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63.エルハリス――4

「ん? これは……」

「ああ、それカ。使えそうカい、ファリス?」

「いや全く。何だこれは?」


 手に取ったその刀は、驚くほど手に馴染まなかった。

 相性によっては武器ってものはえらく馴染むものらしいが、今感じたのは話に聞くようなそれと真逆の感覚。

 なんというか……手に力を入れて握りしめても安定しない。触れられる事そのものを刀が拒んでいるようにさえ感じる。

 俺も武器にはそこまで拘る方じゃないが、それでもコイツに命を預けるのは無理だ。そう断言できるレベルだった。


 メーゼの説明によると、これはEマガジンを作るときに出た廃材を何かに使えないかと適当に組み合わせた素材で作ったらしい。

 それは刀鍛冶か何かの仕事じゃないかとも思うが、まぁ今更なのでそこには突っ込まない。名店も顔負けの刀剣をこれまで何本も生み出してきたメーゼはそっちのスキルも凄まじいんだろうと適当に納得する。


「ぼクが調べた範囲で説明するナら、最大ノ原因はミスリルニあるみたいだネ」

「ミスリルに? だがそれなら魔力には反応するんじゃねぇか?」

「うーん……ミスリルとは別物と考えた方が分カり易いカもネ。どうも作業ノ中で変質して、一切の魔力と反発するようニナったらしいんだよ。仮にオリハルこンとでも呼ぶコとにしようカナ」

「オリハルコン、ねぇ……」


 試しに軽く生み出した火の粉を、次いで火球をその刀にぶつけてみる。

 火球については並の剣くらいならダメにするくらいの力を込めたが、刀は容易く打ち消した。

 使いこなせれば面白い戦力になりそうなもんだが。


「おい、シド。お前なら使えるんじゃないか?」


 名高い[闘神]ならこの刀も扱えるかもしれない、そう考え刀を手渡す。

 が……結果はシドが刀の柄に手を触れた瞬間に分かった。

 表情を厳しくしたシドだが、一応刀を受け取り軽く握る動作を繰り返す。

 それから重々しく首を横に振り刀を手放した。


「残念だが。その剣、無理に武器として使えば災いを招くだろう」

「まぁそうなるよな……エマはどうだ?」

「うーん…………済みません、これを握っていては魔法の方にも影響が出るかと」


 [闘神]に次いでゲーム中最強と謳われた少女も匙を投げる。

 言われてみればエマに関しちゃ戦闘スタイルとも合わないのは当然ともいえるか。


「だが、剣としての性能は高いんだよな」

「そうだネ。正直今まで見てキた中じゃ一番と言ってもいい」


 未練がましい呟きにメーゼも頷く。

 まぁ、だからこそ廃材を素材にしたガラクタがこうして残ってるわけだが。

 一応他の連中にも持たせてみるが、エマと同じく魔法を組み合わせた戦闘スタイルを取る面子は軒並み全滅。

 魔法に特化したレミナにも持たせてみたが当然アウト。そもそもコイツは剣が装備できてもマトモに扱えないだろう。


「――えっと……これ、一応貰ってもいいかな」


 そんな中、一人だけ違う反応を示した者がいる。ジールだ。


「最初も言ったようニ所詮はガラクタだカらね、好キニしていいよ。ただ、無理して使うのはお勧めしナいケど」

「分かってる。そうじゃなくて……なんだか、あと少しでコツを掴めそうな気がするんだ」


 本人はなんとなくやれそうみたいな顔をしてるが、その感想をどこまで信じたものか。しばらくは多少気を付けておく必要があるな。


「じゃあ、気を取り直して次ニ行コうカ! ラスト、割と傑作ナ一品だよ!」

「……なんだこれは?」


 幾つかの机を通り過ぎた先にあったのは赤い塊。

 取っ手らしきものこそついているが、本当に拳より一回り大きいくらいの材質不明の塊だった。

 もう少し表現するならまるで炎のような赤色と言えるだろうが、それくらいだ。

 これが傑作って事は武器じゃないのか形でも変わるのか……。

 疑わしい視線を送るとメーゼは自らそれを手に取った。


「コっちは専門じゃナいし、あまり上手にはでキナいケど……」


 そう言いながらメーゼが魔力を込めると、その塊は命を宿したように脈動した。

 直後に塊は炎となって解け、長剣へと再構成される。

 俺たちが見ている前で大剣、弓矢、槍、斧とそれは次々に形を変えていった。

 最後にその装備の形状を籠手に変化させ、手から外すメーゼ。


「思えば最初はコの形で見せれば良カったネ」

「今のが傑作ってか? そりゃ形が変わる武器は割と便利だろうが……」

「そう慌てずニ思い出してみてよ。完全ニ素人ノぼクが扱ってアレだって事を」


 微妙にイラっとくる表情で指をチッチッと振るメーゼに軽く拳骨を落としつつ、籠手の形で机に置かれていたそれを手に嵌めてみる。

 ふむ……なんていうか、普段俺が魔力で武器を作ってるのと一緒だな。魔力をほとんど使わなくても本腰入れて作った時と同じ強度の武器になるのは利点だが、俺からすれば微々たるものか。


「む、不満そうナ顔だネ……だってそれ、ファリスの素材で作った武器だし。キミ以外ノ人が使うノ前提だし」

「その観点で俺の作る武器相当の装備を常に準備できると考えれば確かに傑作……なのか?」

「そういうコと」


 頷くメーゼ。

 なんか最後の武器の感想が微妙な感じになったが、E(エレメンタル)マガジン一つでも成果としては十分か。

 後はどう使うか、だな。

 早速そんな事を考えながら俺たちはメーゼの研究室を後にした。


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