001[Prologue 過去夢日記と過去の私と今の私]
[Prologue 過去夢日記と過去の私と今の私]
流れる走馬灯・・・
死ぬまで抱え続けた「日常的な孤独」と
本物を誰からも貰えなくて、偽物と区別がつかなくて
「本物だ」と、私が勘違いしてしまっていた
彼から貰った・・・
「偽装された愛情」と、それから生まれた「温かい記憶と思い出」
そして最期に、破壊力抜群な「絶望」・・・
抱締められた彼の腕の中で、私が体験した
体を振動させる程の大きな衝撃、痛みより先行する温度
背中から胸へと続く燃えるような熱さと、胸を貫く冷たい塊
その私の胸を貫いている物体の正体に、私が気付いたのは
随分経ってからの事だった気がする
私はウンザリしながら溜息を吐きつつ
今日も夢の中で、私ではない「過去に殺された私」を
黙って静かに見守っていた。
嫌でも再生される前世の私の記憶・・・
私を強く抱締める彼の腕の中
視界の端に彼の金髪と、楽しげに笑う彼の友人達が映り込む
『ごめん…でも、こうするしか仕方がなかったんだ』
耳元で囁かれる、溜息交じりの彼の言葉
周囲からは・・・
『おめでとう!ウーニウェルスム王子!コレで…
醜い女から解放されて、美しい隣国の姫を嫁に出来ますな!』との
彼への祝福の言葉
彼は口の端を上げ『そうだな…』と一度、周囲に向け笑い
私の背中に突き立てた剣から、右手を放し…
私の肩を持って、自分の胸から私を引き剥がす
それから、私に理解できるようにゆっくりと
『今まで、ありがとう』と言って
私に対して、その綺麗な顔立ちで優しく微笑み掛けてくれた。
何故か、彼の若草色の瞳は潤んでいた
私は、言葉の意味が分からないまま視線を落とす
そして見付けたのは、血に染まる彼の胸
私の左胸から水平に生えた切っ先が
彼の胸元をも確実に傷付けてしまっているのが見えた。
事を理解する前に、喉の奥から込上げてくる温かい液体
私は彼の目の前で噎せ、咳き込んで吐血を撒き散らす
私から失われていく体温の一つの形、吐き出すしかなかった血液が
体に戻る事は無く廃棄され、胸元からも垂れ流されている
寒い時期でもないのに凍え、総ての部分が震える様になっていく体
冷たくなって痺れて動かなくなっていく手足
私は立っていられなくなって崩れる様に倒れ込み、彼に支えられ
私を包む温かい彼の腕の中で、最期の深い眠りに就いた。
夜が明け始め、空が白み始める
私は物心付く前から毎朝、涙を流しながら目を覚ましている
でも、それが毎日過ぎて
涙の理由は、とっくの昔に忘れてしまっているのが現状だ
私は一度、長く伸びてきた自分の紅茶色の赤毛を掻き上げ
上半身をゆっくり起こして体を伸ばす
欠伸をしながら、ベットからサイドテーブルに手を伸ばして
サイドテーブルの上に準備した薄汚れた紙に、薄墨を付けたペンで
今、見ていた夢の内容を憶えている限り
今の私の周囲の者が読めなさそうな、外国の言葉で書き込んだ
この行為は、この肉体に前世で勉強した知識や情報を
今の自分の使える素材として、定着させる近道だった
夢から得た情報や知識、総てが私の武器になる
勉強に費やす時間も、御金も無駄にしたくない私には
嫌な夢と引き換えでも、コレはアリガタイ恩恵だった。
前世の私らしき、金髪碧眼の女性の意識が遠退き
感情の無い情報へと切り替わる
切り替わると同時に、今世の私が完全に覚醒する
宗教的に誉れとされる女神の所有物である刻印を
左頬に持って生まれた、前世の私「セププライ」
宗教を忌み嫌う父親であった国王の命令で
頬の肉の一部分を道連れに、焼き鏝を使って刻印を焼き剥された
左頬に「醜い傷痕」を持った、セププライが殺されて
「18年近く」が経過していた。
前世の私が国王を殺し
ウーニに国王の生首を引き渡して革命が成功して
後に、私がウーニに殺された9ヵ月後・・・
今の私が産みの母を殺して生まれ、秘匿の存在として生を受け
「娼館の主の愛人の娘が産んだ孫娘」
今世の母親の名を受け継ぎ「フローリス」になって今日で
取敢えず「16年目」となった
そう、とうとう…前世の私が、革命軍に参加した年齢に
今世の私の年齢が達したのである。
私は感慨深く、前の私の過去を振り返る
あの頃の私は・・・
今思うと、自分でも恥ずかしくなるくらいに「無智」で
「愚か」で「夢見がちな乙女」だったのではなかろうか?
