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86.聖山ダグラット――4

 エルハリスから適当に離れたところで俺とアズールが移動用の龍を生成。リフィスやキィリたち元々俺と行動していた面子は炎龍に、ユイたち勇者一行は水龍に乗り込む。

 空路で向かう先は、以前地将(ベザンドゥーグ)が居座っていた山ダグラット。

 あそこならベザンドゥーグの魔力の残滓もある分門がより安定するし、適度に人里を離れているおかげで何かあっても被害を抑えやすい。

 レミナ曰く信仰の対象である聖山に魔界(エスルグム)と繋がる門を開くってのも皮肉な話だが、わざわざ誰とも知らない宗教家に気を遣う必要もない。


「――おい、ファリス」

「ん? ……ああ、分かってるって」


 向こうの水龍からユイに促され、改めて全員に対して口を開く。

 話すのは二つ。

 「セグリア・サガ」における魔王グナルゴスのステータスと、実際に魔界に乗り込んだ後の行動方針についてだ。

 そういえばリフィスやユイに尋ねられた時に教えたので説明を済ませたつもりになっていたが、こうしてきちんと伝えた事は無かったしな。


 そういうわけで既に何度か繰り返した説明という事もあり、ダグラットに向かうまでの時間で余裕を持って話を済ませる事が出来た。

 そして目的地へ到着。

 かつては峻厳で知られていたらしい山頂は、以前訪れた時と変わらずちょっとした広間のように平たく広がっている。


「ほら、とっとと剣を寄越せよ」

「言われなくとも」


 あっさり投げ渡された聖剣をキャッチし、山頂の中央へ進み出る。

 このまま飛んでどこかへ行ってやろうという悪戯心が首をもたげたが、遊んでられるほどの余裕があるとも限らない。

 おとなしく剣を足元に突き刺し、両手を翳して魔力を注ぎ込む。

 つっかえるような抵抗はすぐに無くなり、一度生じた流れに乗って魔力は滞りなく聖剣へと吸い込まれていった。


「成功だな。次で失敗してちゃ話にならねぇぞ」

「だから問題ないと言っている。……多分」


 ぼそりと付け加えられた語尾に突っ込みを入れたい気持ちを抑えつつ、アズールと入れ替わりにその場を離れる。

 さっきの俺と同じように剣へ魔力を注ぎ込むアズール。

 そのままの状態で時は流れた。


「……おい、あれってマジで大丈夫なのか?」

「今のところ経過は順調だな。お前の時も似たようなものだったぞ」

「なんだと?」


 魔力感知については専門外だ。

 知覚にいたユイに尋ねると、返ってきたのは意外な言葉。

 魔力の注入はスムーズに進んだように感じていたが、どうやら実際にはそこそこの時間がかかっていたらしい。

 やがて俺が暇を持て余してきた頃、アズールはようやく聖剣から手をどけた。


「……待たせたな。魔力は無事に込め終えた」

「その割には何も起きてないけど?」

「あー、それはアレだ。試しに本来の持ち主が持ってみろ」

「分かった」


 頷いたユイの元に聖剣は戻る。

 そのまま少し歩き回ったユイは山頂の端……切り立った崖っぷちで足を止め、ゆっくりと聖剣を振りかぶる。


「ふッ……」


 短い呼気と共に一閃。

 空間に残った傷跡のような軌跡から漏れだすのは魔界特有の瘴気。

 それは徐々に空間を蝕み面積を拡大していく。


「これって……ちゃんと止まるんでしょうか?」

「俺の知る限りじゃそっち方面で問題は持ち上がらないはずだが……駄目なら駄目で魔王討伐がタイムアタックになるだけだ」


 レミナが不安そうな声を上げるも、それから少しして門の拡大は止まった。

 見れば瘴気と相反する白い光が門を縁取り輝いている。


「……どうやら聖剣が何らかのリミッターとして働いたようですね」

「これで時間の心配はいらなくなったな」

「ああ。では、行くとするか」


 万が一門が機能しなければ地上まで真っ逆さまだってのに躊躇なく踏み出すユイ。

 ま、落ちたって飛べるから問題ないんだが……その姿は問題なく門の向こう側に消える。

 俺たちも勇者に続き、揃って魔界へと足を踏み入れた。

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