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49.ウベ荒地――2

「では、こちらからも行かせてもらうぞ……!」

「上等だ、そうこなくっちゃ面白くねぇ!」


 アズールの手に逆巻く水は、普段こいつが使っているのと同じ細身の長剣を形作った。

 だが……纏った魔力の量は馬鹿にならない。並の亡霊なら近寄る事さえ許さず消し去るだろう。耳を澄ませば微かに、何かが共鳴するような高音も聞こえる。


 今のアズールを見る分には、魔人状態の俺の魔力量も上回っているらしい。それは事実だ。

 しかし、俺にもかつて四天王最強を誇っていた自負がある。そう簡単に押し負けるのは気分が悪い。

 対抗するように炎剣に込める魔力を増やす。

 剣の纏う炎はアズールなんぞ目じゃないレベルで燃え盛り……なんか違うな。奴のような鋭さは感じられない。まぁ武器のフォルムからして大剣と長剣だ、差が出てくるのも当然と言えば当然か。


「――『風貫絶破』!」

「『獅哮烈波』ッ」


 突進の速度を乗せた強烈な刺突は、獅子を模った斬撃を危なげなく貫いてきた。

 幾分か勢いの衰えた攻撃を返す刃で受け止め、力任せに吹き飛ばそうとするも……激しく反発する魔力がそれを拒む。

 急速に失われていく魔力。その消耗戦を先に投げたのは俺の方だった。


「チ――」

「甘い!」

「喰らうかッ」


 長剣を受け流し、その勢いを乗せて振り回した大剣の一撃。だが、即座に得物を引き戻したアズールの迎撃の方が速い。

 俺の大剣を掻い潜るように迫る切っ先を――大剣から放した左手で殴りつける。刃を打ち合わせた時とは比べ物にならない衝撃が腕に走るも、逸らした刀身は頬を浅く掠めるに留まった。

 更に肉薄しようとするも、そこは得物が軽いぶん身のこなしに分のあるアズールが先に距離を置いた。


 痺れの残る左腕を軽く振りつつ、油断なくアズールの様子を窺う。

 魔力の昂ぶりに呼応して、その身体は透けるように――ん?

 違和感に目を凝らす。

 改めて見ると微かに……本当に微かにだが、確かに透けている身体。そして曖昧にぼやけつつある輪郭。

 まるで成仏寸前の幽霊のようなザマだが、それを形容する表現がもう一つある。

 そう――精霊か何かのような姿。


 その身体はまだまだ実態を留めている。

 理由は分からないが、現象だけ推察するならば第二形態の特徴が漏れ出しているってところだろうか。


「おおおッ!」

「ふッ――」


 確かめるべく突っ込み、更に剣戟を重ねる。

 戦えば戦うほどに高まっていく魔力。単なる魔人以上の力を引き出しているのは間違いない。

 さしずめ一.五……いや、一.二形態とでも呼ぶか。

 第二形態に比べればまだまだ貧相な――しかし絶対的に見ればかなりの魔力がもたらす力。

 一撃一撃が砲弾のように重い長剣の連撃に、なんとか食い下がっていく。


「どうしたリファー――ファリス! 息が上がっているぞ」

「ッ……うっせぇ! 余計なお世話、だっ!」


 偽名も忘れかけるとか……興奮し過ぎだろ。調子に乗りやがって!

 渾身の一撃とはいえ、スキルも乗っていない大剣程度では忌々しい事にアズールはビクともしない。

 素の攻撃は全て陽動と割り切り、僅かな隙を突いてスキルによるダメージを蓄積させていく。


「――『拳爆』ッ」

「くっ!?」


 がら空きになった顔面に爆発する拳打を叩き込んだはずだったが、咄嗟に割り込ませた長剣が直撃を阻む。

 更に連撃を繋いだ膝蹴りは正中線を守っていた刀身に防がれた。

 反動を利用して大きく距離を開け、炎剣を腰溜めに構える。


「――流石にこの一発、涼しい顔じゃ受けれねぇだろ。だが、逃げるか?」

「まさか。その驕り諸共打ち破ってくれる」


 挑発すると、アズールはそう応えて自らも剣を構え直した。

 これで避けられる心配は無くなったな。

 後は……叩き潰すだけだ。


「来いっ」

「言われるまでもねぇ――!」


 魔力はもちろんのこと全身のバネを使い、俺は初速からトップスピードに乗せてアズールへと突っ込んだ。


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