71.エルハリス――12
「んー……結論カら言うと、瞬間的に多めの魔力を注いでやれば分離は可能だネ、多分。ただ……」
「ただ?」
「コれ、核ニしてるのはファリスの素材だカらさ。そコは変えられナい以上、一つ一つの性能は少し落ちると思う」
「ふむ……」
改めて言うほどの事でもないが、今の俺は全力をEマガジンに注いで文字通りのスッカラカンだ。
分離のための魔力を注ぐだけでも簡単には頷けないってのに、前ほど気前よく身体をバラ売りするような真似は論外。
というかそもそも、今の俺の身体じゃ素材としても前ほどパッとしないだろ。物理的に。
だが、この炎武器の優秀さも確かだ。
流石にエマほどには使いこなせないだろうが、性能を考えれば全員……最低でもリフィスには融通してやりたい。本人も割と物欲しそうな視線を送ってる事だしな。
ならば渡した後に特訓する期間もいるだろうし、次に魔力が回復したらそれは炎武器に充てるべきか。
そうすると、その間Eマガジンの方は……。
「……ス……ファリスー?」
「ん、なんだ?」
「何カ考えてたみたいだケど、結論は出たのカい?」
「考え中だ。型落ち品をやるくらいなら妥協するつもりは無いが……ひとまずリフィスには工面してやるとして、だ。Eマガジンの方をどうするかってな」
「じゃあ、そっちは私がやる」
割り込んできた声の主は、いつの間にか近づいてきていたユイだった。
ユイはそっぽを向いたまま、どこか早口気味に言葉を続ける。
「確か、そのEマガジンには魔法の合成って力があったはずだけど。炎以外の属性……それでいて相性がいいのとなれば、風属性か。適性は普通だけど、それでも私なら別の誰かに任せるより強力な魔法を込められるだろうから」
「あ、あの……」
ユイの後ろで控えめに声を上げたのはエマ。
自分から口を開いたのは意外だが、こいつが言いたい事も大体察せられる。
「分かってる。エマも魔法の腕は十分だし、何より今や俺の眷属だ。おまけに素材に俺自身を使った武器まで持ってる。合成を狙うんなら相性は抜群だろう」
「む……」
「まあ、勇者の馬力もあって損は無いだろ。どうしてもって言うなら混ぜてやってもいいぞ」
「…………」
煽るように視線を向けてやると、ユイがあからさまにイラッとしたのが伝わってきた。
予想通りの反応にニヤつきつつ言葉を続ける。
「まぁ二人とも器用なところがあるしな。属性とか必要なところの足並み揃えればうまくいくだろ」
風属性……まぁ、無難に風属性がいいだろうな。
水は論外、地属性も微妙として……後は余裕があれば光属性でも付与すれば十分か。
光と闇をうまく合わせれば相乗効果はかなりのものになるらしいが、光はレミナに任せるとして闇属性のエキスパートは用意しづらい。
ゲーム的にはジールが闇属性の適性持ちだが、コイツは武器の扱いに特化して魔法は補助程度にしか身につけてないからな……。
合成の段で失敗すればその弾は作り直しになるし、ユイやエマに闇を担当させるにしても練習は必須といえる。
そんな事を考えていると、傍に控えていたリフィスが遠慮がちに声を上げた。
「ファリス様。眷属の魔力という事でしたら、私も……」
「炎属性の魔力は俺の分だけで十分だ。お前の火力だと合わせるメリットより純度が下がるデメリットの方が大きい」
「……失礼いたしました」
「だがお前の魔力が誰より馴染むのは間違いない、一の眷属だからな。また別の弾に雷の魔法でも合成させるつもりだ」
「……! 畏まりました!」
フォローを入れてやると、萎れた狐耳が復活して勢いよく立ちあがる。
……結構長く旅したもんだが、コイツのこういうところは変わらないな。




