83.エルハリス――24
それから数日後。
残る魔法も順調に込め終わり、今はリフィスたちが量産に成功した例の焔武器の扱いを練習している。
量産とは言っても実際は仲間に行き渡る分だけだが。
ちなみにこの武器、思い出すだけで頭が痛くなるような協議を経て「炎将の御手」という名称に落ち着いた。
名前はさておき、魔力を大量に含んだ四天王の身体を素材にしただけあってその性能は高い。
力を十分には取り戻せなかったアズールと違って俺は最初から完全体だしな。
そういうわけで、この焔武器は完成すると同時にこれまで使っていた得物と取って代わる事になった。
ユイやシド、ジールもサブウェポンとして持っておくらしい。
形状を自在に変えられるこれは実際、武器以外の用法でも役立つだろう。
……この数日で何度腕を切り落とす事になったかは敢えて考えない事にする。
「――おい、ファリス」
「なんだ?」
「Eマガジンには魔法を込め終えたし、皆もバンダースナッチの扱いに慣れてきた。他に何か、魔王との戦いに向けて備える事はあるか?」
「特に無いな。明日一日休んだら、もう魔界に乗り込んでいいだろ」
「そうか。……で?」
「で?」
「この段に至ってまだ魔界へ向かう手段を知らされていないのはどういう事だ?」
「あぁ、それか」
そういえば具体的な方法はまだ伝えていなかったか。
ユイの質問に勿体つけて頷き、焔武器を振るっていたアズールを手招きする。
「何か用か」
「魔界への行き方の説明、任せた」
「…………。分かった」
わざわざ話すのが面倒だったから丸投げする。
アズールは何か言いたそうな目をしたが、結局おとなしく説明する事を選んだ。
「……四天王の魔力を一つ所に集める事で、この地上界と魔界を繋ぐ門を生み出す事が出来る。本来は魔王がこちら側へ侵攻する為の手段だがな」
「集めるって言うと……」
「ああ。その聖剣が器になる」
「後は俺とアズールがその剣に魔力を注いでやればいいわけだ。ま、アズールの魔力が機能するかは微妙だが」
「開かなければどうするつもりだ?」
横から口を挟むと、ユイは少し不安そうな顔をした。
四天王としてのアズールの復活は不完全だった事を思い出したのだろう。
「……魔力の質が変わったわけではない、問題はないはずだ。それより、門を開く時は町の外に出る事を勧める。魔界と通じる事になるのだからな」
「ああ、分かっている。では皆にも伝えてくるとしよう」
そう言ってユイは訓練しているリフィスたちのところへ向かう。
特に異論を唱える者もなく、出発は明後日に決まった。
そして翌日。
俺は特にする事もなく部屋のベッドに転がっていた。
身体が鈍らないよう一通りの鍛錬は済ませたし諸々の確認も終えた今、するべき事は何も無い。
何度目かになる明日のシミュレーションをしていると、静かなノックの音が響いた。
「リフィスか。開いてるぞ」
「失礼します」
部屋に入って来たのはリフィス一人。
もうだいぶ長い付き合いになる忠臣は、いつになく緊張した様子で俺の前に立つ。
「ファリス様……魔界へ向かうのは、明日なのですよね?」
「アズールの奴がヘマしない限りはそうだな」
「ファリス様の知識では、現状の戦力での勝機は……如何ほどのものでしょうか」
「心配しなくても勝算無しに突っ込みやしねぇよ。下手すりゃ用意した魔法ぶっ放すだけで終わる」
「そう……ですか」
あながち冗談でもないんだが、楽観的な予測に聞こえても仕方ないか。
なおも浮かない様子だったリフィスは、やがて何かを決意した表情で口を開く。
「……お護り致します。この命に代えても」
「このタイミングでそういうのはやめとけ、死亡フラグが立つぞ」
不吉な言葉を茶化して返す。
死相は……見えないな。
とはいえこの能力も的中しやすい占い程度のもの、まだ油断はできない。
これからもコイツには補佐してもらわないと困るんだ。
どうやら俺こそリフィスが無茶しないように立ち回らないといけないらしい。




