げて来る


「あ、無理!この種類の臭いは嫌い!

世の中には、好きな娘も居るけど…今世でも、私は駄目だ!

男女の臭いの感知能力の感知範囲の違いによって起こる

ちょっとした事だけど、私にとっては弊害でしかないな…」


と、此処で余談・・・

皆さん御存知だろうか?コレは極端な例だが

汚部屋が駄目でも、人間の体臭は平気な男がいる一方

男臭い部屋NG・汚部屋の臭いOKな女が存在する事を

男女の違いで、臭いの質で耐えられる種類も違うらしいですよ!


因みに私は両方、耐えられません・・・余談終了w


私は口元を抑えて、生唾を飲み込み

吐き気を抑える為に一瞬、息を止めて立ち止まった

いや、立ち止まざるを得なかった。


先を歩いていたユーニは・・・

詰め所の臭いに気付いていないのか?臭さに動じる事も無く

私が立ち止まっている事に気付いて戻って来る


ユーニは少し怒った様子で・・・

『フロースってば、自分から「連れてけ」って言ったんだから

ちゃんと付いて来てくれよ』と言い

私の痛めた右手を避け、私の左手を握り繋いで歩き出す


時々、小心者になってしまう私は・・・

私が最初に同行を申し出た手前「やっぱ、帰る」とは言えず

抵抗する事無く俯いたまま、吐き気を堪え浅く呼吸して

極力、騎士団の詰め所の空気の臭いを嗅がない様に

細心の注意を払い、気を付けて歩き出くのだった。


ガンガン削られて行く私の体力と精神力

私は周囲に注意を払う事無く、そもそも注意を払う事が出来ず

無防備に、詰め所の中をユーニに連れられ進んでいく


そんな時、そんな場所に・・・

騎士団の詰め所なので、当たり前と言えば当たり前なのだが

今朝、私が・・・

腹に傷を負わせ、転倒させて階段から落とした騎士がいた。


あの時、階段から落ちた為に鎧が破損していたのだろう

鎧を修理に出していたらしき騎士は

鍛冶屋と思しきゴツイ男から、鎧を受け取りながら私を見て


体調が優れない様子と、右手首に巻いた包帯を確認して

不敵に笑い、今なら「勝てる」とでも思ったのか

『おい!お前…』と、後ろから声を掛けて来た


面倒なので私は無視をし、無視し続けていると

ソイツは態とらしく、私の右手首を掴んできた。


私は痛みで「今居る場所が何処なのか」を考慮し忘れ

一呼吸置いて、ユーニが繋いでいた手を引き抜き

右肘を固定し、騎士に右手首を引張られている反動を利用して


反射的に一番ダメージを与えられる、相手の顎を左の拳で捉え

続いて、後ろに倒れゆく騎士の鳩尾を右膝で捕らえて

更に倒れ、落下する力をそのままに

追加で同じ場所に体重を掛けた衝撃を与えようとしていたのだが


気付けば『あ!コラ!駄目じゃないか!』と

ユーニに軽々と両手で腰を掴まれ、私は捕獲されていた。


「え?嘘だろ?こんな横槍の入れ方されたのは初めてだ」

私はユーニに捕獲され

瞬時に腰をガッツリホールドされ直した事に唖然とし、静かになり


私の手首を掴んできた騎士が、私に声を掛けてきた時点では

楽しそうに、面白い物を見付けた様にざわついていた場の空気が

シ~ンと静まり返っている事に漸く気付き

「ヤバイ」と思い、少しばかり焦りを感じた。


私は年齢差も身長差も、殆ど無いユーニに軽々と捕獲されたまま

『フロースってば、獰猛な野生動物じゃないんだから

ちょっかい掛けられたくらいで人様に襲い掛かっちゃ駄目だろ』と

優しい表情で言われてしまい


私は、腹立たしさと動揺と焦りを自分の中に無理矢理に抑え込み

ユーニに向かって『は?ざけんな!誰が野生動物だよ!』と

不機嫌に言う事くらいしかできなかった。


私とユーニ、仰向けに倒れた騎士を中心にして人が集まり出した


最近、私が忘れがちな事なのだが・・・

ユーニが、この国の第一皇子である事

この国的に凄く有名人だった事、ユーニの側で揉め事起こすと

普段の5倍以上、目立ってしまう事を実感する。


人混みの中から、ユーニをフルネームで呼ぶ

体格の良い、見るからに粗野で乱暴そうなイケメン

明らかに堅気で無さそうな感じの「おっさん」が

男装の美人さんを引き連れて、人だかりの中から現れた


私には何となくその「おっさん」に、見覚えが有る様な気がした

私はセププライの記憶を検索する

「ウーニの同級生のボス猿」

「大嫌い!何でウーニと友達なのかが意味不明」と、言う

詳しくない微妙な情報が検索されて出てきた。


ユーニは嬉しそうな顔をして『隊長!』と、彼を呼び

軽やかな足取りで私を抱えたまま、そのまま私を引き摺りながら

彼のいる方向に駆け寄って行く


それにしてもだ・・・

「あの人の名前…流石にボス猿では無いよな?」

私は再度、セププライの記憶にアクセスしたが…

それ以上の情報は出て来る様子が無かった。


まだ、それ等に関する記憶の夢を

私が見ていない可能性が無い事は無かったのだが


「もしかして、情報として引き継ぐのも嫌なくらい嫌いだから

なぁ~んて落ちは無いよな?」

私的に前世のセププライに対する疑心が発生してくる


「まさか…いや、記憶から消せる程に嫌いになるって

どんな嫌いになり方だよ」

私は自問自答の末


彼を完全に避けて生きていくか、もしくは…

近付き過ぎない様に、彼とは一定の距離を置いて

ユーニを通してだけの関係性で付き合っていくかを悩み…

面倒臭くなってしまって、事の次第に任せる事にした。

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