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53.ヘムズル高原

 油断なくシド(闘神)を見据えたまま、先ほどの交錯で実戦ならば斬られていたであろう首筋に手をやる。

 …………。

 向かい合って剣を構えるシドからは一片の隙も見いだせない。仕掛けてこないのは反撃を狙っているのか、単に俺の出方を窺っているだけなのか。


「……ま、このへんでいいか。実戦ならさっきで終わってるわけだしな」


 そう言って剣を消す。

 そのまま下がると、シドもまた構えを解いて剣を収めた。


 さて……と。

 勇者ご一行の大体の戦力は掴めた。今回の目的は果たせたとみていいか。

 肝心のユイ(勇者)が微妙な感じではあるが、それを十二分に補えるレベルでシドの実力が高かった。名高い[闘神]ならこれくらいやって貰わないとってのもあるが、期待以上だったのは確かだ。なんならコイツを味方に引き入れられたって一点で今の方針は悪くなかったとさえ言える。

 エマたちの育成的な方向での利用方法は後で寝る時にでも考えればいいか。


「時間も丁度いい、この辺でお開きとするか」

「畏まりました」

「……そうね。私は休ませてもらうわ」


 小さく頷くとユイは自分のテントに引っ込んでいく。それに従うようにレミナたちも続き、俺たちもまた自分のテントに戻った。

 交代に見張り番を立てて翌日。

 特に何かが起きる事もなく進み続け、目的地……地将ベザンドゥーグの支配する地を目指す。

 そうして昼の休憩のために足を止めた時のこと。


「――あいつら、相変わらず粗末な飯だな」

「あの、わたしが呼んできましょうか?」

「はっ?」


 思いがけないエマの言葉に間抜けな声が漏れる。

 俺は奴らの杜撰なプライベートを嘲笑っただけだ。それがどうしてそうなる?

 視界の端にキィリが呆れたようなため息を吐いたのが見えた。時々見せる妙な表情ではなく、単純な呆れの表情だ。お前ら、なんだその反応は。

 憮然としている俺に構わず立ち上がったキィリがリフィスに目配せをする。


「私が行ってきます。エマさんはまだ食事の途中でしょう?」

「あ、はい……」


 気軽にユイたちの方へ歩いていくキィリとリフィス。

 アズルムイトと戦う時同席していた二人だ、正直向こうからすれば胡散臭いだろう。

 実際、二人が近づいていくとユイは食事の手を止め、怪しむような視線を向けた。

 先に口を開いたのはレミナ。


「貴女方は……」

「ファリス様はお前たちの貧相な食事が見るに堪えないと仰せだ。こちらの余剰分をくれてやる」

「別に恩に着せるつもりはないわ。一応共闘するわけだし、親睦を深めると思って乗ってくれない?」


 あー……リフィスの態度がアレなのはまぁ仕方ないか。元から身内以外には態度が硬くなる性分ってのもあるが、確かあいつファーストコンタクトで当時の勇者一行にのされてるからな。

 っつーか二人とも好き勝手言いやがって。俺はそんな事微塵も考えちゃいねーぞ?

 半眼で睨んでいると、振り返ったキィリが謎のドヤ顔でウィンクしてきた。

 ……いや、だからどういう意味だよ。


「――では、相伴にあずかるとしようか」


 手元の干し肉を口に放り込み、あっさり立ち上がったのはシド。それに続く形でレミナもこちらにやってくる。

 残されたアズールとユイは困ったように視線を交わし……躊躇いの残る足取りながらこっちに向かってきた。


 確かに量の方は問題ない。むしろ俺たち五人で片づけるには少し多いくらいだ。

 ……リフィスの奴、最初からある程度狙ってたか?


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