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67.エルハリス――8

「――そういや勇者、お前は魔族化する決心ついたのか?」

「なに?」


 敢えて正面から聞いてやると、ユイは警戒するように目元を険しくした。


魔界(エスルグム)進攻を前にして最後の準備だ。時間はあるが、だからって浪費していいってもんじゃないのは分かるな?」

「馬鹿にするな、それくらい分かる」

「へーぇ?」


 煽るように相槌を打つと、ユイは更に苛立ちの色を濃くする。

 それは構わない。

 相手が何か言うより早く、纏う雰囲気を真剣なものに変えて先んじる。


「俺の仲間は、もう選んだぞ」

「っ……」

「それに、シドの爺さんだって答えを示した。足踏みしてるのはお前ら二人だけだ」

「なら、私は魔族化なんてしない! 人のまま戦ってみせる!」

「人のまま、ねぇ? 一対一(サシ)で上位魔族も打ち倒すような化け物を誰が人間として見るんだか」


 ユイの口をついて出た否定は売り言葉に買い言葉って奴だろう。

 本来はそれなりに理性の働く奴が、感情的になっている。

 ――そこに付け入る隙が生まれる。


「まずは分かり易く整理し直してやろうか。魔族化のメリットは魔界での瘴気を無害化、むしろ力を高める糧に出来る事だ。更に身体能力なんかの基本スペックも跳ね上がる。対するデメリットは聖属性に弱くなる程度」

「…………」

「先に言っておくが、隠し事も無ければ偽りも無い情報だ。その上で改めて聞こう。どこに躊躇う理由がある?」

「そんな力に頼らずとも、私は自力で」

「何言ってんだ。魔王の力は未知数だから最善を尽くそうって時にその発言は状況を理解してないって自白してるようなもんだぞ」

「それに、魔族の身となって聖剣が振るえるかどうか――」

「俺は知ってるぞ。確かゾンビの村だったか? あそこで一度、お前に借りた聖剣をアズールが使ってたのをな」

「な、何故それを!」

「最初に別れる時言ったはずだがな。お前らには監視をつけとくって」


 話が微妙に逸れそうになったところでユイの反論が止まる。

 ……そろそろ頃合いか。

 これ以上頭に血を上らせるよりも、そしてこれ以上冷静さを取り戻すよりも早く話を次の段階に持っていくべきだ。


「まどろっこしいのはこれくらいにしておいて、だ。単刀直入に言って、お前は考えが甘ぇんだよ。いざ魔界に行って足手纏いになったらどうするつもりだ?」

「言わせておけば――!」

「おっと、ここで暴れる意味が無い事くらいは理解できると思ってたが」

「ッ……!」


 さっと距離を詰め、剣に掛けられたユイの手を上から抑える。


「だが、力で話を決めようってのは嫌いじゃない。要するにお前の実力が十分だって示せればいいんだからな」

「何を考えている?」

「おっと……決闘だよ。そうだな、場所は昨日一度集まったあの広場。時間は明日の朝でどうだ。俺を疑うってんならシドやアズールでもギャラリーにつければいい」

「……いいだろう」

「決まりだな。楽しみにしてるぜ?」


 手を振り払われるままに距離を取る。

 殺気の滲む声で低く応えたユイに軽く手を振り、俺はその場を立ち去った。


 アズール関連の問題で合流してからというもの、俺との手合わせの時に限っての話だがユイの不調は続いていた。

 ここまで話を持って行って叩き潰せば魔族化をこれ以上拒む事も無いだろうって計算に加え、どう話が転ぶにしてもここで不安の種は除いておきたいって思惑もある。

 それにおまけ程度ではあるが、仮にも勇者と本気の試合をすれば相応の魔力を使う事になる。

 位置取りが良い感じになるよう立ち回ればE(エレメンタル)バレットに魔法を込める時も悪い影響は出ないはずだ。


 ただ……時間を置いて、ユイに必要以上に冷静になられても面倒だな。

 一つ保険をかけておくとするか。

 俺は以前ユイたちの監視に使っていたのと同じ分体を生み出し、先ほど後にしたばかりの公園上空へと飛び立たせた。


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