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77.エルハリス――18

「ん……」


 姿勢に違和感を覚えて目を開けると、そこは何故か自室の椅子。

 どうやら机に突っ伏す形で寝ていたらしい。

 何故こんな事に……と、そこまで考えたところで俺の布団を占拠しているユイ(勇者)の姿が眼に留まった。

 そこでようやく昨夜の事を思い出す。

 確かあの後、結局夜更けまでユイの話に付き合わされたんだったか。


 朝食をとりに行こうとすると、小さく呻いてユイが身を起こす。

 ぼんやりした様子で辺りを見回した勇者の視線は俺を見て止まり、直後ボッと音がしそうな勢いでその顔が真っ赤に染まった。


「なっ……お、お前、私に一体なにを……!?」

「落ち着け」

「うぐっ」


 どうやらメーゼの薬は時間切れらしい。

 取り乱すユイの額を一発軽く弾く。


「覚えてねぇのか? 昨日はお前の方から押しかけてきたんだろうが」

「そんな馬鹿な――……いや、思い出した」

「別にどうでもいいけどよ、俺は先に行ってるぞ」

「ま、待て!」

「あ?」

「私は…………済まない、なんでもない。昨日は迷惑をかけた」

「これに懲りたら……まぁ、アレだ。妙に突っ走るんじゃねぇぞ」


 特に中身も何も無い適当な言葉だけ残して今度こそ部屋を後にする。

 普段のアイツに戻ったって事は、記憶なり心情なり整理するにも少しは時間がいるだろう。


「――あ、ファリスさん」

「ファリス様、ご無事でしたか!」


 階下の食堂に降りると、先に来ていたのはエマとリフィス。

 ジールは……朝に弱いアイツの事だ、まだ寝てるんだろう。


「というかリフィス、無事も何も昨日は普通に話に付き合わされてただけだ。別に心配する事はねぇよ」

「それなら良いのですが……」


 そんな他愛のない話をしていると、レミナやキィリといった面子も次第に降りてきた。

 揃った全員が朝食も終わろうかというタイミングで外から慌ただしく駆け込んできたのはメーゼ。


「やぁおはよう、皆お揃いだネ! 早速出カケるとしようカ!」

「また変なタイミングで来やがって、お前の朝は済んでるのか?」

「当然さ。城でとっクに食べてキたよ!」


 そういうわけで、どこかテンションの高いメーゼに引っ張られるようにしていつもの広場へ。


「さて――魔力も回復した事だし、今日は俺が弾込めしようと思う。ユイ、そういうわけだから一発頼む」

「……なに?」

「だから、その聖剣で軽く消し飛ばしてくれって言ってんだよ。この姿のままじゃ力が出し切れないだろ?」

「嫌だ」

「はぁ?」


 そう説明すると、ユイはきっぱり首を横に振った。

 どこか呆れた様子で溜息をつき言葉を続ける。


「他に方法は無いのか? 分かっていても仲間を手に掛けるのは気が進まない」

「分かってるってんなら話は早いだろ? 必要な事なら自分の感傷より相手の意思と実利を優先するべきだ」

「……なら、お前が逆の立場ならどうだ? 一度殺されないと真の力が発揮できないとして、敵と戦っているわけでもない状況で私を斬れるか?」


 挑発するように言い返すも、ユイの反応は意外なものだった。

 呆れた様子はそのまま、逆に質問で返してくる。

 もし言われた通りの状況なら……。

 ………………。

 だが、屁理屈とはいえそれっぽい言葉を並べた直後に意見を翻すのも格好がつかない。


「……ああ、そりゃ斬れるさ」

「嘘だな。それは私でも分かる」

「……遺憾ながら、今回ばかりは私もそこの勇者と同じ意見です」


 ぐ……リフィスまでユイ側につくか。

 なんとなくキィリの方を見ると、諦めろとばかりに首を振られる。

 確かにエマやジールに頼んでも肯定的な反応は期待できない。

 面倒な……そう思っているとメーゼの腕輪が炎を纏い、剣へと姿を変えた。


「じゃ、僭越ナがらココはぼクがー」


 気の抜けるような声と共に一閃。

 俺の首はあっさりと斬り飛ばされ宙に舞った。

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