50.ウベ荒地――3
済みません、微妙に遅れましたorz
渾身の疾走。まだスキルは使わない。
特有の光が現れないのを疑問に思ったか、アズールの目が訝し気に細められる。
集中の高まりからか、どこか引き延ばされたような時間の中で両者の距離は詰まっていく。
そして大剣の間合い。自らの得物を振るう俺に反応し、微妙に構えを変えていくアズール。
長剣の間合い。俺の攻撃の軌道に対し最適の角度から正確な軌道でアズールの刃が動き出す。
その刀身が光を纏う瞬間、俺も短く詠唱を口にする。
「『蒼――』」
「――『鏡界巡』」
「っ……!?」
驚愕に目を見張るアズールの前で俺の身体がブレる。一瞬で滑るように移動した俺は、無防備なその背後に向かって変わらぬ勢いで大剣を振るう。
「アズール――!」
少し離れていたユイが腰を上げるのをリフィスが制する。
そんなに心配しなくても、こんなところで味方を殺るような真似はしないっての……ま、そう思われんのも当然だが。むしろ妙に善人扱いされるよりよほど落ち着く評価だ。
「……!」
「勝負アリ、だな」
俺の剣は微妙に軌道を逸らし、アズールの横の地面を深々と抉っていた。
剣を消して離れるとアズールも力を抜いて立ち上がり、非難するように俺の方を睨む。
「……戦いの場で、馬鹿正直に正々堂々などという言葉を振りかざすつもりはない。だが……!」
「分かってんなら良いじゃねーか。悪ぃが俺は負けず嫌いだからな」
「く……」
「ってかさ、俺が単純な力比べで勝てるかよ。お前ちょっと自分の身体見てみろ」
「なに……?」
言われて初めて奴は自分の身の変化に気付いたようだ。
それは若干透けた身体……完全にとはいかないが、精霊化している。
第二形態の力の割合が増してきてるって感じか。見ているうちにその現象は収まっていき、割とすぐその姿は元に戻った。
「強いのは結構だが……それ、デメリットは無ぇのか? お前と俺じゃ微妙に事情が違うからな、一応聞いておきたい」
言いながら密かにキィリの方へ視線を送る。
ま、本当のところは後で場所を移してから聞くとするか。
「とにかく、アズールについちゃ今はこれで十分だろ」
「そうだな」
「あと見るとすれば……」
観戦していた連中の方へ視線を送る。
個人的には結構シドの力ってのをよく見ておきたい気もするが……機会はこれから適当に作ればいいか。なんか気を抜くと一撃で葬られそうな気もするが、まぁ大丈夫だろう。最悪第二形態になれば力押しに潰せるという目算はある。
今見ておくべきはユイが順当なところか。レミナは補助タイプだし、援護が受けられたら助かるのかもしれないが正直どうでもいい。
人間的には篭絡しやすそうだし、その辺りは根っからの善人なエマやジールに任せておけば何かの役に立つかもしれないな。
「まだ時間はあるし……そうだな、ユイの実力も見ておくか」
「では僭越ながら、私が相手役を……」
「いや、やめておけ。仮にも向こうからすれば怨敵だ、お前に何かあったら困る」
「ファリス様……!」
んー……別に俺が続けて相手をするんでも余力的には何の問題も無いんだが……ユイが何を考えているのか、今一つ読み切れていないところがあるからな。
キィリの読心はまぁオマケ程度に考えるとして、俺自身の洞察力でもよく分からないとなるとリスクは避けたい。
ユイと爺さんを訓練の見学とかいう名目でぶつけるって案もあるが、それだと今度は味方同士の馴れ合いになって実力を見切れない可能性もある。それでは面白みがない。
アイツから本気を引き出そうと思えば……面子的には俺、ギリギリでリフィスが入るかどうかってとこか。
俺には第二形態があるが向こうには聖剣がある。こんなところで修正力云々に殺されちゃ笑い話にもならない。
利害を天秤に乗せて比べること少し。
……ま、いいか。多少のリスクに怯んでちゃリファーヴァントの名が廃る。
「――そうだな。まだ余裕はあるし、俺が相手になってやるよ」
「お前が……」
「し、しかしファリス様!」
「言いたい事は分かるが、俺はそう簡単に死にやしねぇよ。お前も見ただろ?」
言外に第二形態の事を仄めかす。
デメリットについては……知らせる必要も無いか。忠言諫言の類は十分聞いてる。これ以上増やす必要はない。
「時間はあるっつっても無限じゃねぇんだ、さっさと始めるぞ。アズール、お前も下がってろ」
アズールを手で粗雑に追い払う。
ユイは入れ替わりに、何か迷うような表情で剣を構えた。




