78.エルハリス――19
――今回は特に勿体ぶる意味もないな。
そう判断すると同時にまだ宙を舞っていた俺の首、そして残された身体が燃え上がる。
炎は瞬く間にいつもの第二形態……血色の毛皮を纏った龍へと変わる。
これにも慣れてきたおかげか、演出とかそういうの抜きにしてもスムーズに変化できるようになってきた。
「メーゼ、貴様……!」
「まぁさっキノ話はちゃんと聞いてたし、内容も分カってるケど? 必要ナらそれを為すノも研究者ノ仕事って奴だカらネー」
リフィスの険しい視線をメーゼは飄々とした様子で受け流す。
俺としては……今回はメーゼに感謝ってところか。
だが直前のユイ、リフィスの言葉も気には留めておくべきだろう。
今はそれより……。
「それくらいにしておけ。メーゼの行動は俺の意を汲んだものだ」
「……申し訳ありません」
「いや、いい。お前の言葉も考えておく」
リフィスにそう言い残し、俺は広場の隅へ。
この前魔法を込めた時の影響は未だ色濃く残っているし、すぐ作業に取り掛かれるだろう。
「――『煉獄の檻』」
行程はこれまで通り。
生み出した灼熱の檻の中で自らの存在を解き、ただひたすら焔としての力を高めていく。
込める魔法は「終焉の種火」。
魔法としての大枠は俺が扱える最大の一発に固定し、後は細部を微調整しながら火力の上限を探っていく形だ。
「っ――!」
ここばかりは前より僅かながら多めの魔力を注ぎ込み、Eマガジンに翳していた手を引く。
無茶の度合いとしては前回より上がっていたせいか、今回は倦怠感をはっきり認識するより早く意識が途切れた。
「……ん…………」
「ファリスさん!」
目を開けると、エマが俺の顔を覗き込んできた。
って、この感じは……膝枕されてるのか?
身を起こそうとすると眩暈に襲われ、添えられた手によってあっさりと元の体勢に戻されてしまう。
「ダメですよ、さっき倒れたばっかりなんだから安静にしてないと」
「別にこの体勢である意味はねぇだろ」
「だって枕も無いのに、その辺に転がしてはおけないじゃないですか」
「俺はそれで構わないんだが」
「わたしがイヤなんです」
「………………」
こうも断言されると俺もそれ以上言い返せない。
それ以上の問答は諦めて辺りの様子を探る事にする。
場所はさっきまで居たのと同じ広場。
今はその中央でキィリ、ジール、レミナとシドが三対一で戦っている。
……キィリの奴が戦ってるのを見るのは珍しいな。
状況は前衛にキィリとジールが並び、その後ろからレミナが魔法で援護するというもの。
レベルで言えば世界でも最高位の三人が相手にも関わらず、手を抜いている様子こそないものの[闘神]は危なげなく立ち回っている。
至近の二人の攻撃は最適な動きで抑え込み、時折レミナだけでなくキィリが放つ魔法については剣で斬れないものだけ見極めて最小限の動きで回避する。
いや、キィリが零距離で撃った爆発を両断するとか……張り切り過ぎだろ爺さん。
爆風に出来た僅かな隙間と自分の位置を重ねてやり過ごすなんて判断、咄嗟に思いついて実行に移せるもんじゃない。
「エマ、お前はこの戦いをどう見る?」
「そうですね……やっぱり、一番目を引くのはシドさんでしょうか。キィリさんたちを抑えながら同時にレミナさんまで牽制してるのとか、凄いと思います」
「……ほう」
シドとレミナの動きに意識を向けて見てみると、確かに基本的な攻撃は容易く対処しつつ、レミナが大技を撃つ素振りを見せるとシドは前衛二人への攻撃を苛烈にして防御に回させている。
で、レミナの方に突っ込もうとする動きが前衛二人の動きを誘導する陽動にもなっていると。
キィリたちが数の利を活かせていないわけではない。
だが、シドは多対一の状況さえ味方につけて動き……それが戦況全体の流れにまでなっている。
目の前の敵を叩き潰すだけの俺の戦いとはかけ離れているが、その有用性は理解できる。
[闘神]の戦闘を見て学ぶエマか。
まったく、頼もしい話だ。




