69.エルハリス――10
身体を包む光から伝わってくるのは浄化されるような感覚。
散り散りに消えようとする悪意の類を捕まえ、集め直し、俺自身を再構築していく。
計算外と言えば計算外か。
これ、その気になれば第二形態すっ飛ばして死んでた可能性だってあるんじゃないか?
まぁ実際はこうして抵抗未満の意思一つで再生できたわけだが。
第二形態……血色の毛皮を纏う龍の姿となって勇者を見下ろす。
「ファリス……どういうつもりだ!」
「どうもこうも無ぇよ。この決闘の趣旨を忘れたか? それだけ戦えるなら魔界でも足手纏いにはならないだろうし、魔族化を強いはしない。それに、お前だって暴れて少しは気も晴れただろ?」
「気晴らしとかそういう問題じゃないっ。レミナは――」
「アイツは仲間の役に立つため自分で魔族化を選んだ。その選択が客観的に正しい事くらいお前にも分かると思うんだがな」
「ぐ……」
反論は出来ないが納得もしていないみたいな目で睨んでくるユイを軽く鼻で笑ってやり、俺は向きを変えて広場の端へ向かおうとする。
その目前にユイが割り込んできた。
まだ拗ねたような表情は変わらないが、聖剣を収めて俺を見上げてくる。
「なんだ、まだ言う事があるのか?」
「……お前の言い分にも一理ある。…………悪かった」
「やけに素直だな。ようやく少しは成長したか?」
面食らった内心を誤魔化すように憎まれ口が飛び出した。
悪い変化じゃないんだが……調子が狂う。
「じゃあ、俺は作業に移るから。お前らも身体の調子の確認とかは勝手に済ませておくことだ」
意識してユイから意識を逸らし、その身体を軽く飛び越えて今度こそ広場の隅へ。
事前に準備しておいた場はさっきの決闘の影響もあり、この上なく俺の魔力に馴染んでいた。
収納魔法の空間から取り出したEを地面に置き、魔力に意識を集中させる。
「――『煉獄の檻』ッ」
まずは俺の周囲を灼熱の檻で更に区切る。
準備はまだ終わらない。
これから込めるのは俺の最大の一撃なのだから。
俺は炎だ。
魔界に燃え盛っていた時を思い出すように身を解き、周囲の火炎と一体化させていく。
一体の魔族である俺と、根本的に魔法現象に過ぎない炎でそんな事をするのは文字通り命を削る行為に等しい。
だが、引き出せる力にはそれだけの価値がある。
……前世の記憶かに存在した伝説。
世界を滅ぼす炎の物語。
そのきっかけとなる紅蓮の剣は、名をなんと言ったのだったか。
魔力を、そして決戦の時に放たれるカタチをその剣と重ねて強く思い描く。
「終焉の元凶たる灼熱よ。我が命を糧と為し、我が命を至上として器に宿れ。――『終焉の種火』!」
Eマガジンに両手を翳し、俺が引き出せるだけの火力を注ぎ込んでいく。
魔力に留まらず生命力まで際限なく呑み込んでいく器に張り合うようにペースを上げると、意識がふわりと遠ざかるような錯覚に襲われた。
……癪に感じないではないが、その器はまさに底無し。
下手に無理を通そうとすれば魔法自体が著しく劣化の憂き目をみる事になる。
「おっと……」
「ファリス様!」
俺の方が持つギリギリのタイミングを見極め手を引くと、酷い眩暈に襲われ思わずたたらを踏む。
そうか……この図体を維持するのにいつもの魔力じゃ足りるはずもなかったな。
だからと言ってすぐ第一形態に戻れるほど親切なものでもない。
俺は渋々その場に腰を下ろし、ゆっくりと意識を手放した。




