75.エルハリス――16
「――まぁ、そういう事だカら。確カニ彼女ニは薬を分ケてあげたケど、基本ただノ鎮静剤だよ。ふわぁ……」
「基本?」
「明日カらノ事も考えて魔力生成を助ケる薬もブレンドしたってだケさ。どっちニしても、彼女ノ意識とカ思考ニは関係無いネ」
どうやら寝ていたところを拉致されてきたらしいメーゼが寝惚け眼を擦りながら説明する。
見た感じだと……嘘や隠し事の気配は無いな。
「ぼクカら話せるノはコれクらいだよ。もう帰ってもいいカい?」
「……ああ。好きにしろ」
「おやすみ~」
少し迷ったが、実際これ以上メーゼから得られる情報が無いのなら仕方ない。
渋々頷いて返事の代わりにすると、何かにつけて厄介ごとを引き起こす狂科学者はマイペースに立ち去っていった。
さて……。
「…………」
「ん?」
残る問題はコイツだ。
どうしたものかと見つめると、ユイは何も考えていないような表情で首を傾げた。
「どうやら疑いも解けたようだし、話をする気にはなったか?」
「………………いいだろう。少しくらいなら付き合ってやる」
「そうか。それは何よりだ。ただ……」
「なんだ?」
「今夜は二人で話したい。他の機会なら三人だろうと四人だろうと構わないがな」
「「断る」」
「ほう?」
意味ありげにリフィスへ流し目を向けるユイ。
その言葉に期せずして腹心と声が被ったが、それに対して勇者は煽るようにわざとらしく片眉を上げた。
「四天王最強を名乗り、今や魔王にさえ反旗を翻そうという者がこの期に及んで私と一対一での会話に怖気づくのか?」
「貴様……!」
「お前もだリフィス。それとも主の事が心配か? その力を信用できないというのか?」
「そのような問題ではない!」
「いいや、そういう問題だ。それとも他に理由があるというならば言ってみろ」
「……っ!」
今夜のユイは嫌に口が回るな。
なおも言い返そうとするリフィスを手で制して立ち上がる。
「……リフィス。コイツの言う通りにするのは癪だろうが、今回は抑えろ」
「しかし……!」
「お前がユイを言い負かせるにしても、ここまで煽られて退けるわけにはいかねぇ。それに、何も命の取り合いをするってんじゃないんだ。心配はいらない」
「…………。……畏まりました」
それでもしばらく迷う素振りを見せていたリフィスだが、逡巡を経てゆっくりと頷く。
最後に一度気遣うように俺の方を見てから退室する。
その足音が遠ざかっていくのを感じながら、俺は改めてユイの方へ向き直った。
本来ならこういう展開の時はリフィスか、そうでなくても読心のあるキィリあたりに任せたいもんだが。
まぁ、リフィスにも言ったように今回は戦うわけじゃない。
こちらから何か吹き込む必要があるわけでもない。
それこそ本当に話に付き合うだけだ。
……さっき漏れた言葉からして、どれだけの世迷言を聞く事になるかは分からないが。




