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7.復興――3

「待たせて悪かったな。ほら起きろ」

「っつ!?」


 豪胆にも寝ていたレミナ(神官)が、魔力の込められた声にビクリと身を震わせる。

 後の二人(ユイとアズール)は俺が来た時から臨戦態勢だ。

 檻に掛けてた魔法も弱まってきてたし、妥当な時間に来れたっぽいな。

 魔法を解いて檻を開く。俺本人が居る以上、今逃げようとしても無駄だ。


「コレが俺の知るゲーム知識……これから起こり得る情報だ。どれくらい信用できるかは謎だがな。人数分あるが内容は同じだ」

「こんなモノ……っ」

「ああ、割と丈夫だから扱いに神経割く必要はない。フリでも良いから一通り読んだら出してやる」


 案の定ユイ(勇者)が破ろうとするが、その程度で破れるほど柔な付与はしていない。

 自慢の聖剣の前じゃその限りでもないが、ユイは渋々といった様子で読み始める。

 その顔が驚愕に変わっていく様子は中々の見物だったな。


 書いた情報は、例えば優れた装備の入手方法だったり経験値の効率が良い狩場やサブイベントだったりする。

 後はそれなりに強い仲間キャラの所在と、仲間にする為のイベント。

 まあ、俺が狙ってるのとは競合しないようにしてるが。

 アズールがゲームで唯一仲間になる四天王、水将アズルムイトの分体の一つだってこともバラしたんだからリアクションには期待していた。

 最後はゲーム上でのエンディング。

 四天王から奪った、或いは授かった力を聖剣に込めて魔界(エスルグム)に乗り込んで魔王を倒せば大団円。

 四天王を放置すれば瘴気に染まった大陸(セグリア)に魔王が侵攻してきて、戦いの勝敗に関わらずバッドエンド。

 幾つかフラグを立てると四天王を倒していても数年が経過、痺れを切らした魔王が規格外の魔法で大陸を汚染して攻め込んでくるワーストエンド。

 四天王生存+魔王侵攻だと最終的に魔王が俺たち(四天王)喰って大魔王に進化するから、バッドでも十分最悪だが。


「アズールさん、これは……」

「…………ぼくに関しては、事実だ」

「まぁお前らが仲間ってことに変わりはないから気にすんな」

「お前は黙っていろ!」

「生殺与奪を握ってる恩人への態度じゃねぇな」

「巫山戯ているのか?」

「まさか。ああ、お前らが十分強くなったら魔界に行けるように力分けてやるから精々励めよ。時間制限に間に合うようにな」

「………………」


 射殺さんばかりの視線に心が落ち着く。

 ああ、やっぱり忠義なんかより殺気を向けられる方が俺には合ってる。

 俺はそのまま御一行を連行して街を出た。



「……」

「……」

「……どこまで」

「ん?」

「お前はどこまでついてくるつもりだ!」


 城を出てからしばらく歩き続けていると、ユイが激しく指を突きつけてきた。

 レミナは横目にこちらを窺い、アズールは無視して少し後ろを歩いている。


ウチ(スタグバール)を東に抜けてすぐの街の傍に、良い狩場がある」

「余計なお世話だ!」

「おいおい、経験値が多いってことは強力な魔族が多数いるってのと同じだぜ? 勇者の自覚ないのか?」

「ぐ……」

「死なれたら困るし、お前らだけでいけるか確認してやるつもりだけどな」

「過保護かっ」



 そんな調子で歩き続けていると、進行方向に魔族の気配がした。

 ん……? (炎将)のこと知らないのか?

 特に逃げるでもなく魔族も直進。

 魔獣を連れた三体の魔人と出くわしたのは、それから数分後のことだった。


「グ……ケケ……」

「キキッ」


 レベルはどれも十五前後と、下手をすれば一般人にも劣る程度。

 理由もなく敵意剥き出し。人語も解さないようだし、サクッと狩るか。

 だが、魔獣と魔人って異種族で行動を共にしてるってことは――。


「『影斬閃』!」

「あ――」


 ユイが一瞬で魔族を斬り捨て、魔獣の骸を収納魔法で片付ける。

 物言わぬ魔人の身体も次第に崩れていく。

 あの魔族も、眷属にすれば他の奴らみたいに気持ち悪いくらいの忠誠を見せてきたんだろうか。

 そう思うと少し惜しいことをしたような気がした。


 そこからは特に無謀な魔族と遭遇することもなく、数日で目的の街に到着。

 寝不足気味のユイが気にし過ぎなのか、至って健康体のレミナが図太いのかは謎だ。魔族はそもそも上位にもなると、余程弱った時くらいしか睡眠を必要としない。

 即席の使い魔を通じて確認したところによると、大量発生しているのはどれもゲーム知識と一致するタイプの魔獣ばかり。ユイたちでも十分狩れるだろう。


「ここでお別れだな。ユイなんか相当参ってるっぽいし、まずはきちんと休めよ」

「…………んあ?」

「こりゃ本格的に限界みてぇだな」

「ゆ、ユイさん!」


 顔を上げたユイの目が死んでた。

 そのままバランスを崩すユイを慌てて支えるレミナ。

 不安と言えば不安な光景に背を向け――と、一つ忘れるとこだった。

 水将(アズルムイト)を参考に用意した分体を放つ。本体を等分してるようなアズールとは似て非なるもので戦闘力は皆無だが、情報端末として特化している。

 概念としてはスパイ衛星って捉え方が一番近いか。


「ところで、お前らの動向は監視してるからな。どうしてもって言うなら力を貸してやるかもしれねぇぞ」

「あ、ありが――」

「じゃあなッ!」


 憎悪成分はこの数日で十分補給できたし、万が一コイツらにまで感謝されたら調子が狂う。

 言いたいことだけ言って走り去ったから、俺は何も聞いてない。

 ……言葉の途中だったし、セーフだよな?



「シャア――ア゛!?」

「丁度良い、お前で試すか」


 襲い掛かってきた山猫の魔獣を捕まえ、予め俺の魔力に染めておいた場所まで持っていく。

 結果は……幸か不幸か――いや、幸だな。無駄に貧乏性が疼くこともないし。


「ギャウ――」

「なるほどな」


 眷属になっても馬鹿は馬鹿、と。

 変わらず攻撃してくる魔獣を軽く始末。

 眷属化でレベルが多少上がったところで、わざわざ人化を解くような相手でもない。

 さて……本来の目的を果たすべく、俺は改めて街を目指した。

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