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82.エルハリス――23

 完全に倒れたリフィスの意識が回復するのを待って魔法の合成は行われた。

 いきなり感極まったリフィスの魔力が暴走しかける一幕もあったが、結果から言えば合成は無事に成功。

 今は長椅子に座った俺を左右からエマと二人で挟む形で寝ている。

 身動きが取れねぇ……。


「両手に花という奴か」

「放っとけ」

「それにしてもこの三人が揃ってダウンしているとは珍しい絵面だな」

「弾込めを纏めて済ませたんだから仕方ねーだろ。何かあったらお前が守れよ」


 からかうような声に言い返すと、ユイは一瞬呆気にとられたような表情を見せた。


「…………。まぁ、それも悪くは無いが。私も今のうちに魔法を込めておこうと思う。万が一の時にはシドたちに頼るとしよう」


 そう言ったユイの傍には、訓練を切り上げて戻ってきたキィリたちの姿。

 メーゼからE(エレメンタル)マガジンを受け取ると、ユイは少し離れた場所に移動する。


「今この場は俺の魔力に染まり切ってるがいいのか?」

「その理由で二の足を踏んでいてはいつまで経っても魔法を込められないだろう。それにどうせ次はお前の魔法と合成するんだ、寧ろこの段階で少しは馴染ませておいた方が都合もいい」

「なら好きにすればいいさ」

「ああ、そうさせてもらう。……ところで、私には無理をするなとは言わないんだな」

「どうせお前も聞く耳持たねぇんだろ? 一日に三度も無意味な事を繰り返す趣味は無ぇ」

「ふっ、妥当な判断だ」


 ……無理するってところは否定しないのか、やっぱり。

 この長椅子ももう満席だぞ?

 そんな風に考えている俺の前で、ユイはゆっくりと剣を抜いた。


「『纏輝功(グロリアス)』『天威聖装(ヘヴンズブレス)』」


 強力な支援(バフ)効果を持つ光が勇者の身体を包み、込められた魔力に反応した刃がその中で更に一段と強い輝きを放つ。

 この魔力……聖属性か。

 確かに魔族の親玉である魔王(グナルゴス)には効果覿面だろう。

 だが……。


「――『神醒撃(ディヴァインフォース)』!」


 放たれたのは地将最大の攻撃を正面から斬り伏せた一撃であり、数日前は俺さえ消し飛ばした光の斬撃。

 確かに優れた技だが、リフィスやエマが十全の溜めを経て放った魔法に比べれば威力は劣る。

 使いやすい技なんだしそれはEマガジンに込めるより戦いになったとき普通に使え……と言おうとした時、ユイは更に動いた。


「まだまだ――!」


 一度に留まらず二度、三度と聖剣を振るう。

 そのたびに放たれる重厚な斬撃は一つに合わさりその威力を飛躍的に増大させる。

 感じ取れる魔力は先に目にしたリフィスたちの魔法にも引けを取らないものとなっていた。


「ラスト……『真羅烈閃(ハイペリオン)』ッ!!」

「っ――!」


 そして連撃の最後を飾ったのは、全てを塗り潰すような純白の一閃。

 ……俺の知る限り、勇者の扱える最強の単体攻撃。

 習得していたのか。


「ふぅ……」


 大きく息をついたユイは剣を収める余裕もなくぺたりと座り込む。

 その身に纏っていた補助魔法も消え失せ、全力を出し切ったのは見れば明らかだ。


「その技、いつの間に?」

「昨日……練習していたら、一回だけ成功した」

「なんだって?」


 当然だが、この世界はゲームみたいに一度使っただけで技をものに出来るほど温くない。

 一度完全に感覚を掴めば失敗する事は格段に減るが、一回成功しただけなんて精度ではマグレもいいところだ。


「随分と思い切ったもんだな。失敗したらどうするつもりだったんだ?」

「成功させるさ……それが必要な場面ならな。私は……勇者だから」


 息も絶え絶えな有様で大層な自信だな。

 呆れた視線だけ返すと、ユイは座り込んでいる事もできなくなったのかパタリとその場に身体を倒した。

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