5.復興
「大人しく従うなら安全は保証する。だが、歯向かうなら……その限りじゃ無ぇぞ?」
「ヒッ、ヒィィイ――ィゴふっ!?」
「お、今の良かったぞ。お前には名前をやろう。そうだな、モーヴなんてどうだ?」
「アりがタき幸せ!」
パニックになった男を近くにいた魔獣が気絶させる。
名前はそいつが牛の魔獣だったから決まったが、どこか脇役っぽくなった。
不完全とはいえ人語使うとは、意外にやるじゃねぇか。
そんな感じで暇を潰しながら待つことしばらく、街中の人間が無事に集まった。
俺ってこんなに気ぃ長かったか? 前世の記憶に人格まで浸食されてるのかもしれない。
まあ構わんが。どっちも俺だし。
「おう、随分みすぼらしいザマだな人間共? 流石に哀れだしな、これからは真面目に統治してやるよ。大人しく従うなら悪いようにはしねぇ」
あくまで上から、慈悲を突きつける。
呆気にとられていた人間たちは遅れてざわつき始めた。当然友好的なものじゃないが、敵意というほどのものも無い。
表立って逆らうような奴らは始末してるし、もうコイツらの心は折れてる。従えるのは容易い。
これもゲームと一致するが、勇者に討伐されるまで四天王はそれぞれ独自に動く。勇者が訪れた時は大人しく拠点で待ってるが。
例えば風将は瘴気を撒き散らし大陸を汚染。地将は根を張って自らを強化。水将は分身して人間を観察。そして炎将は、国中の抵抗勢力の虐殺。
――と、今は統治だ。ただ……俺にまともな統治技術なんて無いんだよな。
前世の本とかいう又聞きみたいな知識だが、とにかくやってみるか。
「もう俺の魔族に人間は襲わせない。勿論お前らが何もしなければの話だが……そうだな、一つデモンストレーションでもやるか。雑貨屋のラナはいるな?」
「…………、はい」
お? 見つけるより早く名乗り出たか。
それより、隣にいる眼鏡の男は……確かラネル。
ゲームで勇者の仲間になるキャラの一人で、放っておいたら王を失ったこの国の指導者の一人になる奴だ。
「事情を説明しておくと、コイツは馬鹿な魔族に絡まれてた被害者だ。よって補償する。今回は演出も込みだから少し大げさにな」
「あ、ありがとうございます」
「お前らの中にはもっと被害を受けた奴もいるだろうが、補償が適応されるのはこれからに限る。ラナは運が良かったくらいに思っておけ。ああ、人間同士の理由無い争いも禁止だ」
金貨一枚をラナに与えて下がらせる。
他に見知った顔はいないか。
この街で会えたのは顔無しのNPCか時系列的に後から訪れる流れ者くらいだしな。
「後、ラナの隣にいる眼鏡のお前」
「……!」
「お前が優秀なのは知ってる。他の奴らより優遇してやるから政務手伝え。拒否権は無いからこっち来い」
「…………分かりました」
「じゃあお前らは解散。街も俺たちが復興させてやるから大人しくしてろ」
魔力を乗せた命令に、人間はのろのろと散り始める。
……いや、一人残ってる奴がいるな。
ラナだ。雑貨屋にもう一人いた女が腕を引っ張っているが――と、こっちを見た。
「政務なら、私にも手伝わせて頂けませんか。そこの兄一人よりは良いはずです」
豪胆なのは結構にせよ、些か自己主張が強いな。まだ許容範囲だが。
というかラネルに妹なんていたっけか?
そういえば……いたような気もする。印象に残ってないのはゲームで目立たなかったからだ。
確か、特定の時期に殺されてたな。強制サブイベントで、主人公の介入する余地も無かった。
「ラナ!」
「いや、構わん。他に使える人材がいるなら連れてきても良いくらいだ」
「そちらの当ては……無い、ですね」
「そうか。早速仕事だ、城に戻るぞ。そこの女は自分の家に帰れ」
「ラネル、ラナ……!」
「母さん、私たちなら大丈夫だから」
とりあえず建物の整理だけ魔族に指示し、俺とリフィルは二人を連れて城に戻った。
「最初に言っておくか。この国を動かすにあたって俺たち四人は対等だ、遠慮はいらない。俺に敵対しない限りな」
「分かりました」
「…………」
「ああ、対等でもリフィスが俺を立ててくれるのは分かってるから」
「…………!」
「お前ら、政務の心得はあるか?」
「いえ……」
「私たちは一介の雑貨屋ですから」
「だよな。まあ他所から借りてくるわけにもいかねぇし、適当にやっていくか」
にしても軽くおだてるだけでリフィスには効果抜群だな。
いざって時用に本気の賞賛も用意してあるが、一歩間違えたら昇天するんじゃないか?
放心してるリフィスの紹介をしながら宝物庫まで移動する。
「ここは俺が来た時から手付かずだ。財源には十分な量だろ?」
「そうですね」
「さて、具体的にはどうする? 街の形さえ整えば後は皆勝手に働きだすと思うんだが」
頷くラネルの横で、ラナが何か言いたそうにしている。
「えっと……」
「どうした?」
「確認したいのですが、食糧の類は何処に?」
「無いぞ?」
「え……じゃあ、あなたたちは……?」
「魔力さえあれば、別にお前らみたく一日に何度も飯食う必要は――あ」
「こ、このままじゃ皆飢えて死んでしまいますよ!」
「いや、だけどだな。お前らなんだかんだで今まで生きてきただろ」
「それは蓄えが残っていたり、魔獣を狩ったりしていたからです! 畑ももうありませんし……!」
「悪い、今まで食糧になってた魔獣とか全部……燃やした」
「――――!」
倒れそうになった二人をリフィスと支える。
そうか、食糧問題って結構切実なんだな。
「じゃあ買い出しに行ってくる。何か希望はあるか?」
「いえ、間に合うとは――」
「おいおい、俺を誰だと思ってるんだ? 日帰りだとしても国の一つや二つは十分に射程圏内だぜ」
「それでは果物と肉類をありったけお願いします」
「任せろ。ああ、リフィスはコイツらを手伝って料理の準備でもしててくれ」
それだけ言い残して、俺は窓から飛び出した。
五話ほどかけてちまちま復興していきます。