「彼が…ウーニが、私の事を愛してくれている」と言う
勘違いの元・・・
私は、当時の国王である父親を犠牲にできてしまう程に
彼の事を本当に大好きだった、それが「悲劇」の始まりであろう。
幼馴染で私の婚約者候補だった、従兄のウーニウェルスムの
『僕が18歳になって、君と結婚できるようになるまで
社交界って名前の品評会には、参加しないでね』と、言う
「私に対する独占欲を感じさせる彼の言葉」に騙され
ウーニに散々気を持たされて
ウーニの『2人の未来の為に』って言葉を信じて
16歳でウーニに自分の総てを捧げ、革命軍に参加して
私は「私とウーニ、2人の未来の為に国王を…」
自分の父親を殺した。
でも、その後・・・
ウーニとの関係は進展する事無く
その革命を率いていた男の息子である21歳になったウーニに
20歳になった、私自身が殺されてしまったのだから
ウーニウェルスムの
『18歳になって、君と結婚できるようになるまで』
って台詞が、何の意味も持たなかった事は言うまでも無い
私は「前世の私」の事を思い、夢日記を眺め
「今世は、身の丈に合った恋愛がしたいなぁ~」何て事を思った。
そう!寝起きには、毎回そう思うのだが…しかし!
今の私は、娼館の主の愛人の娘が産んだ「娼館の主の孫娘」
身の回りには、ちょっぴり歪んだ「恋とか、愛とか」多過ぎて
そんな恋愛に参加もしてないのに・・・
悪食し過ぎて、胃もたれしたみたいな感じで
触手が動かなかったりする。
因みに・・・
娼館で行われる接待や営業活動は総てがエロイ訳ではない
「娼婦・男娼」と言っても「売り専」ばかりでは無いのだ
一芸を売り、酒を酌み交わし、楽しい宴の時間を共有する
「春を売らない者達」も存在するので
ど~ぞ、温かく…それなりに見守ってやって欲しい
余談だが、類似品として・・・
出資額の多いパトロンを抱えた「芸術家・歌手・俳優」
何て存在もいる
此方にも「売りを専門とする者」と
「春売りはせずに一芸だけを売る者」がいる事も
忘れないでやって欲しい。
なぁ~んて補足の話は、此処に放置しておく事にして
今の私、今世の私、現在の私の事へと続く
私が今、住んでいる場所は劇場や美術館の立ち並ぶ場所の裏通り
更に詳しく説明すると・・・
美術館の裏通り「静かで高級感溢れる場所」には
祖父の正妻一族や
出資額の多いパトロンに囲われた者達の住居があって
道を挟んだ向かい側にある劇場、その裏通りには
「花街」と「一夜限りの宿屋」、その界隈で働く人の住処がある
そしてソチラ側な、ちょっと如何わしい場所に
私と、今世での私の祖母の家・・・
1階が、昼は「カフェ」夜は「飲み屋」で
時々、2階より上の階が・・・
年中無休24時間営業の「短時間専用の貸し部屋」な
「アーレア・フローリブス・コンシタ」って、店があった。
私はそこで「男として育てられ」今も、男で通している
私が「女」で「フローリス」と言う名前なのを知っているのは
「祖父」と、私の母親の出産を手伝った「祖母」
出生届を受理した「祖父の親友の司祭様」だけである。
この国では・・・
王族の血を引いていないと現れない
「女神の加護を示す刻印」と言う、女体の肉体に現れる痣が存在し
現在、王命により「その存在」を捜し求められている
困った事に・・・
今世の母親の御相手様が王族の血を引いていたらしく
そう言う血筋で無いと現れない女神の加護を示す刻印が
私の「右内腿・足の付け根近く」に存在していた
コレが国にバレルと「血筋」を調べられる
だが「私の素性が公になったら不味い」のである
これは、「気性が荒く恐ろしい妻」を持つ「祖父を護る」為の
「裏工作」だったりする。
「フォーンス」と言う名の娼館の主人に、愛人は存在しない
愛人が存在しないのだから
愛人の娘が産んだ娘なんて、存在する筈がない
だがら、私の素性がバレルとヤバイのである
私は寝間着を脱ぎ捨て、性別がバレル可能性のある
それなりに育った胸を隠す為に寝る時にも緩めて着込んでいる
ベスト仕様のコルセットの紐を引き締めて
シャツの上にベストを着込み、男物の服に身を包んでから
3階建ての建物の3階より上にある
私だけが住む、屋根裏部屋な自室を後にした。
ルビを外したくなった為、序に余談を追加してみました。
w本篇と関係が有る様で無い御話w
今は販売されていない御様子ですが・・・
ベスト仕様のコルセットは、使いやすかったです。
靴紐の様な紐の掛け方をするので
隙間から中が見えてしまうのが難点ですが…
胸板を平らに見せる為の、道着に使う様な硬い綿の布地に対し
鎖骨から背中に掛けての硬く伸縮性のある素材と
脇肉部分を支える・・・
同じく伸縮性があり、それより柔らかめの素材に支えられ
私の記憶では、胸無しのラインが綺麗に出ていたと思います。
因みに・・・
「S・M・L」の大きなサイズ定義の物では無く
1cm単位でのサイズ定義の物を利用し
少し大きめのサイズの服で肩幅を誤魔化して
腰のラインを誤魔化す為に、ベストは長めの物を着用すると
性別が迷子になりやすいと自負しています。