70.エルハリス――11
……方便とはいえ時間が無いとレミナを急かしておいてなんだが、準備はそう簡単に終わらないらしい。
俺のする事はといえばEに魔法を込める事だけだが、そもそも全力の魔法を一度装填するたび調子を取り戻すために寝込むこと三日間。
弾丸のストック数限界が六発だから、これを後四回繰り返す事になる。
更に込める魔法を合成する必要もあるから、実際にはもっと長期間だ。
とはいえ、それだけの労力を費やす価値はある。
今込めた魔法は俺の「終焉の種火」一発だけだが、それでもこの王都を吹き飛ばすだけの力は持っているはずだ。
「――ふッ」
「この……っ!」
……そうして今。
今日も体力と生命力をギリギリまで削った反動で死に体な俺は、用意したハンモックに横たわりながら仲間の訓練風景を眺めていた。
少し離れたところでは、俺の素材を使って作ったという可変武器を操るエマが聖剣を振るうユイと打ち合っている。
槍で有利な間合いを保とうとするエマにユイが強引に距離を詰めれば即座に武器を双剣に変化させて手数で対抗し、タイミングを見計らっては刀身を分離させて不意を突く。
「いきます……『鷲破一閃』!」
「く――『光衝波』!」
僅かに距離が空いたところで今度は形状を槌に変化させて防御の上からユイを吹き飛ばし、更に弓矢を生成して追撃をかける。
ユイは衝撃波を放って矢に対抗するも、武器を杖に変形させて魔力に補正をかけたエマは今度は魔法で追撃。
そこからは遠距離での魔法合戦が始まる。
その様子はどちらも実戦さながらで、もちろんやり過ぎないよう意識はしているんだろうが手加減の色は一切見受けられない。
勇者と互角に渡り合うとは、流石は「セグリア・サガ」でも最強で知られた[英雄]というべきか。
目にも留まらない武器捌きは、あらゆる得物の扱いに適性を見せるエマだからこそ成しえる業だろう。
というか俺でもあそこまで目まぐるしく武器を持ち替えるような真似は無理だ。
まぁ、俺なら大剣一本で正面から押し切ってみせるがな!
それからも遠距離、近距離、中距離と戦況はせわしなく変化する。
どちらもオールラウンダー故の展開だな。
それに、勇者だからこれくらいやってもらわないと困るってのもあるが、ユイの実力だって確かだ。
流石に単純な手札の数ではエマに劣るが、逆にエマからそれだけの手を引き出すだけの力強さがその一撃一撃には込められている。
「はぁああ!」
「おおおっ!」
やがて戦いは再び接近戦へ。
生半可な魔族なら巻き込まれるだけで骨も残らないような激しい力の応酬の中、ふとユイの剣先がブレる。
「――そこですっ!」
「く、ぅ……!」
明白な隙を見逃す事なくエマの双剣が煌めく。
ユイも少しは耐えたがそこからの流れを覆すには至らない。
ついに剣を弾かれたユイの首元に、エマの持つもう一方の双剣が突き付けられた。
「ここまで、か……やるな。勇者が形無しだ」
「そ、そんな……さっきだって実戦だったら、斬られてたのはわたしの方でした」
「結果は結果、仮定は仮定さ。君の実力は本物だ。頼りにしている」
「は、はい!」
……相変わらず、お前誰だよって感じになるユイ。
いや、俺と話す時の方がおかしいんであって今エマに見せたような顔が本来のアイツなんだろうけどさ。
「はー……別にエマみたいに使いこなせるわけじゃないけど、わたしもあの武器使ってみたいわねー。そういえばメーゼ、あの武器に名前ってあるの?」
「魔型可変兵装壱式……ぼクはマー君って呼んでるケど。そうだね、素材の名前をとって『リファーヴァント』で良いんじゃナいカナ」
「よくねぇ」
隣に持ち込んだ長椅子に座り、ダラけきった様子のメーゼとキィリの会話に割り込む。
っつーか三つも名前を挙げて何一つ碌なもんがないってどういう事だよ。
「まぁ、リファーヴァントの事は今はいいのよ」
「よくないって言ってんだろ」
「アレってファリスの炎武器みたいなものなのよね?」
「うん? まぁ、そうだネ」
「ちょっとした思いつきなのだけれど……炎なら、増やす事が出来るんじゃないかしら」
「ふむ……」
その発想は無かったとばかりに、どこか面白がるように考え込むメーゼ。
ところで……当然のようにスルーしやがったが、武器の名前がアレで決まりとは言わねぇよな?




