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9.復興――5

「――それではファリスさん、この内容の伝達をお願いします」

「俺はアナウンス要員かって。……あー、我が忠実な眷属共。聞こえてるな?」


 徹夜で作り上げたシフトと作業内容を読み上げた俺は思わず机に突っ伏す。

 最初に魔族を集めた更地を作った時くらい場が馴染んでいないと人間に呼びかけることはできないから眷属経由だが、それでも割と消耗する。疲労が蓄積された今なら尚更だ。

 床で寝息立ててるメーゼが羨ましい。

 なんで俺こんなことしてんだろ……。


「ひとまず、次に問題が持ち上がるまでは休憩です」

「その休憩……作業の合間に挟めなかったのか……?」

「この街、この国に残っているのは逃げることもできなかったような既に限界の民たちです。彼らには一刻の猶予もありません」

「うぐ……」


 そう言われると、良いヒトとしては言い返せない。

 もう善人やるの辞めようかな……。

 いや、面倒なのはこれが最初で最後なんだ。

 あと少しだけ踏ん張れば……! でも今は何より眠――。


「ンぁ……おはよー」

「燃やすぞ」

「……私が……」

「リフィス、やっぱり待て」


 ゆらりと立ち上がったリフィスを座らせる。

 そういえばそろそろ食料も切れる頃だ。

 このチビ(メーゼ)がなんとかしてくれないと、休む間もなく買い物が……!


「おいメーゼ」

「ナ、ナンだい?」

「お前が今居るのはスタグバール跡地だ。ここで安定して得られる食い物を用意しろ。今すぐにだ」

「えっと……材料とかはあるノかナ?」

「案内してやる。行くぞ」

「うわっ?」


 メーゼを小脇に抱えて宝物庫までダッシュ。

 早く休む為なら労力は惜しまない。


「これはこれは……。後はベースニする作物ノ種と少しノ市販薬があれば十分だナ」


 早く休む為なら……。

 ああ、うん。分かってた。言葉通りに今すぐってのが無理なことぐらい。


「そうだネ、適当ナ部屋を一つ貸してくれるとありがたいナ」

「構わねーよ別に! 魔力的にはまだまだ動けるし! 買い物メモでも何でも持って来いやぁああッ!」

「き、キみ……大丈夫かい?」


 その日のお使いには炎将の全力を注いだ。もちろん偽装的に問題ない範囲で。


「……これで良いんだな?」

「あ、ああ! ホんトニお疲れ様!」

「もうマジ無理……寝よ……」

「ファリスーー!?」


 メーゼの声も遠く、俺はその場で眠りに落ちた。



「ファリス!」

「なんだ」

「早っ!?」

「いや、自分で起こしといて驚くなよ」


 目を開けると、俺の身体を揺すろうとしていたメーゼが身を引いた。

 寝てたとはいえ意識くらいある。

 ここは……仮眠室か。

 よし、一休みしてだいぶ回復した。仕事しご――違う! 本物の仕事馬鹿なんかになってたまるか!


「それで、何か用か?」

「ああ。一つ出資者ノ意向を確認したくてネ」

「言ってみろ」

「魔境と秘境ナらどっちが良いかナ?」

「あー、リフィス。ラネル。ラナ。体力と精神力は大丈夫か? 改めて幾つか確認するぞ、執務室に集合」


 緊急招集も已む無しだったと思う。

 そういえば狂科学者相手にまだ首輪も無しだったしな。


「さて、今回確かめておきたいのはコイツ(メーゼ)の扱いだ。俺の名前も知ってたし、自己紹介は互いに済んでるってことで良いな?」

「はい」

「じゃあコイツの開発を援助するにあたって、守らせるルールを決める。第一はこの国(スタグバール)の人間と俺の眷属に危害を加えないことだ」

「では第二に、開発の際は僕たち四人の誰かの許可を得てください。僕たちの方でも、メーゼの開発に関する情報は可能な限り共有しておきましょう」

「んー……ルールってもこの程度で十分か?」

「あ、少し追加します。許可なく建物等の環境を改変しない事、私たち四人の裁量でこれらの規則に例外を認める場合もある事……など、どうでしょうか」

「そうだな、良いと思う。リフィスは何かあるか?」

「……リファーヴァ――」

「よし、一応はこれで決定だな!」

「ぼクは気ニしナいけどさ。それ(、、)隠すつもりナら、美人サンも人化した方が良いンじゃナいかナ?」

「――あ」

「……リフィス、これから普段は人化して過ごせ」

「…………」


 …………言われて初めて気づいたという失態。

 俺もコイツらも、馬鹿じゃないはずだが……ここ数日は修羅場と呼ぶのも温い地獄だったからな。

 些細なミスで優秀(かもしれない)駒を無くすところだったと考えると、今後はホント気を付けないと。

 人化したリフィスはほとんど外見変わらないな。狐耳と尻尾が無くなったくらいだ。


「それより話を戻すよ。改めて魔境と秘境、どっちが好みかナ?」

「一応……詳しく聞いてみようか」


 メーゼが嬉々として語った案をまとめるとこうだ。

 魔境にすると、この街は野菜と果物の森に埋もれることになる。

 秘境にすると、この街には疑似的な自我を持って自ら食われる為に成長する植物が闊歩するようになる。

 それを聞いた俺たちの反応は決まっていた。

 四人で視線を交わし、同時に口を開く。


「「「両方却下」」」

「そンナ!?」

「当たり前だバカ」


 暴走や事故の可能性を考えていないのか。

 そもそもルール決める時に環境の改変は禁止しただろ。

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