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79.エルハリス――20

 さて、と……。

 ずっとこの体勢でまったりしているわけにもいかない。

 体力が回復するのを待って今度こそ身を起こす。


「ファリスさん、もう少し……」

「十分だ。それより、ここからはお前の番だぞ」

「え?」


 E(エレメンタル)マガジンを取り出し、ごく小さい火球を一発込める。

 間違っても終焉の種火(レーヴァテイン)を撃たないよう気を付けつつ空中に向かって一発。

 問題なく火球は発射され、上空で自然に消滅した。

 それを確認して今度はやや強めの火球を込め、エマに手渡す。


「弾を合成する。まずは今込めた火球に適当な風魔法の組み合わせを試してみろ」

「分かりました」

「見れば分かると思うが、『終焉の種火(レーヴァテイン)』には手ぇ出すなよ」

「は、はい」


 エマが魔法を込めたのを確認してEマガジンを受け取り、いま合成されたばかりの弾を上空に撃つ。

 銃口から放たれたのは燃え盛る灼熱の刃。

 属性の配分が良かったのか、ランク付けするなら低位がいいとこの魔法だというのに見た感じの威力は高位魔法に届くかというレベルのものだった。


「上々だな。次は本番だ。空いてるカートリッジに、今のお前が扱える最大の風魔法を込めてみろ」

「がんばりますっ」


 何故か例の焔武器……メーゼ曰く魔型可変兵装壱式を一度強く握ってから立ち上がるエマ。


「――風霊聖域コーリングシルフィード


 その瞳を魔族の証である紅に染め、俺が魔法を込める時のように風魔法で周囲の場を整える。

 傍から見ていても分かるほどの風と魔力がエマの周囲に荒れ狂うが、その余波がこちらまで伝わってくる事は無い。

 力はただ限られた領域の中でのみ逆巻き、どこまでも高められていく。


「嵐よ来たれ。我が名において災禍を招き、そして封じる。仮初の器にて一時の微睡みにその牙を研げ――『覇天嵐群(テンペスト)』っ!」


 俺の見ている前で力が一気に高まり、そして急速にEマガジンへ注ぎ込まれていく。

 それはいい。期待通りの展開だ。

 だが……。


「っ、馬鹿野郎! 加減を考えろ!」


 やり過ぎ(、、、、)だ。

 場の魔力はあっという間に底を突き、そしてエマ自身の魔力も勢いを全く衰えさせずに消費されていく。

 込める魔法の劣化もそうだが、こんなところでエマを失くすのはあまりに惜しいし馬鹿らしい。

 魔法の劣化は諦めて横から無理にでも止めようとした矢先、Eマガジンへ流れ込む魔力に奔流が唐突に途切れた。

 一拍遅れて倒れ込もうとしたエマの身体を支える。


「ファリス……さん……済みません……心配、かけちゃって……」

「ったく驚かせやがって……。確かにここは正念場だが、命賭ける程じゃねぇぞ」

「……でも……ファリスさんも、してた事ですから……」

「…………。馬鹿言え、俺とお前じゃ事情が違うんだよ」


 俺が本格的にEマガジンに魔法を込め、そして倒れたのは三回。

 第二形態で行った作業だから、一回は死なないとかいういつもの言い訳も使えない。

 その辺りの事を遠回しに責められたような気がして、少しばかり言葉に詰まった。


「ファリスさん……一つだけ、お願いを……聞いてもらえますか?」

「聞くだけならタダだな」

「その……さっきのお返しに……膝、貸してもらってもいいですか……?」

「なんだ、それだけか?」

「はい」

「そ、そうか」


 普段誰かに頼み事するなんて珍しいエマの言う事だから何かと内心身構えたのだが、その内容はよく分からないものだった。

 聞き返した時の反応だけやけに力強かったせいで少したじろいだが、それだけなら安いものだ。

 さっきまで俺が倒れてた長椅子までエマを運び、膝の上に頭が乗るようにして横たえる。

 もぞもぞと動いたエマが腰に手を回してきたせいで当分身動きが取れない形になった。

 ……いったい何だって言うんだ。

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