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8.復興――4

 街に入って真っ直ぐに目指したのは留置場。

 ユイたちの装備を見るにおそらく手付かずのイベント……強力な武器やアイテムを作ってくれるマッドサイエンティストがここにいるはずだ。

 ゲームでの奴は錬金から精製、生体改造まであらゆる分野に精通した狂人。

 幾つか厄介なサブイベントの元凶にもなってるが、実際にわざと他者へ危害を加えたケースは無かった。

 役に立つか見極めるだけの価値はある。


「おい」

「なんだ、何か用か?」

「ここにメーゼって奴がいるはずだ。引き取りに来た」

「おお、そうか! 助かる、少し待っていろ」


 ――あ? それで良いのか留置場?

 面倒なやり取りはゲームだから省略されてるもんだと思ってたが……幾ら厄介者を放り出したいからって、手続きも何もないじゃねぇか。色々考えた口上は無駄だってか?


「――うだい、ぼクノ薬があれば三日三晩は――」

「はいはい、そういう話は保護者とでもしてろ」


 留置場の奥から聞こえてくる声。

 ……保護者?

 衛視に連れて来られたのは……俺の知る(ゲームでの)メーゼとは、まるで別人だった。

 枯葉色のグラデーションが入った緑髪と、血痕のついた白衣は確かにメーゼの物。

 だが、奴は青白い顔をした針金のような男だったはず。何だ、この子供は?


「待たせたな。さっさと引き取ってやってくれ」

「うむ!」

「……なんでお前が頷いてんだ」


 会話からは確かにマッドサイエンティストの片鱗が窺えないこともないが……。

 とりあえず留置場を離れる。


「それで、キみが出資者(パトロン)になってくれるってことで良いのかナ?」

「俺の条件をお前が呑むならな」

「ナンだい?」

「まず拠点は此処から移してもらう。必要な物があるなら今のうちに回収するんだな」

「あー、別ニ良いよ。どうせ大したものは無いし」

「そうか。なら話は早い」


 首筋に手刀を打ち込み、力の抜けた小さな身体を肩に担いで街を出る。

 ある程度離れてから周囲に一目が無いことを確認、人化を解いて飛び立つ。

 帰りもノロノロ歩いてたんじゃ、先に国の食糧が尽きるしな。



「戻ったぞー」

「…………」

「あ、お帰りなさい」

「何処に行ってたんですか! そしてその子は!?」


 魔力感知で居場所を把握し、地図と睨めっこしながら書類を捌いていたリフィスたちに声を掛ける。

 しばらく暴れてない上に留守にしてただけあって、割と場が独立してきたな。街全体が自分の身体の延長だったかのような一体感は無くなりつつある。

 それより、三人が早速きちんと仕事しているようで何よりだ。


「喜べ、食糧問題が解決するぞ。多分」

「……それは本当ですか?」

「うおっ!?」

「ぎゃふっ」


 さっき一瞬顔を上げただけだったラナが、凄まじい速度で俺の肩を掴んだ。

 今気付いたが目が死んでて表情に生気も無い。

 反射的に燃やそうとして思い止まり……結果、腰が抜けた。

 小脇に抱えていたメーゼが床に激突して意識を取り戻したので、首元を抑えて再び気絶させる。


「それで……どういう事ナンデスカ」

「…………!」

「分かった、説明するからちょっと待て! そして俺は大丈夫だからリフィス座ってろ!」


 いよいよ幽鬼じみてきたラナから必死で距離を取り、闘志を漲らせ立ち上がったリフィスを抑える。

 リフィスは大人しく席に着いたが、いつでもラナを狙い撃てるようにしているのが視線で分かる。

 勘弁してくれって……。

 むりやり気を取り直し、メーゼを留置場から拾ってきた経緯と技術力には期待できることを説明。


「ソーデスカー」

「今ぬか喜びだと思ったな? まあ良い、他に報告はあるか?」

「それなら……街の様子には気付きましたか?」

「思ったより早く作業が進んでるみたいだな」

「不眠不休でしたからね」

「なんっ!?」

「過労死寸前の眷属に休むよう伝達してください。僕の指示だと聞いて頂けないので」

「お、おう」


 いや……ちょっと待てって……。

 確かに前の(、、)俺ならそれくらい要求したかもしれんが。

 魔力を通じて街中の眷属に休むよう伝達し、過労死とか覚悟だけで十分だと伝える。ついでに破壊中の建物も遠隔で全部バラす。後は再建だけだ。

 結果。更に眷属共の忠誠心が上がった。

 いや、既に十二分だからもう上がらないでほしいんだが……。


「これで、全部か?」

「はい。それで、貴方からは何が?」

「些細な報告程度だがな。俺は対外的には人間として振る舞うし、深く突っ込まれたら統治の混乱を抑えるために炎将の名前を利用してるってことにする」

「なるほど」

「名前はリファーヴァント()のままで――」

「待った」


 ラネルにいきなりストップを掛けられた。

 ラナとリフィスも作業の手を止めてこちらを見ている。

 やれやれ……一々説明してやらないといけないのか。

 俺は溜息を飲み込み人化する。


「人間が炎将(リファーヴァント)名乗ったって冗談でしかないだろ? 正体暴くような手段もたかが知れてるし、そもそもそんなのあったら偽名も無意味だ」

「いえ……」

「だから名前なんて正体バレる原因にはならないって」

「それは理解できるんですが。僕たちの心臓が持ちません」

「なんだよー……」

「露骨に面倒そうな顔をしないでください」

「じゃあリファ――とかだとリフィスと被るな……ファリスで。決定」

「無難なところだと思います。それでは――」

「ん?」


 目の前に山が墜ちた。書類の山が。

 見上げるとラネルの笑顔……と形容するには目が笑っていない。

 なんだコレは……どこから持ってきた?


「よし、俺は――」

「この街の住民と、仕事のリストです」

「俺は――」

「まだデータがバラバラなので、整理してください」

「…………了解」


 その日、俺たちは眠れぬ夜を過ごした。

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