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88.魔界――2

「――そろそろだな」

「……という事は、アレが?」

「ああ。あの山のふもとにあるのが魔王の根城だ」

「そこは頂上じゃないのか」

「実際そんなところに城建てたって不便だからな」

「それは分かるが……」


 ユイはどこか釈然としない様子で首を捻るが、もう誰も攻め込んでくる事もない魔王城を出入りしづらい場所に建てる意味はない。

 もちろんグナルゴス(魔王)は普通に飛べるが、山を降りる時はともかく上る時はそれでも面倒だしな。


「あの山には、なにか意味があるのですか?」


 ふとレミナが声を上げた。

 別に俺が答えてもいいが、俺はガイドでもなんでもない。

 アズールに視線で丸投げすると、元水将はため息交じりに口を開いた。


「……どうしてそう思った?」

「きっかけは先ほどのリフィスさんのお話です。ここまでの地形を見ると、魔界(エスルグム)の大地は地上界(カーキエス)を反転させたもののように見えましたが……門を開いた聖山(ダグラット)は地上界で最も高い山です。それに対応するこちら側の山も高度は同じくらいでした。なら、ダグラット以上の標高を持つ地上界には存在しない山には何か理由があるのではないかと」

「……お前の予想はほとんど正しい。だが、あの山にそこまで大層な由来はない」


 一息に言い切ったレミナに対し、アズールは小さく首を横に振る。

 俺も知識を漁ってみるが、ゲームでも別にあの山に特殊な設定は無かったはずだ。

 俺が炎龍の操縦に意識を戻す横でアズールは簡潔に説明を続ける。


「あの山は魔王城の目印としてグナルゴスが作ったものだ。それ以外には、奴の力を示すシンボル程度の意味しかない」

「あの山を、魔王が……」

「とはいえ単に地面を引き上げただけだ。それも数度に分けて。中級魔族からすれば力の差を知るには十分だが、例えば地将(ベザンドゥーグ)あたりでも似たような事は出来る」

「納得したか? それじゃそろそろ仕掛けるぞ」


 ちょうどアズールの説明が一段落したところで炎龍の高度を下げると、後ろでユイが怪訝そうな声を上げた。


「待て、少し離れすぎていないか?」

「問題ない。これくらいなら届く」

「届くって――おい! まさかもうそれ(Eマガジン)を使うのか!?」

「ああ。誰がわざわざ正面から出向くってんだ。まずは城ごと吹き飛ばしてやるぜ!」


 生成した炎銃にE(エレメンタル)マガジンをセット。

 この初撃で城を消し飛ばし、ついでに魔王も仕留める必要がある。

 弾は……俺とエマの合成魔法を使うか。

 数百mほど離れた城へ照準を合わせ、引き金を引く。


 ――名付けるなら「滅撃の焔劔(グラム)」。

 火山の噴火にも優る灼熱は全てを吹き飛ばす暴風と混ざり合い、何物をも逃さない紅蓮の奔流となって直進。

 無難なデザインの城を呑みこみ、そのまま背後の山まで突き抜けた。


「っ……」


 後ろで誰かが息を呑む中、消し炭となった城がボロボロと崩れ落ちる。

 僅かに遅れ、土台部分を大きく抉り取られた山が鈍い音を立ててへし折れた。


「これで終わりならいいんだけどね」

「まさか。それなら誰も苦労しない」


 ユイは否定したが、ジールの軽口は俺たちの総意だったと思う。

 まぁ、それが叶わない事も全員が理解していたが。


 炎龍に乗って飛んでいる俺たちが直接に感じる事は無かったが、直後否が応にも現実を現実を突きつけられる事になる。

 それは山の崩壊とは異なる地鳴り。

 やがて大地が怯えるような揺れが最高潮に達した時、瘴気よりなお禍々しい膨大な魔力が場を支配した。

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