68.エルハリス――9
――その翌朝。
決闘の舞台となる広場には既に見知った顔が集まっていた。
リフィスとレミナ以外に声かけたつもりは無いんだが……キィリにエマ、ジールに加えてメーゼまで端の方に並んでいる。
そこにはシド、アズールの姿も混じっていた。
やがて、初めて会った時さながらの殺気だった様子でユイが現れる。
「遅い到着じゃねぇか勇者サマ? ギャラリーもお待ちかねだぜ?」
「……御託はいい。さっさと構えろ」
「おっと、その前に」
「……?」
低い声でそう告げるユイを手で制し、離れたところに立つレミナを示す。
俺の意図は向こうにも伝わったようで、神官の少女は小さく頷く。
その瞳が、魔族である事を示す紅の色合いを宿した。
「ッ、貴様!?」
「なに、勘違いしてもらっちゃ困るな。俺は少しばかり背中を押しただけさ」
「ふざけるなぁッ!」
そう叫ぶと、激昂したユイは剣を振りかざし突っ込んできた。
……成功、か?
その剣筋には迷いも遠慮もない。
敵に放つのと同じ鋭い剣戟を、生成した炎剣で迎え撃つ。
ちなみに、頭に血が上っているユイは気づいていないようだがレミナの眷属化は目的も含めて他の仲間たちには織り込み済みだ。
まぁ、事後承諾ではあるがな。
「加減はしない――『剛破一閃』!」
「はッ、まだ甘ぇな! 『狼牙連襲』!」
「ッ……」
「どうせ一回殺した程度じゃ俺は死なねぇんだ、遠慮なんかいらねーよ!」
かつて地将ベザンドゥーグにも叩き込まれた力任せの一撃を掬いあげるように跳ね上げ、更に連撃を繋げる。
訓練の時のように対応を遅らせる事なく、どうにか剣で凌ぎながら後退するユイ。
その足が唐突に止まった。
「言われずとも――『影斬閃』ッ」
「っと!」
「逃がすものか! 『光衝波』!」
「く……まだ届かねぇなぁ! 『爆炎波』ッ!」
俺の連撃の隙を的確に突く一撃。
体勢を崩しつつ下がろうとすると、振り抜かれた聖剣から放たれた光の衝撃波が追いすがってくる。
灼熱の波濤で迎え撃つも、干渉した魔力が引き起こした爆発を突っ切ってユイは斬りかかってきた。
――上等だ。
これでこそ勇者。魔王を討つ聖剣の担い手。
そう来ないと面白くない!
「――『魔葬剣』ッ」
「『獅哮烈波』!」
ユイが放つ光の刃と、俺の撃ちだした獅子を模した衝撃波がぶつかり合った。
もはや手加減など微塵もしていない。
俺とユイの二人しか存在していないような世界の中、際限なくギアを上げ、剣と魔法の限りを尽くす。
「どうしたユイ、息が上がってるぞ!」
「はっ……馬鹿を言え! お前こそ、その程度か!」
とうに回数を数える事も放棄した、何度目かの打ち合い。
そろそろ、頃合いか。
またへし折れた炎剣を即座に作り直し、数合の剣戟を交わして示し合わせたように同じタイミングで飛び退る。
本来なら魔法での牽制を行うところだが、今回は違った。
俺の炎剣に、そしてユイの聖剣にこの決闘で最大の魔力が集中する。
「行くぞファリス……! 『神醒撃』ッ!」
「――ま、こんなもんか」
「なっ!?」
同時に動き出し、間にあった距離を瞬く間に縮める。
ユイの斬撃に合わせて俺は魔力を炎剣ごと霧散させ……。
聖剣はもはや止まらず。
勇者の放つ現状で最大の一撃は、俺の身体を容易く消し飛ばした。




