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51.ウベ荒地――4

「――おいおい、ここまで言われてその程度か?」

「っ……!」


 大剣を適当に振るい一撃。

 スキルも何も乗っていない大振りの一発にユイはギリギリで反応。何とか剣を滑り込ませて防ぐも、そのまま小さく吹き飛ばされる。


 駄目だな……これは話にならない。水将と戦ってたときの勇者はどこに行った。

 注意力が散漫というか、とにかく動きの一つ一つが遅い。そのうえ力も碌に込められていないとあっては、エマと戦っても普通に負けるんじゃないか?

 ったく……この不確定要素はどこまでも人の思惑を裏切ってくれる。

 煽ってやっても今一つ響かねぇし、このまま続けても意味はないな。炎剣を消して大げさにため息をつく。


「あー、やめだやめ。こんなんやってられっか」

「く……!」


 なおも剣を構える勇者の足元を爆破。攻撃って程のものでもないが、爆風で強制的に下がらせる。


「こんなんじゃ俺も消化不良だな……折角だし[闘神]サマに一戦願うとするか」

「…………」


 ……。

 …………ん?

 返事が無い。爺さんがいるはずの方向に視線をやると、他の連中と交ざって普通に立っている。


「…………」

「……シカトか。いい度胸してるじゃねぇか」

「ま、待て。おそらくシドは寝ているだけ――」

「余計に悪ぃんだよ! 『血赤の追牙(レッドアサルト)』!」


 なんだか久しぶりに、ストレートにイラッときた気がする。

 立ったまま居眠りこいてるらしい爺さんへ照準、触れればかなり熱いように作った即席の炎獣を放つ。

 まさか[闘神]がショック死なんてダッセぇ最期は迎えないだろう。ほえ面かかせてやろうと差し向けた炎獣の数は五体。それが全方向から同時に襲い掛かり――。

 ――一瞬で、蹴散らされた。

 何条かの軌跡が閃いたが、シドの剣は既に鞘に収まっている。

 スキルの類を使ったわけではない。純粋に技量と速度によって成された技だ。

 適当に作ったとはいえ……いや、たとえ本気で作っていても炎獣程度が適うものではないか。


「よぉ爺さん、お目覚めか?」

「…………」


 これでまたシカトだったら今度は俺自身が斬りかかってたところだが、一応その視線はこちらを向いた。


「ちょうどいい機会だ、お前の実力がどの程度か直接測っておきたい。剣を抜きな」

「……断る」

「悪いが拒否権は無ぇよ。来ないって言うならこっちから行くぜ!」


 言うが早いか、生成した炎剣を振りかぶり突っ込む。

 間合いに入った。その首へ真っ直ぐに剣を振るうが、[闘神]は動こうとしない。

 本当に殺るわけにもいかねぇし、爺さんが意地でも動かないってんなら俺には寸止めして剣を引くくらいしかできない。

 ったく、気に入らねぇ……内心でそう吐き捨て、剣を止めようとした時だった。

 その手が霞むような速度で動き、引き出された刃が炎剣を受け止める。


「……仕方あるまい。相手になろう」

「お? そうだ、そう来なくっちゃ面白くねぇ!」


 口の端が吊り上がるのを自覚しつつ肉薄。

 一度停止した大剣にその勢いを乗せ、力任せに押し切ろうとする。


「――『歳羽』」

「むっ……?」


 [闘神]が何事か呟く。

 剣から伝わっていた手応えが消え、目の前のシドの姿も突然にぼやける。瞬時にその気配を探ると、相手は既に俺の背後へ回り込んでいた。

 スキルか? だが、その詳細まで悠長に考察している暇はない。


「やってくれる――!」


 空振った剣を更に振り回し後方を薙ぐ。身を捻って勢いを保ち、スキル「風貫絶破」で突進する。

 それ自体は軽く受け流されたが、相手の位置さえ把握できていれば問題ない。

 剣を構えるシドの姿を正面に捉え、俺もまた大剣の纏う炎を強くした。


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