47.クロク平原――2
「――おい」
「…………」
「無視するなよ。つれねぇな」
「……なんだ」
やがて食事が終わった後。
しつこく声をかけると、ユイは凄く嫌そうな顔をした。
「風将を倒し、炎将はまぁ良いとして水将アズルムイトも倒した。これからどうするつもりだ?」
「…………」
「ベザンドゥーグを倒しに行く、とは言わねぇんだな」
「…………」
返事はない。
それなりに整った顔を悔しそうに歪めると、ユイは視線を逸らす。
……そこで、だ。
種隷……地将の手駒にされた哀れな人間の話をしてやった。最初に渡した資料にも簡単な事情は書いておいたから、それを思い出させる程度にな。
「――犠牲者は今も増えてる。勇者サマは足踏みしてそいつらを見捨てるっていうのか?」
「っ……!」
ギリ、と歯を食いしばるユイ。
レミナが代わって前に出ようとしたが、それを片手で制し、自分で俺に向き直る。
「なら、どうしろって言うのよ! 私にそいつが倒せるっていうならとっくに行ってる!」
「っと……」
その激情は、これまで俺に向けられていた鬱屈とした感情を爆発させたようだった。
装っていた口調さえ保てなくなった叫びを、肩をすくめて軽く受け流す。
少しいじめ過ぎたか。反省はしてないが。
……そんな事を考えるとキィリに無言で後頭部を殴られた。ぴくりと反応したリフィスを宥めて話を続ける。
「悪かったって。こう見えて俺も割と焦ってるんだ、時間制限が見えないからな」
「……時間制限?」
「お前らも気づいてるだろ? データと現実でのイベントのずれに。そのせいで時間が……魔王が動き出すまでどれくらいかが不明瞭になってる。戦力だって思ったほどの数は揃えられない」
「…………」
「っつーわけで、計画は巻いて進めてかなきゃならねぇんだ。肝心のお前が泣き言並べてちゃ困るんだよ」
「…………」
「――リファーヴァント。お前は、どうするつもりだ」
ふと、それまで沈黙を保っていたシドが口を開いた。
チッ……この爺さん、斬り込んで来やがるな。
まぁこれだけ言っといて俺が何も言えないんじゃ格好がつかない。途端に重くなる口をどうにか動かして答える。
「あー……アレだ。今も言ったが、計画は巻きで進めていきたい。それに、四天王を倒せばレベルだって上がる。手っ取り早い戦力増強だ」
「結局なにが言いたいのよ」
「っ……だから! こっからは俺も手ぇ貸してやるってんだよ!」
キィリはキィリでまた絶妙なタイミングで口を挟みやがって!
じろりと睨んでやると、読心能力を持つ少女は素知らぬ顔で首を傾げる。
……まぁ今はいい。それよりも、だ。
どこか気まずい思いを抱えながらユイに視線を戻す。
勇者は……意外と素直に頷いた。
「……分かった。断る理由はない」
「へぇ、そこは突っぱねてこねぇか」
俺に殺された仲間の事は忘れるのか……とか。
もう少しその辺をつついてみたい気もしたが、これ以上話を拗らせるのは得策じゃないと判断して自重する。
だからキィリはその抓ってる手を放してくれてもいいと思うんだが?
それはさておき。
「一応フォローしといてやると、お前らも無力ってわけじゃねぇよ。アズールが抜けた状態で四天王の第二形態を相手にアレなら、及第点くらいはやってもいい」
「……炎将が世辞か?」
「まさか。アタッカーとして見るなら動きも悪くなかったし、あのスキル……『聖殲』だったか? いや、そもそも聖剣がある時点で最低限の攻撃力は満たしてる」
「なら……何が足りない?」
「さぁな。さっきの戦いで言うなら肉壁……おっと、とにかく被害を抑える要員だな。だが、その穴は埋まっただろ?」
「せめて仲間って言いなさいよ」
「あー、仲間仲間。それだな。それで、だ。何か足りないものはあるか、あるとして何か。それを確かめに地将を狩ろうぜって話だ。簡単だろ?」
キィリのツッコミをいい加減に流し、俺は何食わぬ顔でそう言ってのけた。




