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81.エルハリス――22

「さ、次は――」

「お待ちください」

「わきゃぁっ!?」


 唐突に背後から声を掛けられたメーゼが心底驚いたように飛び上がる。

 声の主はリフィス。

 あまりの速さに俺も驚いたが……あのメーゼが不意に声を掛けられただけでここまで驚くとは。

 そのリフィスはと言うと相当急いで駆け付けたらしく、人化も解けて息を荒げている。


「どうした、リフィス。緊急か?」

「いえ……ただ、突然第六感が警鐘を鳴らしたもので。こちらでは何かありましたか?」

「少なくともまだそんな面倒は起きちゃいねぇな。精々E(マガジン)に込めた魔法を合成したくらいだ」

「……時に、合成というのはどのような組み合わせで……?」

「俺が込めた炎とエマの風だが、それがどうかしたか?」


 そう伝えると、リフィスはやけに深刻な顔をして黙りこくった。

 ……これはもしかしてアレか。

 リフィスが時々陥る謎の暴走状態なのか。

 なら、今は放置して話を進めるとしよう。


「……あー、メーゼ」

「な、ナんだい?」

「今の魔法を合成するのに使ったヤツってのは連続して使えるもんなのか?」

「ちょっと待ってネ。…………うん、大丈夫。幾らでも使えるよ」

「チェック速ぇな。まぁいい、それなら今日やれる分は済ませちまうとするか」

「ああ、いいだろ――」

「――お待ちを」


 頷こうとしたユイにリフィスがストップをかける。

 いつの間に復活してたんだ?

 そんな疑問はよそに、忠臣は俺へにじり寄ってきた。

 思わず俺が一歩下がればリフィスは二歩進み、距離はあっという間に詰められる。


「……相手がエマ殿ならば、初めてを逃した事は受け入れましょう」

「お、おう」

「しかし!」

「っ!?」


 カッと目を見開いたリフィスに気圧されて更に下がるも、相手も踏み込んだ為に距離が広がる事は無かった。むしろ結果的には縮んだ。

 もし俺が下がらなかったらどうなってたんだコレ?

 鼻先が触れ合いそうな至近距離でリフィスは言葉を続ける。


「……次の順番は、譲れません」

「そ、そうか」


 すっと離れたリフィスはEマガジンを手に取る。

 その身体からバチバチと散る火花を見れば、込めようとしている魔法が雷属性なのは容易に分かった。


「…………」

「ファリス、平気か?」

「べ、別にあの程度なんともねぇし」


 ユイのからかうでもなく普通に心配そうな表情にしかめっ面で応える。

 違う、考えてたのはそこじゃない。

 確か水将(アズルムイト)との戦闘で俺が死んだフリをした時の事……リフィスが垣間見せた、俺も知らない力の一端。


 ……そう。俺の知識にも無い力だ。

 「セグリア・サガ」にはリフィスにあんな力があるなんて設定は存在しなかった。

 他の前世知識に当てはめるなら暴走ってところか。

 その手の力は使いこなせれば強力無比なのが定番だが……あの力は、触れてはならない。そんな気がする。

 発生すればバッドエンド直行のイベントだってあるんだ。ここは俺自身の勘を信じて忘れる事にしよう。


「――其は天地砕く執行者、断罪の鉄槌、最も(まばゆ)きもの。我と主の名のもとに、汝が業を束ね至上の一矢と為す! 『天原淘汰(カタストロフ)』!!」


 元より場の魔力は俺に馴染んでいたし、眷属の中でも特に付き合いの長いリフィスにとっても相性は抜群。

 だから前準備が無い事には何の問題も無いのだが、何せ様子が違い過ぎた。これまで魔法を込めた誰より余波が激しい。

 荒れ狂う電撃はリフィスの姿を覆い隠し、ただ魔力だけが凄まじい力の奔流を感じさせる。


 やがて電撃が収まった時、そこには倒れ伏すリフィスの姿。

 確かめると脈がかなり弱くなっていて、咄嗟にありったけの魔力を流し込む。


「うっ……」

「ぐ……」


 俺自身も残りカスみたいな魔力だったが、足しにはなったらしい。

 ったく……どいつもこいつも無茶しやがって。

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